「しあわせはどこに」(西河克己監督/1956年/日活)。
橋爪淳子(芦川いづみ)は両親をなくし、今は伯父省吉(殿山泰司)と伯母かね(北林谷栄)夫婦の家に世話になっている。伯父省吉は殿山泰司なので、当然北林谷栄の目を盗んで芦川いづみにちょっかいを出している。
芦川いづみは就職活動中だが、両親がいないことが原因でどこの会社でも受け入れてもらえない。
芝田建設の入社試験でも両親がいないことを問題視され断られてしまったが、たまたま専務室から出てきた業界の大立者矢沢慎太郎(二本柳寛)のことを芦川いづみが芝田建設の重役と勘違いして話しかけたことから彼の支援で入社が決定し、芝田専務(清水将夫)の秘書見習いとして働くことになった。
だが、先輩である秘書亀井紀代子(堀恭子)の激しい嫉妬を買ってしまい、働きにくいことこの上ない。
ある日、芦川いづみが電車に乗っていた時、家族への土産を膝に乗せ座席に座っていたのだが、前に立っていたうっかり者の若者が網棚から荷物を落としてしまい、若者は間違って芦川いづみの荷物を持って電車を降りてしまう。
実はこの若者松尾吾郎(葉山良二)は、偶然にも芦川いづみが働く芝田建設の社員だった。
葉山良二の同僚のオシャレな若者志村徹(宍戸錠)は芦川いづみに一目惚れ。葉山良二と宍戸錠と芦川いづみは、休日に相模湖へドライブに行く。
相模湖で撮った写真を渡したいと言われ、芦川いづみは宍戸錠のモダンなアパートへ出かけるが、そこで宍戸錠に襲われてしまう。そこへ葉山良二と先輩秘書堀恭子がやってきたので、間一髪で芦川いづみの純潔は守られたのだった。
宍戸錠のアパートから逃げ出した芦川いづみは、偶然車で通りかかった業界の大立者二本柳寛に呼び止められ、家まで送ってもらう。
家に帰ると、伯父殿山泰司と伯母北林谷栄が激しく言い争っていた。家から出ていく殿山泰司を追いかけた北林谷栄は自動車に轢かれてしまう。
瀕死の北林谷栄は、芦川いづみに「母ふみ代(山根寿子)はまだ生きているが、戦時中に犯した罪のため娘から身を隠し消息を断っている」と告げ、息絶える。
この後、
- 戦時中、兵隊に強姦されそうになった山根寿子が兵隊が床に落としたピストルで撃ち殺して身を守ったものの殺人犯として刑務所に入る回想シーン
- 家から逃げ出そうとする芦川いづみを手伝う葉山良二が荷物を取りにいくと、激怒した伯父殿山泰司から芦川いづみの母山根寿子の前科を聞かされドンヨリする
- 芦川いづみが母山根寿子を探して大磯の療養所に行くと山根寿子は既に出ていった後だったが、偶然葉山で仕事をしていた葉山良二にばったり会う
- 住むところを失った芦川いづみのため葉山良二が自分の下宿を明け渡す
- 芦川いづみが預かった会社の重要書類を紛失し大問題となるが、実は先輩秘書堀恭子が嫌がらせをして隠していた
- 予想外の騒ぎになって驚いた先輩秘書堀恭子がその書類を宍戸錠に押しつけ、宍戸錠は書類を餌に芦川いづみを再度アパートへ呼びつけるが、やってきたのは堀恭子だったのでそのまま強姦してしまう
- 葉山良二は芦川いづみにプロポーズし、その報告をするため実家がある鳥取へ帰省するが、偶然にも列車で隣の席に座っていたのは芦川いづみの母山根寿子
- 葉山良二が実家に帰ると山根寿子が葉山良二の家で働いている
- 芦川いづみが生き別れの母山根寿子と再会
- 伯父殿山泰司に芦川いづみが捕まり、倉庫に監禁される
などなど、強烈なエピソードがぎっしり詰め込まれている。
原作は雑誌「平凡」に連載された小糸のぶの小説「しあわせはどこに」。
脚色にも携わった西河克己監督は、この盛りだくさんの話を80分という短い尺の中で伏線の回収も鮮やかにテンポよく見せる。
いや、それにしても。
入社を助けてくれた業界の大立者は実は母の昔の恋人だった。東京の会社の同僚に大磯でばったり。車中で隣の席に座った御婦人が実は恋人が探していた母親。
日活さん、いくらなんでも偶然が過ぎやしませんか。
親切な下宿のおばさん(田中筆子)は、葉山良二が芦川いづみに勝手に部屋を使わせるわ、芦川いづみの生き別れの母は訪ねてくるわ、やくざな伯父が訪ねてくるわ、目の前で芦川いづみが拉致されるわ、芦川いづみの上司は訪ねてくるわで大忙し。
宍戸錠はハンサムでスタイル良く、ファッションも部屋のインテリアもモダンでオシャレ。
酒、ドライブ、強姦。石原裕次郎や川路民夫が活躍する日活映画の世界線の中なら立派な主役になれそうだが、このきわめて清潔な「しあわせはどこへ」の中では芦川いづみを困らせるためだけに存在するチャラい悪役である。
映画レビューサイト「KINENOTE」のあらすじに至っては「色魔の志村」とまで書かれている。
驚いたのが、鳥取ロケ。
鳥取駅から葉山良二の実家がある集落へ向かう時に砂丘の真ん中を通るのだが、鳥取の町は砂丘の中にでもあるのだろうか。
鳥取といえば砂丘である。
せっかく鳥取までロケに行ったのだから何とか風景として入れ込みたかったがどうにもならず、駅からの道をまわりに何もない砂丘のド真ん中に強引に設定してしまったとみた。
なお、葉山良二の下宿がある大森駅周辺がよく映るが、あの高低差はもしかしたらいわゆる「地獄谷」のあたりじゃないかしら。
悪は消え去り、愛し合うふたりは結ばれるハッピーなエンディング。
ヒロインはいつもしくしく泣いており、偶然頼りの甘々のメロドラマだが、剛腕・西河克己監督のキレの良い演出を堪能した。
そして、コロムビア・ローズが唄う主題歌の「♪しあわせは〜ど〜こに〜」というフレーズがいつまでもいつまでも脳裏を去来するのだった。【福】