三姉妹ついに登場! そして享保の論破王爆誕! NHKよしなが大奥第9話

ドラマ「大奥」第9回「八代将軍吉宗・水野祐之進編」(2023年3月7日/NHK総合)。
上様の凛々しさいよいよ冴え渡る。
果たして吉宗の三人の娘たちは登場するのか? そしてどのように描かれるのか? 否が応でも高まる期待。

目次

何としても赤面を抑えきるのじゃ!

江戸市中に「赤面疱瘡あかづらほうそう」が流行し始めたとの知らせを持って、大岡忠相(MEGUMI)が吉宗(冨永愛)のもとへ駆けつけた。

「赤面疱瘡」とはよしなが大奥の世界に存在する架空の病、若い男子のみが罹る死に至る病である。
この「赤面あかづら」のせいで日本の人口の男女比は大きく崩れ、かつては男の将軍のために美女を集めた大奥も今は女将軍に子を産ませるため美男が大勢集められた場所になっている。

吉宗は、忠相には「病人は小石川養生所に連れてくるよう触れを出し医師の小川笙船おがわしょうせんと共に受け入れの支度を整える」よう命じ、水野こと進吉(中島裕翔)には「直ちに村へ向かい赤面あかづらに効果があると思われる猿の肝をできうる限り集めると共に江戸市中の薬種問屋の在庫を確認する」よう命じ、加納久通(貫地谷しほり)には「薬草や有効物質を集める採薬使の手配」を命じる。

「何としても赤面あかづらを抑えきるのじゃ!」

間髪入れず指示を出す冨永吉宗の台詞回しは抜群の切れ味。

小石川養生所に赴いた吉宗から渡された猿の肝を前に、「猿の肝が効くとは、聞いたことございませぬが……」と戸惑う小川笙船(片桐はいり)。

さよう、ゆえに効き目も定かではない薬を与えるのは気が引けよう。しかし、これは私が与えた薬。たとえ何かあっても、そなたが気を病むことではない。せめは私が負う」と吉宗。

不安はあれども急を要する案件を自らがすべての責任を追うと断言しプロジェクトを推進する。これぞ江戸のリーダーシップ。さすがは八代将軍吉宗。
吉宗の力強い言葉を聞き、笙船もまた「ありがとうございます、笙船、千人力を得た思いにございます」と力強く応えるのだった。

赤面疱瘡との戦いの火蓋を本格的に切ったところから、ドラマ「大奥」第9回「八代将軍吉宗・水野祐之進編」スタート。

効くかもしれぬし、効かぬかもしれぬ

赤面疱瘡に罹った一平太という男児が養生所に運び込まれた。
つきそってきた母親に笙船は言う。

私の手元には今、赤面あかづらに効くかもしれぬ薬がある。そなたの許しさえ得られれば一平太に与えてみたいと思うがどうじゃ! しかし、この薬、効くかもしれぬし、効かぬかもしれぬ!」。

この時代の医者とは思えぬ患者ファーストの説明に驚く。
相手は町民だし患者は幼い子どもだし、何といっても時の将軍徳川吉宗の後ろ盾があるのだから問答無用で患者に猿の肝を与えたって誰も文句は言わないはずだが、笙船、いかにも押しが強そうなルックスに似合わず慎重かつ患者思いの医者なのだった。
時代劇的にはちと不自然に感じたが、片桐はいりの気合の入った演技でチャラ。これでオッケー、問題なし。

死病に罹った息子の母親は藁をも掴む思いであろう。しかも相手は高名な医師だ。
母親はもちろん了承し、「どうかどうか一平太をお助けください」と頭を下げるのだった。

苦しむ一平太を励ましながら、猿の肝から作った薬を口にさじで流し込む笙船。
そして、「火鉢をかき集めよ! 我らで何としてでも助けるのだ」と養生所の者たちに檄を飛ばす。
その様子を見ている吉宗の姿を認め、頭を下げる笙船。
両名とも厳しい表情ながら信頼する女と信頼に応えようとする女の心意気が伝わる誠に良い場面。

加納久通は猿の肝を求めて奔走する進吉の報告をしつつ、「少しお休みになられては」と吉宗の体を気遣うが、吉宗は「かような時に大将が寝てどうする。皆、休みなく戦っておるのであろう」と一蹴し、「これは赤面あかづらとの戦じゃ!」と宣言する。

