レディース将軍綱吉参上! 夜露死苦! NHKよしなが大奥第7話

ドラマ「大奥」第7回「五代将軍綱吉・右衛門佐編」(2023年2月21日/NHK総合)。

子役綱吉と子役柳沢吉保のやりとりが良い雰囲気。
特に子役吉保の田中悠愛が巧かった。
綱吉と吉保が向かい合って論語の勉強をしていると、桂昌院が娘の様子を見に来る。そこで吉保は静かに深く平伏する。このお辞儀が品と位を表した見事な所作だった。
勉強ばかりしていると「すがめになり器量が悪くなる」と娘を諌める桂昌院の竜雷太も、ちゃんと先週より20歳ほど若く見えるメイクと演技。
というわけで、第7回、幸先の良いスタート。

今週も右衛門佐はたくましく、武勇に長けたいかにも政治向きに強そうな感じの力強い大きな目と太い声。
戦国時代ならさぞや活躍しただろう。いや、男女逆転ではない江戸時代なら徳川家でも他の藩でもきっと有能な侍であっただろうと思わせる。
でも、原作の右衛門佐は京都の貧乏な公家の家で育ち、公家ネットワークと雅な物腰と美貌を武器に知恵を働かせて大奥で成り上がる男なのだ。しかも「お万の方(有功)の再来」と言われる風貌という設定なのである。
ちなみに、TBSドラマ「大奥〜誕生 有功・家光篇」とその続編にあたる映画「大奥〜永遠〜 右衛門佐・綱吉篇」では堺雅人が有功と右衛門佐を演じている。

さて、犬の面倒をみる金もバカにならぬので経費削減のため生類憐れみの令を廃止したいと桂昌院に申し出る綱吉。
しかし、綱吉に子ができないのは昔自分が猫を殺したからだと信じている桂昌院は「金くらいなんや。子ぉができひんかったらどうするんや」と一蹴する。
ここで綱吉は意を決したように「すでに月のものがないのでございます」と告げる。

原作のこのシークエンスはこんな流れだった。

側近柳沢吉保と父桂昌院の情事を目撃してしまった綱吉が、吉保を呼び出し「父上はお元気か?」と問う。桂昌院との関係が知られてしまったことに気づいた吉保は目に涙を浮かべ、立身出世の為ではなくただ綱吉の側にいたかったから桂昌院と関係を結んだと言って平伏する。
綱吉は「ならば証を」と小刀を抜き、着物の上から吉保の太ももに突き刺す!
「裏切るなよ」「はい…」「絶対だぞ!」「はい…!」と言い交わす印象的かつ衝撃的なシーンの後、

お可哀そうな父上
お若い頃から
大奥に閉じ込められ
女の体の事など
何も知らずに
…はははははは

ははははは
ははははは
はははは
はははははは!!

よしながふみ「大奥」5巻(白泉社)より

と、綱吉は無残な空笑いをし、

月のものなど
もうとうに
来ておらぬわ

と、言って笑いながら涙を流すのだ。

この「情事目撃」→「裏切るなよ」→「月のもの」のくだりは非常に心に残る名場面のひとつなので、もう月経がきていないことを「女の体の事など何も知らぬ」桂昌院に直接言ってしまったのはちょっとどうかな、と思った。

とにかく若い頃から大奥に閉じ込められ女の体の事など何も知らない桂昌院なので、ドラマの綱吉は「月のものがなければ、どれだけ営みを続けたところで、子を授かることはもはや、できかねるのでございます」と懇切丁寧に穏やかな口調で説明する。
ところが、それを聞いた桂昌院は「ええっ、月のものっちゅうんは子を授かるのに関係あるんか!?」などと素直に驚いたりはしなかった。
ほな、なおのこと、神仏にすがらんとあかんやろ。できひんのやったら、それこそ功徳を積んで、神仏のお力に頼らへんと」だって。そうきたかゴリさん。
ていうか、「神仏」がふたつも出たら、これはもう隆光スーパーリーチじゃないの? 山本學大当たりの予感だよ!

「子をなすのは将軍のたったひとつのおつとめである。家光公も有功様も涙をのんで耐え忍んだのに」と桂昌院。静かに諭していたのがだんだんヒートアップしてきて(有功の痛みは桂昌院の痛みだからね)、最終的には「そのたったひとつのおつとめを果たさず投げ出すとは、恥ずかしいとは思えへんのか!」と綱吉を怒鳴りつけるのだった。

綱吉は神妙な表情になり「おつとめを果たさず誠に申し訳なく…」と頭を下げるのだが、桂昌院は容赦なしだ。「わしは何のためにお前をもうけたんじゃ!」と激怒する。
いや、もうけられたこっちに聞かれても知らんよね。ていうか、実の父にそんなことを言われたらつらいじゃないの。

原作の流れもつらい。ドラマの父娘の関係もつらい。
どちらもつらいが、空笑いをしながら涙を流し「月のものなどもうとうに来ておらぬわ」とつぶやく綱吉の悲哀に私は1票投じたい。

シーン変わって、高座に座り憂い顔の綱吉に、柳沢吉保は「そろそろ年も暮れますね」と明るすぎず神妙すぎずという絶妙なテンションで話しかける。
将軍に対して話しかけるにしてはちょっと気安い感じがするし、現代的すぎる声音と言い回しのように思えたが、まあ、こういう気まずい感じの時は天気とか暦の話が無難よね。

すると、綱吉は憂い顔のまま「もし、姫が生きておれば、今年はどんな年になったのであろうな」と悲しげにつぶやくのである。
これは困った。どうする吉保!

