弾ける女子家光! 場をさらう冨永吉宗! NHKよしなが大奥第3話

NHKドラマ「大奥」第三話(2023年1月25日/NHK総合)。
電子番組表に表示されているタイトルは「大奥 三代将軍徳川家光・万里小路有功(3)」なのだが、「三代将軍徳川家光・万里小路有功編」の2話目である。これわかりにくいね。
折からの大雪により本日の放送は上部と左部にニュースが表示されている。せっかくの「大奥」が見づらいこと甚だしいがこればかりは仕方がない。被害にあわれている皆様の無事を心からお祈りします。

先週、お万こと万里小路有功(福士蒼汰)が家光(堀田真由)から賜った子猫は若紫と名づけられた。
この「若紫」は「源氏物語」の登場人物にちなんだものという由来を家光に懇切丁寧に説明する村瀬正資(岡山天音)。「若紫」だけでは通じない視聴者を想定した原作にはないくだり。
そして、あっという間に子猫の可愛さの虜になる女子家光。

先週、有功の食事の椀にネズミが入っていたのを見て激怒して御膳所に怒鳴り込んだ玉栄。中臈3人組に返り討ちにされ乱暴されてしまった。
今週は二度とネズミなど入れられないよう、御膳所の有功の膳の用意を見張っている。

しかし、「震えているではないか」「かわいい奴だな」などと言いながら、またしても御膳所に中臈3人組登場。角南(田中幸太朗)にいたっては玉栄の尻を撫でたり揉んだりしながら「いっそわしの部屋子になるか」とか言うわけである。
まあ、我々の知っている玉栄ならば激高して角南に殴りかかったり、「寺で散々坊主達に尻を使われているからこんなこと何でもないわ!」とか怒鳴りつけていそうなものなのだが、今作の玉栄は中臈3人組が言う通り、おどおどと怯えているのだ。有功の前でもしょんぼりしているから「何かあったんか?」と心配されている。
なんでよ玉栄! アンタそんな男じゃなかったでしょ玉栄!

一方、こちらは家光。
春日局(斉藤由貴)に命じて持ってこさせた「源氏物語」を子猫を膝に乗せモフモフしながら読んでいる。
キョロリンと大きな目と丸い頬や顎のあたりが斉藤由貴に似ていると思う。

そこへ春日局参上。
おお、ご本人様登場だ。ふたり揃った場面で見てもやっぱり似ていると思う。そのうち大河ドラマとか朝ドラでヒロインの少女時代と中高年時代をふたりで演じるかもしれない(もうどこかでやってたらごめんね)。

さて、なぜか春日局も子猫若紫にぞっこんである。特製の「猫用七色飯」をわざわざ自ら持ってきた。
食が細かった家光(本物)のために考案した「七色飯」を、まさかお猫さまで映像化するとは!

その後、家光は有功にこの「七色飯」の説明をする。
その「七色飯」の原理が応用されたのが「大奥」であると即座に見抜く有功。
公は男色であったからな。あれもこれもとおなを揃えれば、ひとつくらいは手を出すであろうと」。
涼しい顔で父家光のきわどいエピソードを披露する女子家光。
この人は11歳まで市井で女の子として育ち、その後は家光の代役の上様として江戸城に閉じ込められていたのだが、一体どこでこんなヤバい話を仕入れたのやら。大奥おそるべし。

どうでもいいけど、字幕を見ると「男色」には「なんしょく」とルビがふられていたが、原作では「だんしょく」とルビがふってある。どっちが正しいとかではないのだろうが、このくらい原作に揃えたっていいのにと思った。
また、原作の家光は「父は男色好み」と言っているのだが、このドラマの家光は「公は男色であったからな」とズバリ直球!

左が「大奥」第2巻(白泉社)、右が「大奥 三代将軍徳川家光・万里小路有功(3)」

「七色飯」の話で盛り上がる有功と女子家光。和気藹々。急接近。いい感じ。
ところが何気なく父の家光と母の話を振ってしまう有功。黙り込む女子家光。

その夜、その時の女子家光の不自然な表情や「家の外、よそで食う飯はうまかった、そういうことだったのではないかの」という謎の言葉にひとり悩む有功。

おいおい、誰か事前にこういうことはちゃんと教えておいてあげてよ。
お忍びで江戸の町に繰り出した本物家光が春日局への反抗心と戯れでたまたま通りがかった女性をレイプして出来た子が女子家光=千恵なのだ。

ていうか、全10回の「大奥」なのにまだこんなところで立ち止まっていて大丈夫なの?
この後あんなことやこんなことがあるわけで、しかも「徳川綱吉と右衛門佐編」がこの次に控えているらしいじゃないの。
ああ、こんなことなら大河枠で全48話で制作してほしかったよね。
そうしたら、あの天下一凛々しい冨永吉宗公のエピソードももっと盛り込めただろうに!

