映画の感想文「惜春鳥」

「惜春鳥」(1959 / 松竹)。
木下恵介が執筆したオリジナルのシナリオを自ら監督した作品。

「せきしゅんちょう」というタイトルがいやに古風だし、物語の舞台は福島県。
昭和時代の渋谷の風景を追いかけている我々としては“圏外”の作品なので関心が湧かなかったのだが、まったく期待せずに観てみたらこれがかなり面白かった。

会津若松の高校を卒業した仲間たちと白虎隊の哀史を重ねて描いたほろ苦い青春映画。
東京に進学した仲間の帰郷を受け久しぶりに皆で集まる。
久々に再会した5人は、卒業後のそれぞれの立場の違いから価値観にずれが起きている。そこに一人の大きな「嘘」が発覚しそれをめぐって意見の違いは決定的なものとなり……。

母が経営する高級サロンでバーテンダーをしている牧田康生(津川雅彦)、地元の大きな旅館の息子で調理場の手伝いをしている峯村卓也(小坂一也)、工場で働き組合活動に参加している手代木浩三(石浜朗)、アルバイトしながら東京の大学に通っている岩垣直治(川津祐介)、会津塗職人で片足が不自由な馬杉彰(山本豊三)。

津川雅彦と小坂一也の仕立ての良い外套と山本豊三と川津祐介のジャンパー。
彼らの貧富の差は衣装でも明らか。

5人の友情譚に恋愛をめぐる確執、津川雅彦の叔父(佐田啓二)の駆け落ち騒動等の要素が加わったかなり複雑な状況を、観客の混乱をきたすことなく見事に描いている。

ついでにいうとこの映画、友人同士で違和感を覚えるほど身体的接触をする。
特に圧倒的な美青年時代の津川雅彦が風呂場で横たわるシーンは、「さぶ」の表紙を連想させ明らかなゲイ風味を感じた。

ウィキペディアには長部日出雄らによるこの“ゲイ風味”について触れた文章が紹介されている。

木下はこの映画で一種捨身のカムアウトとすら思えるほどに、はっきりとゲイの青年の心情を浮き彫りにする。邦画メジャーの中で、初めてゲイの青年が<可視>のものとなった、と言ってもいい。

石原郁子. 異才の人 木下恵介―弱い男たちの美しさを中心に. パンドラ, 1999.(ウィキペディア)

いま初めて観る人は、作中に描かれる男同士の愛情表現の強烈さに驚くだろう。(中略)ゲイ・フィルムであるかどうかは別として、作中の山本が川津を恋しているのは、間違いなくその通りだとおもう。

長部日出雄. 天才監督 木下惠介. 新潮社, 2005.(ウィキペディア)

ラストで「嘘」をついた一人が仲間にプレゼントしたマフラーを、4人が捨てたり、拾ったりするシーンが嘘をついた一人に対する4人それぞれの感情をセリフなしで見事に描いていて秀逸。【福】

相関図

目次