赤面撲滅実行部隊によるサルキモ作戦

進吉が婿入りした薬種問屋ののぶ白石聖)が、小川笙船のもとへ猿の肝を届けにきた。
小石川養生所は大勢の赤面疱瘡患者でごった返している。一方、大岡忠相は、患者の収容先を確保すべく「養生所で間に合わぬなら青山様の空き屋敷をお借りせよ!」と部下たちに指示を出している。
有能な人々が精魂込めて働くシーンのモンタージュ、まるで「シン・ゴジラ」の如き緊張感。

吉宗に良い知らせが届く。
加納久通の報告によると、「常ならば亡くなる日にちを過ぎても患者たちが持ちこたえておる」と笙船から伝言があったのだという。

吉宗は安堵するが、すぐに、効果があるなら品不足になることに気づく。すかさず久通は「江戸近辺で猿が得られる所はすでに手配いたしました。水野も薬を携え、そろそろ村を出立する頃かと」と報告する。
毎度のことながら知恵が回るぜ久通! そしてとんだ災難だぜ猿!

さて、水野こと進吉が赴いた村では、「高く扱ってくれるんだろ? 熊の肝みたいに」「もちろんです、効くとなればもう売って売って売りまくって」などと談笑しながら、なごやかに猿の肝の仕分け作業中。
そんな中、ひとりの若者が作業中に突然倒れてしまう。疲れが出たせいかと思ったら、彼の首には赤いできものが…!

一方、小石川養生所でも一平太の容態が急変する。熱が上がり、疱瘡が増えているように見える。
苦しむ一平太の体を冷やし、薬をさらに与えるよう指示する笙船。

与える薬の量が足りなかったのではないかと、笙船からの報告が吉宗に伝えられる。
猿の肝を集めに行った進吉を待ちかね、「水野はまだか」と焦れる吉宗。
そこへ進吉が戻ってきた。

サルキモ作戦の敗北

吉宗の前に平伏し、「上様、お手討にしてくださいませ」と言う進吉。
サルキモの村で赤面疱瘡が発生したことを報告に来たのだ。
猿の肝のおかげで赤面が発生しなかったわけではなく、山深い村なので今まで赤面と無縁だったのではないかというのが進吉の推測である。

報告を受けた吉宗は、しばし唖然とし、進吉に「去れ」と命じた。
激しく怒鳴りつけるのではなく、ささやくような声で「去れ」と言ったのだった。
そして、うめくように「今さらそなたを手討ちになどしたくないのじゃ」と言う。
進吉は黙って去るしかなかった。

特効薬と思われた猿の肝が効かなかったため、若い男たちの死体の山が築かれる。吉宗は赤面との戦いに破れたのだ。
「患者をひとところに集めたことが功を奏したか、以前の大流行の時よりは被害が広まらなかった」と加納久通は言うのだが、吉宗は厳しい顔で「負けは負けじゃ」とつぶやく。

「久通、この先、何をいかにしたら良いのかの」と、吉宗は厳しい顔のまま問いかける。
「滅びぬ道とやらは、どこにあるのだ」。
前半の快進撃の様子とは打って変わった負け戦の将の痛恨の台詞である。

赤面撲滅の鍵は異国に?

シーン変わって、大奥に赤面撲滅実行部隊の面々が集まっている。
大岡忠相、小川笙船、水野祐之進改メ田嶋屋の進吉。皆、重苦しい表情だ。
この3人が、吉宗にお目通りを願ったのだという。

むくろの検分をお許しいただけませんでしょうか」と切り出す笙船。
「検分?」と訝しがる吉宗に、笙船は「引き取り手のない者だけで結構です」と畳み掛ける。
死体の内部も外部もできる限り調べ上げ、赤面がいかにして人を死に追いやるのかを追求したいというのだ。
「立派な養生所を頂いたにもかかわらず病を前にして何もできず患者を見送るばかりだった、医者として情けない」と、強い調子で笙船は訴える。

隣りに座っている進吉も同じ思いである。
進吉は、婿入り先の薬種問屋田嶋屋の蔵に眠っていたという古い書物を携えてきた。
吉宗が開いてみるとそれは洋書だった。植物らしき挿絵が描かれている。
進吉によると、これは異国の薬草を記したものと思われるが、何が書かれているかはわからないという。

この本の挿絵の植物は見たことがない。この国にそんな薬草がないことだけはわかる。
この際、日本だけではなく異国の薬にあたってみてはどうかというのが進吉の提案だった。

