東京映画の感想文「人も歩けば」

人も歩けば」川島雄三監督、1960年。

主人公のフランキー堺の達者なナレーションで綴る長い長いアバンタイトル。その後は急テンポでフランキーの人生が流転していく。ストーリー展開も台詞の応酬も唖然とするほど速い。

銀座でジャズバンドのドラムを叩いているフランキーは、行きつけの質屋の主人の沢村いき雄と懇意になり請われて長女の横山道代の婿になる。フランキーを邪険に扱う義母の沢村貞子と横山道代親子は今作唯一の悪役。
遺産ばなしを妙な条件付きで突然持ち込んでくる外国人弁護士ロイ・ジェームス。浅草生まれのチャキチャキの東京人ロイ・ジェームスが「コレは Japan の pawn shop の custom デスカー?」とか「ノーノーノー、質入れではありまセーン」とか外国人訛りで喋るのが面白い。
質屋出入りの古着商の桂小金治は横山道代の妹の小林千登勢に惚れている。「男はつらいよ」の初代おいちゃんでおなじみの森川信は占いに没頭する気のいい銭湯の主人。ロシアに入れ込むやはり気のいい簡易宿の主人の加東大介はルバシカを着て飼い犬にナターシャと名づけている。
おでんやの色っぽいママの淡路恵子と常連客の森川信の小粋な関係や、敵方のスパイの学生を連れてこいと指示された春川ますみのゆるやかなセックスアピールや、脱線トリオがフランキーを追いかけるコミカルなシーンの品の良さ。
これら多彩な登場人物達の思惑が絡み合ってフランキーは追い詰められていく。

人も歩けば1
沢村貞子が店先で厄落としの塩を撒いているところに偶然飛び込んだら塩まみれになって「これは日本の質屋の風習ですか」と嘆くロイ・ジェームス
人も歩けば2
フランキー堺がドラムを演奏するシーンあり!

そして、ハッピーエンドともバッドエンドともなんとも言い難いエンディングもまた上品なのだった。スピーディ、モダン、エレガント。ビバ川島雄三。
しかし藤木悠はいつどこで見ても藤木悠。どんな空間でも藤木色に染めあげてしまうので困る。【み】

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