ここで吉保は奥の手を出す。というか奥の脚を見せる。
裾をめくって、例の「裏切るなよ」の時の太ももの傷痕を綱吉に見せ、「覚えておいでですか」「館林で、一生お側におるとお誓いした日のこと」。
原作では上記の流れで行なわれた小刀ぶっすりのくだりは、ドラマでは牧野家崩壊の館林の回でもう済ませている。

ここも「お側におるとお誓いした」という軽い言い回しがちと引っかかる。「お側にお仕えするとお誓いした」とか、もっと良い言い方がありそうな気がするけど、この吉保は過剰にへりくだらず綱吉とはフランクなつきあいをしている人だと思ってスルーしよう。
でも、この後に続く「わたしごとき、何のお慰めにもならぬと存じますが」という台詞は、「わたくしごときが」と言った方が時代劇っぽさアップだと思う。

そして、時は元禄15年12月14日。
原作でも描かれた赤穂浪士による吉良邸討ち入り、いわゆる「忠臣蔵」のエピソードが登場する。

そして! 腰を抜かすくらいビックリしたのがこの次のシーンである。

赤穂藩は珍しく男子が跡目を継いでおり、討ち入りをした四十七士のうち四十二人が男子であり、江戸の民たちが主君の仇を討ったと男どもの働きを称賛しているから、「ここはひとつなんとかご助命をお考えになってはくださいませぬか」と老中たちが訴えると、綱吉は顔を歪めて「ハァ!?」と言ったのだ!

出たよ、レディース総長綱吉!
続く「逆恨みをし、老女をなぶり殺しにした者たちを、助命しろと申すのか」という台詞も、バイクのエンジン音がブォンブォン鳴り響く勢いでドス効かせまくり。
なにがどうしてこうなった。いくらなんでもこれは酷い。
レディース将軍炸裂しすぎて話が入ってこないよ。原作読んでるから入ってこなくても問題ないけど!

レディース将軍綱吉は、まるで家臣たちを煽るような、あるいは幕府に楯突く民をいたぶるような言い方と表情で「では、打首ではなく切腹をさせよ」と告げる。

切腹は非常に残酷な刑罰のようだが、江戸時代の武士にとっては礼を尽くした名誉ある判決である。
でも、老中たちが「総長ッ、赤穂の奴らメチャクチャ人気あるみてーなんで助命してやってほしいッス」と申し出たのに、レディース将軍が「やっぱ死刑にしときな、顔はやばいよボディやんなボディを」と応え、老中達が「そりゃないッス総長〜」と口を揃えて嘆くみたいなシーンに見えてしまったのはたぶん私の悪意ある錯覚。

なお、原作では討ち入りの報告をしてきたのは柳沢吉保。
ふたりきりで行われるこのやりとりの中で、綱吉は狡猾な政治家の顔に変化し、「これより先男が跡目を継ぐのを禁じよ」「遠き戦国の血なまぐさい気風をまつりごとから葬り去れ」とドラマとほぼ同じ台詞ながら、冷静に吉保に命じている。

なお、ウィキペディアによると、赤穂藩筆頭家老の大石内蔵助役に福井博章、討ち取られた吉良上野介役につかもと景子(忠臣蔵ドラマ的には珍しいふっくらした顔の吉良殿)。

それにしても、NHKはどうして全配役を公式ページに載せてくれないのかね。番組のファンにとっても演者にとっても寂しい話。制作班は当然配役の一覧を持っているはずだから、それを公式ページに貼り付けるというわけにはいかないのだろうか。

さて、五代将軍綱吉と八代将軍吉宗=少女
のぶ
が最初で最後の対面をする、これも原作では非常に印象深いシーン。
原作では、紀州徳川家藩主光貞が三女の信だけを連れて上京し、将軍綱吉に挨拶に来る。
原作の光貞は信のことを綱吉に対しへりくだる物言いで紹介するのだが、決して疎んじているのではなく愛情を持って接しているように見える。

しかし、ドラマの光貞は姉娘ふたりを従えてまるでシンデレラの継母みたいな態度なのが謎。あんな描写要る?

将軍生活に疲れ果てていた綱吉が信の思いもかけぬ大胆な言動を見て久しぶりに大笑いし、「そなたを気に入った!」と言って上機嫌で面前のすべてのかんざしと領地三万石を褒美に与える原作のくだりが大好きな私にとっては誠に残念なアレンジだった。

吉宗の母の紀州藩主徳川光貞を演じたのは飯島順子
朝ドラ「カーネーション」の主人公の家の隣の履物屋、木岡さんの奥さん。貫禄あり。

さあ、いよいよ次回から「八代将軍吉宗・水野祐之進編」である。
吉宗を演じるために俳優になってくれたのじゃないかしらと思ってしまうほどにしっくりくる冨永愛がたっぷり見られるぞ!
長女と次女はどう描くのかな。長女のセンシティブな描写をどう演出したのかも気になるところ。楽しみ半分不安半分である。

それはともかく。
あの美しい老僧、隆光役の山本學は第6話でワンシーン登場しただけでおしまいなの? なんという贅沢なキャスティング!
でも、山本學の大活躍に期待していたので無念なり。てっきり隆光スーパーリーチかかったと思ったのになあ。【み】

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