嗚呼、どこへ行こうとしているのか「八代将軍吉宗・水野祐之進編」。
もしや、この流れで進吉を長崎出島へ派遣するつもりか? 青沼はともかく平賀源内が出てくるのは吉宗の死後だぞ。江戸の男たちに割り振られた火消しの仕事に進吉が大張り切りだった話はどうなる。ええと、火消しのくだりはどのあたりで出てきたんだったっけ? 原作とオリジナルのストーリーがごちゃごちゃになっちゃって、もうわかんなくなっちゃったよ。

ていうか、吉宗の3人の娘の話はどうなっておるのか!
もしやこのまま3人娘には一切触れずにこのドラマは最終回を迎えてしまうのか?

赤面の流行を外国に隠しているのは承知の上で、「異国では赤面に効く薬があって、あちらじゃあ大病でも何でもねえって、そんな間抜けな話だってあるかもしれねえじゃあねえですか! こんだけ探して駄目だったんです! だったら!」と、私の心配をよそにヒートアップし吉宗を説得しようとする進吉。

御三の間から一足飛びに御中臈になり御内証の方ルールで偽の死罪となってあっという間に江戸の町に帰った進吉が、「赤面疱瘡の流行を外国にバレないようにしている」という徳川幕府の秘中の秘の政策をどうして知っているのか謎だが(これ、町民も知ってるレベルの政策だったっけ?)、何か目をキラキラさせて熱く語ってるわけですよ。いや、頼むからキミは火消しをやっていてくれよ火消しを。格好いいぞ火消しは。私は早く吉宗の娘たちの話が見たいんだよう。

進吉の炎のごとき熱きプレゼンを受け、考え込む吉宗。
そして、きりりと顔を上げ、「これより異国の書物の受け入れを解禁し、男に限り、蘭学を学ぶことを許す」と宣言する。
満足げな顔で平伏する進吉、目を剥いて驚く加納久通。

「久通、ただちにはからえ」と洋書の受け入れと蘭学の件について命じ、返す刀で「赤面の骸を調べることを許す」と小川笙船に許可を与え、最後に「越前、頼むぞ」と何だかわからないけど大岡忠相にも声をかけるのだった。
そして、まなじりを決し、「滅びるわけにはいかぬからな」と力強く宣言する吉宗。

そうそう、これこれ。これよこれ。
自省して思案顔もシブいが、バイタリティに満ち溢れた冨永吉宗は桁外れに格好いいのだ。

杉下、進吉と対面する

シーン変わって、今週も杉下(風間俊介)との夜のお酒の時間。
蘭学を男子限定にした理由として「女にも許したいところじゃが、赤面ゆえ、男の数が少ないことを異国に悟られてはならぬゆえな」と語る吉宗。え、それどういう意味だろう?
たとえば、蘭学者を男女同数にした上でオランダ人に学んだり本を購入したりすれば日本国内の男女比がおかしいのがバレないのでは?
いや、かえってそのほうが「オー、ニッポンノ女、優秀ネー! 男モ女モ勉強熱心デ、ニッポン脅威ダネー!」とか思ってもらえるのではないだろうか?

杉下が「その進吉という商人、大奥に出入りできるようにしてはいかがでございましょう」と申し出る。
唐突な提案に、案の定、吉宗は「なにゆえにじゃ?」と問う。
すると、杉下は「確か、右筆部屋にもいにしえの異国の書がございましたよ」としれっと答えるのだった。

吉宗びっくり。「まことか? なぜ誰も私に言わぬ?」。
「今では読める者もおりませぬゆえ、埃をかぶって置物のように」と杉下がまた眉一つ動かず平然と言うものだから、拍子抜けしたのか、吉宗は「そうか」と気の抜けた声で相槌を打つのだった。

なによ、杉下。少しは「申し訳ございませぬ」っぽい態度を見せなさいよ。相手は上様よ? 天下の吉宗よ? 暴れん坊将軍よ?
ひょっとして、町人まで参加している赤面撲滅実行会議に混ぜてもらえなかったからちょっと怒ってる? 何か悔しいからちっちゃく仕返ししてやれ的な?
いやいや、それぞれ任務が違うのだからいくらなんでもそんなことはないだろうが、でも、この杉下の態度はいかにも不敬である。

