映画の感想文「狙われた男」

狙われた男」(中平康監督/1956年/日活)。

銀座の一画で起きた殺人事件。被害者は美容室のマダムだった。
第一発見者はマダムの娘の泉圭子。彼女の悲鳴を聞いた近所の人たちがぞろぞろ集まってきた。

警察の調べで死因は絞殺とわかった。
事件を担当する刑事は、ソフト帽とトレンチコートをまとった、まるで泉昌之の漫画「夜行」の主人公のようなダンディな男、内藤武敏

かっこいいスキヤキ
マンガ「夜行」のダンディな主人公

犯人は身近にいるらしい。口さがない住民たちは陰でお互いの噂をささやき合う。
殺人罪で出所してきたばかりのバー・シャトルのマダムの弟、牧真介が真っ先に疑われた。

一癖も二癖もある近所の人達が観る者を撹乱する。

特に怪しいのが「神社新聞」の社長の浜村純。蓬髪で目をギョロギョロさせている。目つきがとにかく怪しい。
バー・エデンのマダムの三鈴恵以子とバーテンの近藤宏も何か訳ありみたいだし、大阪から駆け落ちしてきたという寿司屋の主人の下元勉がやけに喋りすぎるのも気になる。
タバコ屋の婆さん北林谷栄とバー・エデンのオーナーの殿山泰司もいかにもな雰囲気を著しく漂わせているが、この2人はクレジットに「特別出演」と書いてあったから容疑者から除外してもいいかもしれない。

美容室マダム殺人事件が解決していない中、第二の殺人事件が起こる。
片目の中年男の死体が近くの河岸に打ち上げられたのだ。
この二つの殺人事件の関係性は……?

脚本新藤兼人×監督中平康のスタイリッシュなミステリー。古いタイプのサスペンスだが十分楽しめた。
冒頭で被害者の娘が美容室があるビルに入ってから悲鳴が聞こえるまでにかなり長いをとったり、ラスト近くで犯人たちがもみ合ってビルの屋上から落ちたはずみで電線が切れて停電になり近所の人たちが顔を出すなど心憎い演出もあり。

フランキー堺が一度も画面に映ることなくドラマーとして劇伴の演奏をしている。
もちろん彼がジャズミュージシャンとして活躍していたのは知っているが、この映画が公開された頃には既に俳優として何本も映画に出演している。当然、演奏シーン等でちょっとくらいは顔を出すのだとばかり思っていたのだが、結局演奏だけ。純粋にミュージシャンとしての起用だったので驚いた。

最後にバーの雇われマスターの近藤宏がこの町を去っていく後ろ姿がイカス! さすがは俺たちの近藤宏だぜ!【福】

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