「カーネーション」さらば、オノマチ糸子

ついに迎えた最終回……じゃなかった、“オノマチネーション”最終日。
だんじりで始まったドラマ「カーネーション」の尾野真千子の締めもやっぱりだんじり。
勢いよく法被を羽織るイナセな直子が頼もしい。
小さい頃の糸子の夢はだんじりの大工方だったのを思い出す。

ジョニーが東京から来た。
原宿の直子のブティックで出会った新進女優の白川ナナコとつきあい始めた模様。
しかし、いつものかかとの高いブーツを履いていないと世間に気づかれないジョニーってそりゃあんまりだ。しかもナナコは見つかって商店街がちょっとした騒ぎになってるし。

優子と直子の恩師・ハラグチ先生も来た。
パリから源太が帰ってきて、直子の同期男子三人組も岸和田に揃った。

いつものように北村も来て、ご近所さんと一緒に酒を飲んでいる。
サエもジョニー目当ての綺麗どころを引き連れてきた。

もちろん木岡夫妻も木之元夫妻も八重子もいる。
珍しく組合長も来ている。
小さい子ども達もたくさんやってきたが、あまりにも増え過ぎて糸子にはどれがどこの子やらもうわからない賑やかさだ。

これだけ懐かしい顔が小原家に勢揃いしているというのに、ロンドンに旅立ったままの聡子はだんじりに電話で参加。
だんじりのお囃子を聞かせてやる直子。受話器から漏れるしくしく泣く声。
聡子、最後の最後まで切ない。

千代の認知症はゆるやかに進行している。
家から出ていった千代を探す糸子と昌子。見つからない。一体どこへ行ってしまったのか。
そこへ千代を抱きかかえるようにして連れてくる恵。
「もう! お母ちゃんどこ行っちゃあったんよ!」と怒鳴りつける糸子。

「ようさんお客さんいてんのに、お父ちゃんおらんよって、どこ行ってしもたんやろ…」。
千代は宴席に夫・善作がいないのを心配して探しにいったのだった。
「お母ちゃん! お父ちゃんはもうとっくになあ…」思わずまた大きな声を出す糸子。

しかし、それをさえぎって恵は柔らかい声音で言うのだ。
「お父ちゃん、『どこぞに挨拶してくる』ちゅうてましたで」。

宴会が大好きなお父ちゃんがこんな日に外に出かけるのはちょっと腑に落ちないけれど恵さんが言うならきっとそうなのだろう、といった風な顔で「はあ」とうなずく千代。
その千代に「まあ、良かった、おうち入りましょう、なあ? なあ?」と声をかけながら、家へ連れていく昌子。恵も昌子も優しい。

怒ったったらあきません。ウチの母もああでした。適当に話合わせといちゃったらええんです

そうか、恵は母を介護していたのだね。
もしかしたら、そのせいで結婚できなかったのかもしれない。いや、ただドラマで語られていないだけで妻子がいるのかもしれないが、それはそれで気苦労だったろう。

恵の優しさや家庭についてしみじみと思いをはせていると、「ちょっと! ちょっと、恵さん!」と豪快に飛び込んでくるサエ。
なんだ、サエと恵、いつの間にそんな仲良しに?

「見た? 冬蔵、冬蔵さん来てんやて!」

ああ、そうか!
ダンスホールで踊っていた若い頃に冬蔵に惚れていたサエ、乙女のようにうっとりと冬蔵を長らく贔屓にしつづけている恵。
まさかここで繋がっていたとは。巧いねどうも。

すぐそこにテレビと一緒に来ていると聞いた恵は、今までのしんみりムードを放り出して、身をよじるように「はあ~、いやあああああ~!」と乙女な叫びをあげて路地を疾走、冬蔵を見にいってしまうのだった。本日一番のオイシイ役どころかもしれない。

で、冬蔵ご当人は登場しないのである。ただサエと恵の会話に名前が登場しただけ。
テレビの中継でアナウンサーのインタビューに応えて、例の「若い頃はご婦人方にモテようと思って浪花っ子の真似をしたもんでしてね」がナマで聞けるかと楽しみにしていたのに残念。冬蔵切ない。

夜になって2階で北村と二人きりで酒を飲む糸子。上京の誘いを改めて断った。
すかさず「長崎行くんか」と聞く北村。よほど周防のことが心配だったらしい。
それほどまでに糸子に愛を捧げつづけてきた一途な男である。

「ウチの宝は全部ここにある」から東京には行かず岸和田に残るという糸子。
「おばはん、わかっちゃあるけ? お前、もうたいがい年やど」と北村。

お互い、この先、無くしてばっかしじゃ。お前が言うちゃあった宝かて、どうせ一個ずつ消えていく。人かてみんな死んでいくんじゃ。お前、ここにいちゃあったら、一人でそれに耐えていかなあかんねんど。しんどいど……ほなもん……

北村、一世一代の大告白。
これからますます寂しくなっていく老後を二人で支え合っていこうという、そう、これはプロポーズなのだ。

しかし、糸子はいったん決めたことは曲げない頑固者。
「へたれが」と愛情込めて北村を罵るのである。

そもそもやな、「無くす無くす」て何無くすねん。ウチは無くさへん。相手が死んだだけでなーんも無くさへん。決めたもん勝ちや。へたれはへたれて泣いとれ。ウチは宝抱えて生きていくよって。

糸子、珍しく北村に可愛い笑顔を見せるが、これはつまりフラれてしまったわけだ。北村も切ない。

1階では宴会の真っ最中。
おなじみの顔が並んで飲んだり喋ったり楽しそうだ。その様子を穏やかな表情で見ている千代。
すると、木岡と木之元の後ろの廊下に戦時中に亡くなっている善作の姿が……。

やっぱり仲良しの木岡と木之元のところで飲みたいんだね。
すっかりお爺さんになってしまった木岡、若く見えるが白髪頭の木之元と並ぶと、59歳で亡くなった善作は一人若々しい。

腰の曲がった千代が這うようにして善作のそばへ行く。
ふと目を見交わす二人。千代は嬉しそうに善作の盃に酌をするのだが、もちろんその手は空っぽである。

ここで先程の糸子の台詞「ウチは無くさへん。相手が死んだだけでなーんも無くさへん。決めたもん勝ちや」が生きてくる。
もう千代は何も無くさない。善作はいつもそばにいる。そう決めてしまったのだろう。

機嫌良く酒を飲む善作の幻影に酌をする千代に宴席の誰も気づかない。
これは善作が千代を迎えにきた暗示か。
玉枝のところには息子の泰蔵と勘助が迎えに来たように、寂しがりの善作がもう辛抱できなくなって恋女房を連れにきたのかもしれない。

しみじみとミシンを見つめ、2階の窓から商店街を見下ろす満足そうな笑顔の糸子。
これが尾野真千子のラストシーンである。

さて、ドラマは一気に昭和60年まで飛ぶ。
早朝、ヤンキー仕様の少女がすっかりリニューアルされた商店街をガムを噛みながらのしのし歩いてくる。

「婆ちゃん、朝」オハラの二階で寝ている糸子を起こしにきたらしい。
表示されたテロップには「優子の次女 里香」。布団から起き出した糸子は夏木マリだ。
そしてここからナレーションも夏木マリにチェンジ。
おそらくメンバー一新となる次週からの“夏木ネーション”に馴染めることを祈るばかりである。

「カーネーション」がスタートした10月3日からちょうど5ヶ月。
尾野さん、本当にお疲れ様でした。素晴らしいドラマを毎日ありがとう。
貴女がいなければ「カーネーション」の成功はなかったよ。【み】

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