このドラマの吉宗は身分の上下を取っ払った特別にフレンドリーなお人柄ということなのだろうが、彼女のサポートメンバーは皆ちとフランクすぎるような気がする。友達づきあいとまではいかないが、せいぜい話のわかるパイセン程度の接し方に見えるのだ。
ただし、いついかなる時でも上様を上様として敬い、家臣としてのふるまいを崩さず物堅い話し方をする大岡忠相が良いバランサーになっている。演じるMEGUMIのコントロールの効いた低い声音がまた良い。

さて、私の穿った見方をよそに、吉宗は莞爾と微笑み、「では、さように伝えておくゆえ、進吉の案内あないを頼む」と杉下に命じるのだった。

そして、杉下が進吉と対面した。
顔を上げた進吉を見て、杉下は目を丸くする。
吉宗の御内証の方となり大奥の決まりに則り死罪になったはずの「水野」が生きていた!

水野祐之進だった進吉が大奥に上がった頃、なにくれとなく彼の世話を焼いていたのが杉下なのだ。大奥でのふるまいや部屋の掃除の仕方など、細々と教えてやった先輩後輩の間柄。
そして、水野が御中臈に抜擢されてからは立場が逆転し、杉下は水野の身の回りの世話をする使用人となった。

思いが溢れ、杉下は進吉を抱きしめる。
「よくぞ生きておった」と涙声の杉下。「杉下さーん」と応える進吉も涙に濡れている。

ここは感動的な再会の場面と見るべきなのだろうが、吉宗の夜のお酒の時間につきあってかなり突っ込んだ話もする間柄なのに、こんな重要な案件を今まで教えてもらえてなかったの? それに杉下は進吉=水野とは浅からぬつきあいだったのにね。杉下気の毒すぎる。あっ、ホントは誰かが杉下に連絡しておくのを忘れてたんじゃないの?

……などと余計なことを考えてしまうタチの悪い視聴者(私です)がいるから、吉宗の晩酌につきあう役は加納久通にしておけばよかったのにと思う。

まあ、その直後のシーンで、久通から「泣いて抱き合っておりました」と報告を受け、「それは、重畳」とにっこりした吉宗が美しく凛々しかったので、タチの悪い視聴者(私ね)も素直によかったよかったと喜びましたとさ。

ついに、登場……!

杉下と進吉の涙の再会から七年の時が流れ、いつの間にやら3人に増えていた吉宗の娘たちも成長していた。

家臣たちが集まり平伏している場で、吉宗は皆に面を上げるよう命じる。
愛くるしい三女の小夜姫(竹野谷咲)、続いて真面目そうな次女宗武(松風理咲)が顔を上げる様子が映されるが、中央に座っている長女の家重はじっと動かない。
吉宗にうながされようやく顔を上げた家重(三浦透子)は、不自由そうな発音で「あ、あい…」と返答する。

ちなみに家重というのは、第8回で分娩中に大岡忠相から報告を受けた幕府の言うことを聞かない大坂の商人への怒りを込め「くっそー!」といきんだ時に生まれた子である。

もうこのドラマでは会えないのかとあきらめかけていた吉宗の3人の娘たちがようやく登場した。
成長した家重を演じる三浦透子は、日テレのドラマ「ブラッシュアップライフ」で安藤サクラの市役所の先輩を演じていた人。

さて、モデルとなったホンモノの徳川家重は、「コトバンク」によると以下のような人物である。

病弱で,政治は老中松平武元らに任せきりであった。日ごろ大奥にいることが多く,その言行を知る人は稀であったという。また言語に障害があり,側衆の大岡忠光のみがこれを解したといわれている。<参考文献>「惇信院殿御実紀附録」(『徳川実紀』9編)

朝日日本歴史人物事典(朝日新聞社) より

生来虚弱のうえ言語に明瞭さを欠いたため政務に耐えず、側用人大岡忠光が権勢をふるった。

精選版 日本国語大辞典(小学館) より

ウィキペディアによればホンモノの家重の言語障害の原因を脳性麻痺とする説もあるそうで、原作の「大奥」の女家重はその説を採用したと思われる。
言語障害に加え、常時よだれを垂らしている口元で障害を表現し、母吉宗と将棋を打って勝つ場面や杜甫の詩を暗唱する場面などから、体の動きは不自由でも知能には問題がないという人物設定である。

場面変わって、「もし今吉宗の身に何かあったら家重が次の将軍となり、それでは天下に混乱が生じてしまうから次の将軍は宗武と決めてほしい」と進言する松平乗邑まつだいらのりさと黒沢あすか)。
吉宗は乗邑をしばし見つめた後、「では、私がせいぜい長生きすることにしよう」と爽やかに言い放つのだった。

そこへ、加納久通がやってきた。
そのタイミングで乗邑は「では私はこれで」と吉宗の前から下がるのだが、すれ違いざまに久通をギロリとにらみつける。やな感じ。でも乗邑、その久通にだけは逆らわないほうがいいと思うよ。その人ほんわかした感じだけどホントにこわーい人だよ!

