「とと姉ちゃん」常子、はじめて祖母と対面す(第3週)感想。

「とと姉ちゃん」第3週「常子、はじめて祖母と対面す」(2016年4月18日〜4月23日/NHK)。

竹蔵との結婚を反対され実家から絶縁されていた君子(木村多江)は、小橋家が経済的に困窮したため深川の老舗製材問屋「青柳商店」を経営する母を頼ることを思いつくわけだが、「あなたたちが賛成してくれるならだけど」と上京の判断を三姉妹にゆだねるのは一見平等なようで無責任な仕打ちじゃなかろうか。実際は決定権のない子供達が友や学校との別れがツラくとも東京でこれからどんな苦労をしようとも、「自分達で決めたんだから」の呪縛に縛られることだろう。
とはいえ、親友との別れや学校への未練やご近所との縁などは語られることなく、「東京に行ったらアレが食べたいコレが食べたい」などと夜遅くまで語り合った三姉妹のノンキな会議によって上京が決定してしまう。美子(根岸姫奈)はオムライスが食べたいらしいが、あの時代の主婦は意外とカレーとかコロッケのような洋食メニューが作れたりするので、一度母親に頼んでみたらいいと思う。

引越しの荷物を運び出す時に常子(高畑充希)が「せ〜の」と掛け声をかけるのだが、あの当時、その掛け声は使われていたのだろうか。しかも良い家庭の娘さんが。「いちにのさん」とか「いっせーのせ」ならまだわかる。「せーの」は割と新しい言葉のような気がするのだけれど…。というわけで気になったので検索してみた。

回答プロセス:『日本国語大辞典』によると「せいのお」は感動詞として1971年-73年に初出と思われる記載あり。
事前調査事項:複数の国語辞典に「力を合わせて物を動かすとき」「一斉に始めようとすとき」のかけ声という記述あり。
質問者より宇野千代の「淡墨桜」の中の「「せエの」は昭和40年代には珍しかった。それ以前は何と言ってたのでしょうか」という記述から疑問をもったとのこと。

「せえの」という言葉が流行する以前はどのような掛け声が使われていたのか。| レファレンス協同データベース

さて、広々とした空、緑鮮やかな美しい風景はこれでお別れ。ドラマの舞台は浜松から深川へ。
滝子(大地真央)は女学生の孫がいるとは思えぬ若々しさ。ハリのある肌、シワひとつない綺麗な顏に似合わない大仰な白髪のカツラが気になって仕方ない。せめて真っ黒な眉と鮮やかな口紅だけでもどうにかならなかったものか。また舞台出身の人特有のトゥーマッチな台詞回しからは、深川の老舗の製材問屋の女将らしさが感じられない。もっとチャキチャキしてほしいよね。まあ、娘の君子も妙な喋り方をしていたからそういう家風なのだろうと思うことにする。
それに一週間見ていたら、今にも踊りながら歌い出してミュージカルに突入しそうな演技が妙に面白く感じられるようになってきた。クセになる。そして大地真央の美貌は目の保養、朝の活力だ。

もう一人気になる人物が青柳商店の番頭の片岡鶴太郎。大地真央とは違って江戸っ子らしいチャキチャキした感じをぐっと押し出してきてはいるのだが、80年代に彼がよく披露していた「九官鳥のキューちゃん」のトーンなのでなかなかドラマに没頭できない深川編。
そういえば、木材の発注ミスで滝子が職人をこっぴどく叱る様子を傍で見ていた鶴太郎が、「さっさと動け。さもねえとクビだぞ!」と職人を怒鳴りつけるシーンに驚いた。いや、それ中間管理職の鶴太郎にも責任があることじゃないの?
この怒鳴りつけエピソードも含め、小橋一家に対する親しみやすそうで存外慇懃無礼な態度とかやけにギラギラした目つきがもしやこの人ただのいい人じゃないのでは…と思わせる不安なキャラクタである。

口髭をたくわえた鶴太郎の風貌はなかなかのコワモテ。だが常子はこの初対面のコワモテの大人の男性に「おばあ様ってどんな方なんですか」と、いきなり女将の人柄を問うのだった。困る鶴太郎。しかも女将の娘の君子も同席しているのだから、青柳家の番頭の鶴太郎が口を濁すのも当たり前だ。

その他にこの週だけでも「橋の上でキョロキョロしながら『うぉ〜』と叫ぶ」「職人達が忙しく働いている現場にいきなり飛び込んでいく」「往来の真ん中で『ふぅーっ!』と奇声を発する」「小さい子供のようにバタバタ走る」「店の使用人達が休んでいるところで『あ〜、勉強し過ぎで熱出そう』と大声を出す」「いきなり大事な売り物の木材にベタっと触る」「同居している跡取り息子で年長の清を家の中で大声で揶揄する」など、がさつで幼稚な言動が目立つ。

常子は割と裕福なサラリーマン家庭で育った戦前の女学生なのに、小学生みたいな演技をさせすぎじゃなかろうか。成人する戦後編との差をつけるための工夫なのかもしれないが、こういうところは時代考証の甘さのひとつだと思う。

相変わらずの鈍感で不躾な常子のふるまいにげんなりするが、ドラマ的には「物怖じしない無邪気な少女」という表現なのだろう。
そうか、これ、バーネットの「小公子」の男女逆転バージョンだね。
父と死別し優しく慎ましく美しい母に育てられた利発で可愛い主人公。娘の結婚を反対していた家柄の良い厳格な祖母が突然主人公の前に現れる(「小公子」では息子と祖父) 。利発で人懐こい孫の商才に喜び跡取りとして認める祖母。
「小公子」では主人公のセディは将来祖父の跡を継いで立派な伯爵になると思われるが、常子は青柳商店を継がずに雑誌を創刊するのだろう。君子が清との縁組を反対していたしね。
それにしても常子は清と結婚できるの? ウィキペディアによると「直系血族間、三親等内の傍系血族相互間の婚姻でないこと」とあるのだけれど、清と常子は叔父姪の間柄だから三親等。養子なら大丈夫なのだろうか。

滝子から青柳商店の手伝いを勧められるが断る君子。自立したいと言って職探しを始める。
君子がキレイな仕事にこだわらなければあの色気と美貌で結構な稼ぎができそうなものだが、このドラマの流れ的に酌婦だのカフェの女給だのといった水商売につくわけもなく、どこに面接に行っても年齢がネックになって断られてしまうのだった。
その様子を見ていた常子は独断で「母親に仕事を紹介してくれる人を紹介してほしい」と滝子に頼む。失敬な。だったら君子から滝子に直接働き口の斡旋を頼めよと思う。これも常子の利発なエピソードのひとつなのだろうが違和感しかない。そしてそれを何も咎めずに常子を得意先に連れ歩く滝子も謎だ。先週の鳩騒動とか運動会の米俵騒動とか、何かおとぎ話のようなエピソードが多いよね。

次週はいよいよ待望のピエール瀧登場。普段はのんびりした優しい感じの人が怖い役をやると映えるので期待している。いがみあっているという大地真央と秋野暢子、小橋一家が森田屋に住み込むことから青柳家 VS 森田家のドタバタ騒動に発展しそうだ。それはそうと、仕出し屋の女中の給金だけで娘二人を女学校に通わせることはできるのだろうか。心配。

滝子に沢村貞子、森田屋のまつに杉村春子…と理想のキャスティングを想像して楽しむワタシ。青柳商店の跡取りの養子の清は上原謙、深川だから番頭の隈井は池部良ね。君子は原節子にしようか藤純子にしようか悩むところ。会社も時代もバラバラだけど。【み】

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