オープニングテーマのクレジットに「近藤正臣」の名があるとヒヤヒヤする。
近藤正臣演じる組合長・三浦平蔵が登場すると、何かしら困ったことが起こる予感。
組合長への年末の挨拶で「年明けに跡継ぎの三女を連れて挨拶にくる」と言っていたものの、聡子はオハラの後を継がずロンドンへ行くことに。
気まずい糸子は年始の挨拶もそこそこに「すんません、新年早々お恥ずかしい話なんですけど…」と事情を説明しようとするのだが、組合長、なんだか挙動不審である。
もっとも、組合長はいつも何か腹に一物かかえているような複雑な芝居をするので特段珍しいことではないのだが、しかし、また何かトラブルの種を……? 大丈夫か糸子!
あたふたする組合長が言うことには、ちょうど今、周防が帰ったところなのだという。
「そこな……今の今まで周防が座っとったんや」。慌てて椅子から飛び上がる糸子。
「いや、あいつ、長崎へ戻るんやて。あいつとこもやな、子どもらみんな独立してるし、かみさん死んでもうあいつ一人や。そういう風になったら、『やっぱり生まれ育ったとこに帰りたい』そう言うとった。長崎の田舎に一軒家買うて、畑かなんかやりながら、こう、暮らすんやて。ハハハ」
ハハハじゃないよ、組合長。
聡子に看板を譲り損ね、昌子と恵に大層叱られてしょんぼりしている糸子になんという話を聞かせてくれるのか。
泉州繊維商業組合には周防と糸子の仲をどうにかしようという目標でもあるのだろうか。
周防の妻が亡くなったと聞いた時、つきあっていた頃のあれやこれやを夢に見た糸子である。
周防を追って長崎に行っちゃったらどうするの。あ、もう二人とも独身だから別にいいのか。いや、でも、それではこのドラマはどうなる。
そんなことより気になるのは、長い間大阪で紳士服の店を開いていた周防が子が独立し妻を失ったからといって長崎に帰ってしまう不思議。
大阪では親しい友はできなかったのだろうか。長崎に帰るのは親戚や知人を頼ってのことだろうか。長崎で紳士服の仕事をしないのは何故だ。テーラー一筋だった周防に畑仕事が務まるのだろうか。
次から次へと浮かぶ謎。
そして、糸子は泣くのである。
「寂しないですやろか……そんな一人で…また新しいとこで…」。
目に涙をためる糸子を見て狼狽する組合長。
自分も涙声で「寂しくないかもしれないがもう心配してやるな、あいつが自分で選んだ道だ」とか言うのだ。
何をしたいんだ組合長。「心配するなよ? するなよ? 絶対にするなよ?」というダチョウ倶楽部的なアレなのか?
優しくて飄々としているが何やら一癖ありそうな爺さんを演じる近藤の芝居の見事なこと。
すっかり引き込まれてしまって、彼が糸子に何かを言うたびついテレビに向かってツッコミを入れてしまうのだった。
若い頃はちょっとキザな二枚目だったのにねえ。まさかこんな風になるとはねえ。
そして、少女の頃から人の恋心に疎い糸子。
齢五十を超えてもその特性は変わらず。
聡子に母の好きな花を教えてもらい、カーネーションの立派な花束を持って小原家を訪ねた北村。
すっかり有名デザイナーに成長した優子とライセンス契約を結ぶのだという。
「聞いてへん」と糸子。
そして来年あたり二人とも東京に進出するという。
「そんなんなんも聞いてへん」と糸子。
優子の夫の悟との仲はあまりうまくいっておらず、優子は別れたいと言っているらしい。
「ほんまかいな」と糸子。
花瓶に生けた真っ赤なカーネーションの花束を見て糸子はひらめいた。
「アンタ、なんで急に花なんか持ってきてん? わかってんや。ウチはな、昔っから人より疎いよって、こういうことに。せやけど、アンタらウチの目を盗んでなんちゅうことを! おお?」
えー、なんでそうなるんだよ糸子。
ビックリする北村。私もビックリしたよ。
「優子と北村ができている」というひらめきが勘違いだとわかって安心して笑い転げる糸子。
「この花はよ、この花は……お前に買うてきてんど!」
糸子、毒気を抜かれて小さい声で「おおきに」。
いいぞ北村、その調子だ。チャンスだぞ!
「お前……長崎行けへんのけ?」と北村。
「行けへんわ…行くかいな」と糸子。
おお、ますますいいぞ。まだまだ北村のターン!
「ほな、わい!……わいと東京行けへんけ?」
よっしゃ、北村ついに決勝点を入れたあ!
しかし、糸子は「東京? 何しに?」なんて言うのである。
逆に毒気を抜かれてしまった北村。
「何しに?……仕事や、決まってるやんけ。東京の会社の副社長になってほしい。いや…社長でもええど。お前がそっちの方がやりやすいんやったらよう」。
あーあ、9回裏、北村のホームランで試合は決まったかと思ったら外野フライで3アウトチェンジなのだった。
糸子は「しばらく考えさせて」。延長戦突入である。
糸子の恋心への鈍さは北村の予想を遥かに超えていた。
だが、糸子の反応は悪くない。強気かつ慎重に行け。ガンバレ北村!【み】