さて、吉宗は次の将軍について「家重ではやはり難しいと思うか?」と久通に問いかける。
だがそこは出来る女久通、「お世継ぎについて家臣が口をはさむべきではないと心得ておりまする」と答えるのだった。さすがだね。
長女家重に問題ありと考える吉宗は、「ここだけの話じゃ」と前置きし、「跡目は誰が良い。家重か宗武か、いっそ小夜姫か?」と久通にさらに問いかける。
しかし、久通の態度は変わらず、「口を挟むことではないと存じます」。
これには吉宗、「頑固じゃのー、珍しく」と呆れ顔。

そこへやってきたのは、家重の御小姓頭大岡忠光(岡本玲)。先に引用した文献で「家重の言葉を唯一解していた」と記されていた人。
家重付きの小姓が「気鬱の病」に罹ってしまったので、人員補給をしてほしいと言いに来たのだった。

えっ、連絡もなく飛び込んできて、上様に直々にそんなお願いをしちゃうの!? なんで!? 自決覚悟なの?
もしや直属の上司にスルーされちゃったの? 申し出るなら相手はせめて加納久通じゃないの?
何者だろうが直答上等のフリーダム。上下の区別があまりにもなさすぎて不安になるよ吉宗大奥。

さて、忠光の訴えを聞いた吉宗は「またか…」と眉をひそめる。
「私の目が行き届かぬばかりに、たびたびのこと、まことに申し訳ございませぬ」と平伏する忠光。

田沼龍、家重の小姓になる

忠光の報告を受け、「やはり家重は難しいかのう……」とつぶやく吉宗。
しかし、困った時の加納久光である。
久光は晴れやかな表情で「上様、たつをつかわしてはいかがで?」。

龍のモデルの田沼龍助は、紀州藩時代からの吉宗の側近である。
吉宗が将軍になった時に紀州から連れてきたというから、相当有能な家臣だったのだろう。

いや、有能な家臣というか、この人こそがのちの田沼意次なのである。
もちろん、この「よしなが大奥」の龍ものちに田沼意次になる。

吉宗は「龍か……他の者では駄目か?」と言うが、久光はきっぱりと「龍ではなければ難しいと存じます」。
まあ、久光がそこまで言うなら仕方あるまい。
田沼龍(當真あみ)は家重の小姓となり、忠光に連れられ家重に挨拶をするため参上した。

すると「おもでをあでよ」という声が聞こえたが、龍は何を言われたのかわからない。
忠光は顔を伏せたままの龍に「面をあげよと」と小声で教える。

顔を上げた龍は目を丸くしてびっくり仰天。
彼女が見たのは、家重が美男を両脇を侍らせ、だらしない姿勢で酒を飲んでいる光景であった。

お、そあたが、たつか。さあってよいぞ」。

これは「そなたが龍か、下がってよいぞ」と言っている。
びっくり顔のままの龍の前で、侍らせている男の口を吸う家重。
原作の家重は「あ〜〜、さおんさおん〜〜」と言っていたが、ドラマでは「あー。あこんあこん」と字幕がついていた。この人の本当の名前は「左近」だ。

家重はさらに見せつけるように、左近の袴に手を入れる。
原作の家重は腰部から手を入れ股間をまさぐっているが、ドラマの家重は足首のほうから手を入れる若干マイルドな描写。

よしながふみ「大奥」第8巻(白泉社)より

シーン変わって、ひとりで将棋を指す家重。
意外にもしっかりとした指先でパチリと駒を打つと、「おあづー」と不明瞭な発音で龍を呼ぶ。

ようはいえる。ひあいをもていておうえきょうはひえる。ひばちをもってきておくれ」。

家重の命令を龍は聞き取れない。
「え?」と龍がとまどっていると、家重は「ひあいや、ひ・あ・い!」と焦れる。
いまだ家重の要求が聞き取れていない龍は「ひあい?」とオウム返し的に聞いちゃうのだが、その人、上様のご長女、徳川家の総領娘だからね。友達じゃないんだから敬語を使おうね。

