昨日の終わりに、酔った北村が糸子を訪ねてきて「死んだ」とだけ告げて帰っていってしまったが、誰が死んだかはほぼ二択。
だって、もし死んだのが組合長なら「うわーん、組合長死によったああ」と男泣きしそうだし、たとえば北村の父が死んだのなら、騒ぎを聞いて出てきた千代の顔を見て「おばあちゃん、わしのオヤジ死んでもうた」と甘えそうな気がする。
北村が言いよどんだということはこれはもう周防関係しかないわけで、周防、もしくは長崎で被爆して原爆症を患っていた周防の妻の二択だ。
北村的には恋のライバルであり、仕事仲間であり、嫉妬のあまり悪い噂を流してしまった過去のある周防が死んだとしたら、さぞ複雑な心境であろう。
また妻がいたから糸子と周防の仲は不倫だったわけで、妻が死んだとしたらもう二人の間の障害はなくなってしまう。
さて、今日、死んだのは周防の妻だったことを組合長から聞いた糸子。
「せやけど、北村は、なんでウチにそれをよう言わんかったんでしょうね?」。
その言葉を聞いて「え? わからんか?」と驚く組合長。
ああ、なんということだ。糸子はいまだに北村の思いに気づいていないのだ。
それにしても、組合長が気持ちを代弁してやらないのは何故だい。
周防の時は、悪い噂のせいで働き口がないだの、骨折して働けないだの、外れても踏みとどまっても人の道だの、五七五になっとるだの、いちいち事細かに周防情報を伝えてきてたじゃないか。そして、糸子は組合長の話にまんまと乗せられてたじゃないか。たまには北村の恋のアシストもしてやってくれよ組合長。
でも、もし「実は北村は前々からアンタを好きで…」なんて告げ口されたら糸子は怒り狂ってもう二度と北村と会わなくなるような気もするので、このままの方がみんな幸せなのかもしれない。
一方、オハラの跡継ぎ問題に悩む首脳陣。いつもの通り、喫茶店「太鼓」で首脳会議を行っている。
経理担当の恵によれば、「聡子に譲るのはまだまだ早い、経営者としての器が一番しっかりしているのが優子、ぐっと落ちて糸子と直子、さらにそこからぐっと落ちて聡子」だという。
そこで婿取り話が急浮上。
事務や経理に強い賢い婿がいい、ほんで男前で、いやあええなあと盛り上がる糸子と昌子。そんな婿が来てくれたら万々歳と控えめながら賛意を表す恵。
そういえば聡子はよく男の子を家に連れてきていた、と思い出す糸子。「あれは何だ?」と首を傾げる。
「あれは、まあ、たぶん、聡ちゃんの彼氏の時もあれば、ただの同級生の時もありますし、ご飯たかりにきただけの子ぉの時もあります」。
昌子の話を聞いて糸子ビックリ。まったく気づいていなかった模様。
これは仕事が一番で娘は放任という糸子の生活と、他人の恋心に疎いという糸子の性質の合わせ技である。
なお、今日も恵のオーダーはクリームソーダとケーキであった。
余命半年の宣告を受けている玉枝の病室を見舞う糸子。
千代がこしらえてくれたおかずを一緒に食べて、時には聡子も見舞いに来るし、優子と直子からは立派な花が届いている。
ある日、玉枝がテレビで「日本軍が戦地で何をしたか」という内容の番組を見たという。
玉枝は除隊した勘助が心神喪失になったのは戦地で酷い目にあったからだと思っていた。
勘助はよほど酷い目にあわされたと思てたんや。あの子はやられて、ほんで、あないなってしもたんやて。けど、ちゃうかったんや。あの子は、やったんやな。あの子がやったんや。
黙って聞いていた糸子の目から大粒の涙がポタポタと落ちる。
幼なじみで子分のように思っていた勘助。弱虫だけど明るくてひょうきんで優しい男。
それが戦争から帰ってきたら別人のように暗い目になっていた。
糸子がよかれと思って、かつて恋いこがれていたサエに会わせたことで、勘助の症状が悪化してしまい玉枝に手酷く罵られる。そして絶縁。
戦時中にこれ以上ないほど屈折していた安岡家との仲も、戦後、糸子が奈津を助けようとして玉枝に相談したことをきっかけに、一気に元通りになった。
今は戦前のように家族ぐるみで仲良くしていて、糸子がつらいことがあった時に泣きにいくのは玉枝のところである。
このまま何事もなかったかのように玉枝と糸子は今生の別れをするのだとばかり思っていたのだが、ここにきて重たいテーマをぶっ込んできた脚本家渡辺あや。どうか玉枝にも糸子にも視聴者にもわだかまりのない別れのシーンになりますように。【み】