1965年の映画「愛しながらの別れ」の浜田光夫の逃走経路

我々、東京福袋は「映像の中の渋谷」というコンテンツの中で、過去の映画に映り込んだ渋谷の風景を紹介している。そのため毎日のように過去の日本映画を鑑賞し映像の発掘に励んでいる。

今回見た「愛しながらの別れ」(1965/日活/監督:江崎実生)には、長い時間にわたって渋谷の街中を映し出す場面があり、「映像の中の渋谷」で単発的にシーンを紹介するだけではあまりに惜しいので、このシーケンスの流れとロケ地をまとめた。

この映画は、元やくざの浜田光夫と実母に虐げられている和泉雅子の間に芽生えた愛情を描く映画だ。和泉の兄山内賢の所属するやくざ組織がかつて浜田光夫が所属していた新生会と敵対関係にあるため、浜田光夫和泉雅子の恋愛が思いがけず2つのやくざの組を巻き込んで大事になっていく。

この中で新生会に呼び出され、「和泉雅子と兄山内賢の件を組に任せろ」と迫られた浜田光夫は事務所を飛び出し、新生会のやくざと5、6分にわたる追跡劇を繰り広げるのだが、この追跡劇の舞台が渋谷の街で当時の店舗の看板がふんだんに映り込んでおり、浜田光夫の逃走の経路が特定できるのだ。

以下、キャプチャと地図で浜田光夫の逃走経路をふりかえってみよう。

目次

事務所を飛び出し非常階段を下る

浜田光夫が組の事務所を飛び出し非常階段を下る。
ビルの看板に「Bar エコー」「辻花」「寿司文」「鳥の星輝」「Club Star」「とんかつの店太良橋」「北陸名酒コーナー」などの店名が見えるが、これらの店の場所は特定できなかった。

路地からセンター街へ出る

浜田光夫が事務所のある路地からセンター街へ出る。
背景に「白馬車」「スカラ館」の看板。

センター街から横道を左へ曲がる

センター街の中心の通りから少し広い横道を左へ曲がる。
曲がり角に「マリンバ」の看板。現在「ABCマート」がある場所。

栄通りへ出る

栄通り(現在の「Bunkamura通り」)へ出る。向かいに「くじら屋」「恋文横丁」の看板。
くじら屋」のある場所は現「SHIBUYA109」。浜田光夫は「恋文横丁」に入っていく。

マーケットの中を走る浜田光夫

現「SHIBUYA109」「渋谷プライム」「ヤマダデンキLABI」付近にあったマーケットの中を走る浜田光夫。左側に「羊肉館 珉珉」の看板が。

珉珉」の先にあった「江山楼」の角を曲がる。

さらに「理容ゆかり」の角を曲がり、一旦左の「道玄坂百貨街」の中に逃げ込むふりをしてその先の角を右に曲がる。

ビルの裏に出て一息つく

飲食店などの裏を逃げ回りビルの裏に出て一息つく浜田光夫。しかし新生会の組員高嶋稔にみつかり乱闘になる。
高嶋稔を押さえつける浜田光夫の背後に見えるのは高さと新しさから見て1963年に建設された「長谷川スカイラインビル」、この地点は図上の丸印のあたりではないだろうか。

強盗と間違えられ人々から追われる

新生会の組員高嶋稔を撃退したものの、刃物を手にしていたことから強盗と間違えられた浜田光夫は街の人々から追われる。逃げる浜田光夫の背後に「恋文横丁商店街」の看板。

道玄坂に出る

逃げる浜田光夫は道玄坂に出る。背後に「なみき」「みはと屋」の看板。

大和田ガードに向かって走る

道玄坂を渡った浜田光夫は「大和田ガード」(現・井の頭線渋谷駅西口があるガード)に向かって走る。現「ロッテリア」付近。背後に「東亜」「道玄坂百貨街」の看板。

大和田ガード」に向かって走る浜田光夫。背後に「タカラヤ」の看板。

大和田ガード」に向かって走る浜田光夫。右に「文寿し」の看板。

大和田ガード」に向かって走る浜田光夫。右に「入江」の看板。

大和田ガードをくぐる

大和田ガード」をくぐる浜田光夫。手前が井の頭線、向こうは玉電。

渋谷駅東口に移る

突然渋谷駅東口に移る。背後に「東急バス綜合案内所」。

渋谷駅東口のバス乗り場付近を走る

渋谷駅東口のバス乗り場付近を走る浜田光夫
背後の建築中の建物は1965年開業の「東急プラザ」(現「渋谷フクラス」)。

井の頭線連絡橋へ向かう

渋谷駅東口から井の頭線連絡橋へ向かう。

井の頭線改札の方向に向かって渡る

井の頭線連絡橋の下を井の頭線改札の方向に向かって渡る。

井の頭線高架の横を入る

井の頭線高架(現「渋谷マークシティ」)の横を入る。
ビルは「渋谷駅前会館」(現存。1階にパチンコ&スロット「楽園」)。

井の頭線高架の横を走る

井の頭線高架(現「渋谷マークシティ」)の横を走る浜田光夫

一度警官に捕まりそうになる場所は不明。

現「SHIBUYA109」前の交差点で確保される

道玄坂下に出た浜田光夫は現「SHIBUYA109」前の交差点(丸印)で確保される。
左に「第一銀行」「家具の宮田(宮田家具店)」、右手に「東急百貨店東横店」。


渋谷の街が単発で映ることは珍しくないが、これだけ長いシーンで渋谷の街、特に「恋文横丁」が映り続けるのは「恋文」(1953/松竹/監督:田中絹代)以来ではないか。
目立たない作品ながら渋谷の街の記録という面では非常に貴重な映画だ。【吉】


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