命令が伝わらず腹を立てた家重。
将棋の駒を龍の顔にぶつけ、「たあげたわけ!」と怒鳴って部屋を出ていく。

またある時は、金平糖を求める家重に応え急いで有名店の品を用意した龍、いざ家重の前に持ってくると器をひっくり返され「もおえらぬもういらぬ」と言われてしまう。
家重の態度はともかくとして、大奥の廊下を「家重様! 家重様! 家重様!」と叫びながら走ってくる龍の様子が、何だかお行儀悪いし暑苦しくて残念。まだ若いとはいえ、吉宗や加納久光に信頼されている優秀な人物にはとても見えない。

一方、読書中だった家重は背筋をピンと伸ばし、堂々としている。
「もう要らぬ」と言い捨て踵を返すところなど、なかなか風格がある。

原作の家重は常に口が半開きで目に力がなくよだれを垂らしぼんやりとした悲しげな表情でいるせいかだいぶ暗愚な人物に見えるのだが、大きな瞳の表情豊かな三浦透子の家重は存外闊達で愛嬌もあり知性的。
何らかの病のせいで言語不明瞭ながら頭脳はしっかりしている人物という非常に難しい設定なので、原作そのままではなく若干のアレンジを加えたドラマの家重はテレビ的には程よいバランスではなかろうか。
口中にずっと餅を入れたまま喋るような発声で言語障害という設定を乗り切る演出は見事である。

悲しみの五言絶句

正月元旦。吉宗の前に家臣たちがずらりと並ぶ。無論最前列は吉宗の三人の娘たちである。
原作には「正月元旦は/将軍の娘達が/母親である吉宗に/拝謁できる/数少ない機会の/ひとつ」とある。

吉宗が好きだという杜甫の有名な詩「江碧にして 鳥愈々白く 山青くして 花然えんと欲す」を、次女の宗武がすらすらと諳んじてみせた。
宗武の暗唱を褒める吉宗は、家重に対しては「将棋の腕を上げたそうだな」と声をかける。
家重は何か言いたげなのだが言葉が出てこない。……が、様子がどうもおかしい。
それに気づいた大岡忠光が慌てて駆け寄り、「家重様は急にご気分が悪くなった」と言って部屋から連れ出す。
家重が去った後の畳には水たまり。失禁したのだ。
その様子を見る吉宗の表情は険しい。

部屋に戻った家重は、打ち掛けを頭からかぶって泣いている。
そこへ田沼龍が食事の膳を運んできたが、家重は打ち掛けをかぶったままだ。
食べないと体に障ると龍が食事を勧めるが、家重は膳を蹴飛ばし「わだしなーでしんだほがいいのだ。。(わたしなんてしんだほうがいいのだ皆、そう思ってるのであろう。そなたも! 母上も! 私のような役立たずにできるのは、死ぬことだけだ!」と叫ぶ。
号泣する家重を前にして何も言えぬ龍(いや、何か言って差し上げてよ!)。

一方、こちらは吉宗と高位の家臣たち。
次女宗武推しの松平乗邑は「家重様はいまだおしものこともご満足におできになりませぬ。それに比べ、宗武様のあのご聡明さ。どちらがお世継ぎにふさわしいかは自明でございます」「将軍になられるのは家重様にとって、まことにお幸せなことでございましょうか」と吉宗に向かってここぞとばかりに宗武アピール。

そこへ「では、宗武様にとってはお幸せなことなのでございますか?」と食い気味にぶっこんできた加納久通。
ふいをつかれた乗邑は、一瞬ぐっと詰まるが「そ、そりゃあ」と言い返す。
だが、久通は引っ込まない。にっこり笑って「それはなにゆえでございますか? 宗武様がなりたがっておいでだからですか? 宗武様がそうおっしゃられたのですか? 貴殿にそう頼まれたのですか?」と畳み掛け、さらに「 本来、嫡子でない者を家臣が担ぎ出し跡目を云々することを俗に謀反と申しますが、この一連さようなものと捉えてよろしいか」と語気を強め、乗邑を追い詰める。

