「カーネーション」直子の発熱

深紅をベースにデコレーションされた薄暗い部屋で直子が布団にくるまって苦しそうに咳をしている。
そこへ源太がやってくる。続いて部屋に入ってきたのは祖母の千代。
直子が一週間も熱が下がらないと聞いて、看病するために上京してきたのだ。

千代の顔を見るなり「おばあちゃーん」と号泣。
「大丈夫か?」と問われ、千代に抱きつきながら「大丈夫ちゃう」と甘ったれて泣く直子。

直子の熱が下がらないのを岸和田に伝えたのは源太に違いない。
千代が「どこから電話をかけたらいいか」と聞いた時、即座に「大家さんのところでかけられます」と応えていたから、直子に頼まれたか自分で判断したかわからないが、岸和田に電話をかけてくれたのだろう。
気安く直子の部屋に入ってきたところから察するに、千代が来るまで食事やら買い物やらの世話や看病をしてくれていたかもしれない。

千代によれば「一週間熱が下がらない」という知らせに、小原家は皆おおいに心配したという。
あたたかい家族。素直に甘えられる祖母。気のおけない優しい友。
直子は本当に幸せ者である。

賑やかに飾りつけてある個性的な直子の部屋を見て、千代は「神戸箱みたい」と言う。
「神戸箱」というのは、ドラマ前半に登場した大きな箱。
千代の母、神戸の貞子が舶来の珍しい品物をあれこれ孫達に贈ってくるのだが、あまりに珍し過ぎて使いこなせず、結局箱にしまっておくのだった。
また、家計が苦しい時は箱の中身を売って現金に替えて生活費にあてたりもしていた。

「生きてたら、そらあんたらにもいろいろ送ってくれたことやろなあ。とにかく人に物を贈るのが大好きな人やったんや」
亡くなった神戸の母を懐かしむ千代。
「惜しいことした」と直子。
「ほんまやな」と笑う千代。
「けど、うちは、おばあちゃんがおったら充分や」
珍しく穏やかな表情と優しい声で話す直子に思わず涙々。

一方、姉の優子は主席で服飾学校を卒業し、家業を継ぐ約束を果たすため岸和田に帰ってきた。
皇太子ご成婚の幟がはためく商店街を、自作の華やかなワンピースで意気揚々と歩いてくる。手には白い手袋。折からの“ミッチー・ブーム”に影響されたスタイルとみた。
早速、オハラ洋装店で働き出すが、ぎこちない東京弁のせいもあるのか、万年主席の成績優秀な子の割にはなんとなく頼りない。
夏休みにはボーイフレンドを連れてくる。
「婦人画報」増刊の「メンズクラブ」…じゃなかった「令嬢世界」増刊の「紳士世界」から抜け出てきたようなイカしたアイビールックの彼。

「優子と結婚するなら岸和田に婿に来てもいい、その代わり大阪には土地勘がないので地元にコネを持つ糸子に職を紹介してほしい」と言う。
彼氏の言ってることはそれほど間違ってはいないし、いや、むしろ合ってるんだが、伝え方があまりにもストレート。
こういう話は周囲にうまく根回しして、糸子の口から言わせるようにしないとね。

主席卒業で家業を継ぐ親孝行者。しかもハンサムな彼氏登場という明るいエピソードの連発なのに冴えない印象の優子。
一人暮らしの暗い部屋で咳き込んでいたところに、看病に来てくれた祖母に泣きつくというエピソードがむしろ可愛らしかった直子。
糸子曰く「優子が笑うと直子が泣く、直子が笑うと優子が泣く」のこの姉妹から今後も眼が離せない。【み】

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