「哀愁の園」(吉村廉監督/1956年/日活)。
親の後を継いで牧場を経営するため日東毛織を辞めた速水達也(葉山良二)との幸せな結婚を間近にした日本橋の老舗の一人娘津村みゆき(南田洋子)。葉山良二が帰省した後、日東毛織の若社長小松原道隆(相原巨典)の秘書となり、念願の会社勤めをすることになった。
だが、相原巨典に出張先で強引に純潔を奪われ、南田洋子はホテルの近くの湖で入水自殺を考える。
ホテルの余興で呼ばれていたストリッパーのサリー(潮けい子)が南田洋子が夜中に出歩く姿を見て不審に思って後をつけていたため、すんでのところで南田洋子は自殺を思いとどまった。
家を出た南田洋子はストリッパー潮けい子に助けられ何とか生きてはいるが、南田洋子はひたすら葉山良二との結婚を悩む。で、悩んだまま唐突に映画は終わる。
観客は置いてけぼりか!と驚いたので「国会図書館デジタルコレクション」で確認したところ、どうやらこれは3冊出ている単行本の第一部だけを映画化したものだった。
他の映画では見られぬゲスな演技爆発の下條正巳が面白かった。
相原巨典の愛人だが何故か葉山良二にしつこく言い寄る渡辺美佐子のお色気攻撃から葉山良二を守るため、必死に牽制する友人の内藤武敏が頼もしい。
頼もしいといえば、ストリッパー潮けい子の気風の良さも印象深い。弱気を助け強気をくじく女伊達。潮けい子のヒモ天本英世のヒョロヒョロした演技も大変良かった。
原作は日本放送(現ニッポン放送)の「日本放送連続放送劇」で、月曜から金曜の午後4時から15分間放送されており、速水徳也役に高橋昌也(徳也は達也の誤植?)、津村みゆき役に中原早苗、小松原道隆役に勝田久(アトムのお茶の水博士!)、映画では芦川いづみが演じた牧場の使用人の娘の梨花役に原田洋子というキャスティングだったそうだ(桃園書房「小説倶楽部」1956-11)。
映画クランクイン時のインタビューで、南田洋子は「私つて前からメロドラマのヒロインを演つてみたかつたんですけれど、その機会がなくて残念に思つていたのです。『哀愁の園』の放送を聞いている時、ヒロインのみゆきを演りたいなと思つていたのですから大変嬉しいです」と答えている(日本保安時報社「月刊自衛」1957-02)。
南田洋子のインタビューの「っ」が「つ」になっているのは、掲載記事の表記をそのまま引用したもの。小さい文字で表記しない促音は趣深い。読みづらいけど。
しかし、ラジオドラマ版主演女優の中原早苗はきっと気分悪かったよねえ。
ウィキペディアを見ると、南田洋子と中原早苗は日活ではほぼ同期だが、映画女優としては大映から移籍した南田の方が2年程キャリアが長い。大映では同期の若尾文子と共演した「十代の性典」で大ヒットを飛ばしているので、当時の女優としての格は南田の方が上だったのかもしれぬ。
このラジオドラマを元に作られた本作は、いかにも昭和の主婦向けに作られた通俗的なメロドラマながら、日本橋の老舗のお嬢さん、ブティックの雇われマダム、ストリッパー、牧場の娘といった個性の違う女性たちがうまく配置されており、意外に楽しめた。
ただ、強姦された女性の立場を「哀愁」としか表現できないのは時代というものか。
なお、「婦女暴行場面の一部を削除」(「映画倫理規程審査記録」1956)という映倫の記録があるので、南田洋子が相原巨典に強姦されるシーンの一部がカットされている模様。
それはともかく、相棒の吉野が「面白かったんだけどなあ。続きを見せてくれよ」と嘆いていたので、代わりに私みやしたが「国会図書館デジタルコレクション」を検索しておいた。
雑誌「映画情報」(国際情報社/1957-12)の「何でも答えまショウ」という読者の疑問に答えるコーナーに寄せられた「葉山良二、南田洋子さんのコンビで日活が映画化した『哀愁の園』は第一部が作られたままですが、その後篇は映画化されるのでしょうか」という質問への回答は、「日活では『哀愁の園』の後篇を映画化する予定はないそうです。残念ながらその後の主人公たちを画面で見ることは出来ないようですね」とのこと。続きはナシだってさ。残念。【福】