映画の感想文:「弾丸大将」

U-NEXTで「弾丸大将(1962年/東映/監督:家城巳代治)を観た。
原作は赤江行夫の小説「不発弾」。次々と登場人物が死んでいく陰鬱な話ではあるが、昭和30年代生まれの我々が今まで知らなかった世界、見たことも聞いたこともなかった暮らしを、橋本忍のシャープなシナリオと抑制の効いた演技にテンポの良い演出で見せる非常に面白い映画だった。

目次

不発の善ちゃん

米軍の射撃演習場で砲弾や銃弾の薬莢や不発弾を命がけで回収し、換金して生活している「弾拾たまひろい」の人々を描く。
主人公は高岡善三郎(南広みなみひろし)。彼は爆撃が終わらないうちから回収に飛び出すことで人一倍の収穫量を誇り、不発弾の善ちゃん、略して「不発の善ちゃん」の異名を持っている。

映画では「不発の善ちゃん」の命知らずぶりとバイタリティあふれる生活力がテンポよく描かれ、愛嬌ある彼のキャラクターが大きな魅力となっている。
善ちゃんは休憩中の米兵の余興に柔道を披露して取り入り、演習場の道案内として米軍に採用される。演習に同行すれば機関銃の薬莢が山ほど手に入るのだ。彼は米軍でも人気者で、薬莢と引き換えに酒を売ったり女の世話をしたり自分の恋人に兵隊たちの衣類の洗濯をさせたりと手広く商売をして儲けていく。
度胸と愛嬌で儲けまくる善ちゃんを悪く言う者もいるが、彼は気にしていない。誰よりも早く現場に飛び込み、薬莢を拾い不発弾を掘り出すだけだ。

ほかの村人はみな地道で生真面目だ。彼らは安全に金属を入手するため、組合をつくって米軍から正式に払い下げてもらおうとするが、命をかけて村で一番稼いできた善ちゃんにとって平等に回収作業をするのは死活問題で、彼の反対で立ち消えになる。
村人を演じるのは加藤嘉木村功織本順吉などいかにも真面目そうな面々。彼らと善ちゃんの対比がまた面白い。

善ちゃんの恋

そんな善ちゃんに出会いが訪れる。
隣村で弾拾いの最中に爆発事故で死んだ大谷(坂井一夫)の妻マキ(淡島千景)だ。
美しいマキに恋した善ちゃんは彼女のために毎日大量に薬莢を分けてやり、受取人の名義をマキにして生命保険に加入することまで考える(「不発の善ちゃん」の二つ名が伝わった途端、代理店に断られる!)。

しかし、マキには意中の人がいた。
同じ村の実直な男但見(木村功)だ。だが、但見は不発弾の処理作業をしている最中に爆発事故で死んでしまう。
その後、マキは薬莢拾いの途中出会った道に迷った米兵ビリー(ジョージ・M・リード)と懇意になり、彼と結婚の約束をし、「アメリカに行くなら着物を1枚でも多く持っていきたい」と言ってその資金作りのために危険な不発弾拾いにまで手を出す。
そして、結果的に彼女は不発弾の回収で無理をして爆死してしまう。

自衛隊がやってきた

米軍撤退後、同じ場所で自衛隊が演習している。
以前のように薬莢や不発弾を回収しようと村人たちが待機しているが、自衛隊は村人を演習場に入れてくれない。
「米軍は落ちている薬莢を回収させてくれた」と村人たちは自衛隊に訴えるが、薬莢も国の財産だから拾わせるわけにはいかないとけんもほろろだ。
演習の様子を見ていると、射撃しているガトリング砲から飛び出す薬莢を回収するための受け皿が設置されている。これでは弾拾いはできないと落胆する村人たち。

ラストは善ちゃんが自衛隊の薬莢をかすめ取って逃げていき、「不発の善ちゃん」が健在であることを見せて終わる。

モデルとなったと思われる事件

人々の出会いも別れも、すべて爆発による死がきっかけに進んでいく、当時の弾拾いの人々の実に荒っぽい人生を描いている。
米軍の射撃の合間を縫って草がぼうぼう生えている地面を這って薬莢を探す。不発弾は落とせば爆発する可能性があり、しかも売りさばくには慎重に刃物を使って加工しなければならないという甚だしく危険なまさに命がけの仕事である。
村人たちは本来は農民なのだが、自分たちの土地を米軍に徴収されてしまい、残った土地で畑を作ってもたいした稼ぎにならないので割の良い弾拾いをして生活しているのだった。

この弾拾いは実際に演習場周辺で行われていた“商売”で、当時問題になっていたらしい。
この映画が完成する3年前の1957年には群馬県の相馬が原演習場で、弾拾いの女性が米兵に射殺される「ジラード事件」が起きている。
この映画でもジラード事件を意識した弾拾いが米兵に故意に射殺される事件とそれに続く演習場反対の住民運動が描かれている。映画の中では善ちゃんたち村の面々が米軍に押しかけ、演習を続けてほしいと熱望し、感激した米軍がビフテキをご馳走してくれるエピソードになっている。

主演の南広

「不発の善ちゃん」を演じた主演の南広(南廣)はもともとはジャズドラマーで、1957年にはバンド「南広とザ・サウスメン」を結成している。この頃からすでに映画俳優としての活動をしており、同年には高倉健主演の「大学の石松 女群突破」に出演、バンド結成を報じる「スイングジャーナル」1957年5月号にも「一時は映画俳優に転身する噂もとんだが、やはり好きなジャズはやめられないらしく、俳優とジャズの二本立で行くという」と紹介されている。
映画「警視庁物語」シリーズファンの我々にとっては、捜査一課の若手刑事役として馴染み深い顔だ。

さて、南広によって演じられた魅力的なキャラクター「不発の善ちゃん」だが、こんな当時の記事を見つけた。

主人公”不発の善ちゃん”に当初予定されていたフランキー堺が、東宝との折合いがつかずに流産して、結局東映時代劇の人気者南広が起用されて、いよいよ撮影が開始されました。

国際情報社「映画情報」1960年7月号

ジャズドラマーだったフランキー堺の代役を奇しくも同じドラマー出身の南広が演じることになったわけだ。清潔感がありハンサムな南広の闊達な演技も素晴らしいが、芝居が達者な個性の強いフランキー堺版も見てみたかった。【福】

※あらすじ・出演者参考:雄鶏社「映画ストーリー」1960年9月号

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