謀反などというヤバいワードが登場して慌てた乗邑は「わ、私はただ徳川と世のためを思って……」と言い訳するのだが、久通はまだ許さない。
上様がそなたより徳川や世のことを考えていないとでも言うつもりか? 不遜の極みとはまさにこのこと」。享保の論破王爆誕。ぐうの音も出ない乗邑。

さて、死にたいと嘆いている家重のもとへ一度訪ねてほしいという田沼龍の必死の訴えを聞き、吉宗は家重の部屋へ赴く。
静かに親子で将棋を指していたが、家重がパチリと駒を置いた途端、「何ということじゃ。いつの間に追い込まれておった」と吉宗は驚く。家重は得意顔である。
だが、親であり上様である吉宗を負かしてしまったことに気づき、不自由な口で「申し訳ございません」と家重が言うやいなや、吉宗は「謝るな! 勝負事に親も子もあるか」と叱りつける。

のう、家重。私はそなたを馬鹿だと思うたことは一度もないぞ。これがその証じゃ」。

「先を見通す力がなければこんな手は指せない」とか「そなたは秀でた頭を持っている」とか「秀でた頭を持ってしても容易にゆかぬ事がたくさんある」とか「将軍とは投げ出すことも許されず時には恨みを買う」などとこんこんと言って聞かせた上で、家重に「将軍になれるか」と問うのだが、家重は「私にはできませぬ」と答える。
そりゃそうだよ。ハードル高すぎるでしょ。家重じゃなくてもビビるでしょ。
政治は家来に任せて子作りさえ励んでおけばあとは安楽に暮らす将軍コースだってあるはずなのに、母吉宗がワーカホリック将軍だったばかりに、気の毒な家重は追い詰められてしまうのだった。

吉宗は家重の顔をじっと見つめて言った。
「役立たずだから死にたいと言うておったと聞いた。裏を返せば、それは生きるなら人の役に立ちたいということ。違うか?」。
見返す家重の大きな瞳に涙がにじむ。

そして、ずっと黙っていた家重が口を開いた。

「江碧にして 鳥愈々白く
 山青くして 花然えんと欲す
 今春 看又過ぐ 
 何れの日か 是帰る年ならん」

吉宗の前で宗武が諳んじた杜甫の詩を、不明瞭な発声ながら暗唱する家重。
本当は家重だってこの詩を知っていた。
だが、みっともなくて声を上げることができなかったのだという。

「私はさような意気地なしでございます。それでも……そんな私でもできますか? 誰かの役に立つことが」。
これを聞いた吉宗の瞳も潤んでいる。
すっくと立ち上がると家重の側に行き、娘をしっかりと抱きしめ囁いた。

「跡を頼めるか、家重」

吉宗に抱きしめられた家重は、「ははうぇーははうえ…」と言って慟哭する。
そして、これで次代の将軍は決まった。

原作の重要な場面を詰め込み、またオリジナルのシーンも盛り込んで、お腹いっぱい大満足の45分。
エンディング直前のシーンに流れてドラマの魅力を大きく損ねているポップソングが、今回は次回予告で流れていたのも大変ありがたかった。

どうなる、最終回

いよいよ、次回は最終回。
原作では、今回ドラマで描かれた母娘が抱き合う感動的な場面のすぐ隣のページに、

…九代将軍
家重は
将軍の座に就いた後も
酒色に溺れ
無能な将軍として
その一生を終えた

よしながふみ「大奥」第8巻(白泉社)より

という、読者の心情を一切忖度しない虚無感溢れる文章が書かれているのだった。
おそるべし、よしながふみ!

そして、そのページをめくると

そして
家重の小姓であった
田沼龍が
成人して名を
意次と改め
後に老中として
政治の表舞台に
登場する事となる

よしながふみ「大奥」第8巻(白泉社)より

と書いてある。

もし原作通りにドラマが進むのならば、この後は田沼時代に突入し、「意外や仲睦まじかった家重と御台所」とか「牢に入れられたお部屋様と珍しい男の板前」とか「大御所となっても活躍する吉宗」とか、面白い話がたくさん出てくるのだけれど、残りあと1回しかないから次回は進吉が大活躍する赤面疱瘡に関するオリジナルエピソードが中心になるような予感(だって「八代将軍吉宗・水野祐之進編」だから!)。あと、杉下臨終の話も入れてくるかも。

これを書いている現在、とっくに最終回の放送は終わっているのでちょっと検索すれば内容はわかるのだが、あえて情報ゼロで最終回を見る所存である。さて、私の予想は当たっているでしょうか?【み】

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