さて、それはともかく、玉栄の「通りがかりの僧隆光に『そなたは将軍の父となる』と言われた」エピソード来たよ! 大事なポイントをきちんと入れ込む手堅い脚本。

ところが! その話をしているのは上様の御前なのだ。

女子家光

なぜ好き好んでそなたのようなガキを選ばねばならぬのだ

玉栄

わたしかてあんたみたいなクソガキ好みやないわ

あらまあ、なんと砕けた会話。ひょっとしてもうみんななかよしになっちゃった? 大奥イズフレンドリー。
角南に尻をつかまれてふるふるしていた玉栄なのに、こんなところではやたらと強気である。
もちろん村瀬に叱られるが、いまだ玉栄のターン。

玉栄

ほんまのことやろ! あんたから上様取ったら残るんはクソガキだけや!

まさか上様本人にじかに言うとはね。
問答無用で斬り殺されても仕方のない口の悪さ。ここまで黙って見ていた有功も切腹ものだ。

おっとり刀で家光をなだめる有功(今頃遅いよ!)
家光は傲然と立ち上がり、「つけあがるなよお万! わしは誰の子も産まん! もちろんお前の子もな!」と言い放って部屋を出ていく。
最初のお目通りの時のように扇子で打擲してやればよかったのに!
優しすぎるぞ上様。有功に甘くなってるぞ上様。

原作では京言葉を「薄気味悪い」から直すよう言われるシーンがあるのだが、このドラマではそのシーンをすっ飛ばして春日局と標準語で語り合う有功。
見栄えよし、貫禄よし、衣装よしの立派な春日局なのだが、腹に力の入っていない現代的な発声なのが惜しい。

春日局いわく「上様は最近『源氏物語』を読んでいることもあり、美しい歌を差し上げてその気にさせてほしい」。
しかし、必ず言い返しちゃうタイプの有功、またもや反論するのである。

有功

確かに上様は源氏をお読みになってはおられますが、恋物語に少女らしく憧れておる、ということではないようにもお見受けします

ちょっと待ってちょっと待って。細かいことだが気になっちゃうよ。
女子家光は十代半ばではあるが、この時代の武家の女性としては結婚適齢期だろう。おそらくこの時代の感覚では「少女」ではないと思うよ有功。

このタイミングでなぜか「斬り殺された女子家光の最初の男」の詳細を尋ねる有功。
いや、それを知ってどうしようというのか。
春日局も微妙な顔をして「どのように出来た傷かはわからずとも塗る薬があれば傷は治るものでございましょ」とふんわりとしたことを言う。
有功は「薬を間違えればかえって傷を悪くすることもございましょう」と重々しく応える。
何ぞこれ。禅問答なの?

春日局

上様にとってもっとも良く効くお薬はお子でございます

家光の死を隠し外で産ませた女児をさらってきて家光の代役にする→赤面疱瘡がまだ流行していない西国の健康な男子を招き女子家光に男児が生まれる→女子家光死亡→次の将軍誕生」というのが春日局の計画である。
まあ、そういうことだよ、春日局が言いたいことは。
ごちゃごちゃ面倒言わずにとにかく女子家光を惚れさせてさっさと子をなせ、と。
子猫だの源氏物語だのでキャッキャウフフさせるためにわざわざ京都から招いたわけではないのだ。

有功

しかしお子をもつことそのものを望んでいらっしゃらぬような

ああもううるさいな有功。もうここまで来たらそんな現代的な話じゃないのよ。
…と思わず有功に毒づくわたし。だって家光編はまだまだ先が長いんだもの。とっとと先に進んでくれないと困る。

ここで原作でも非常に印象的なエピソード「若紫殺し」投入。
これを外すとこの後の綱吉編に繋がらないからね。

原作では計画的だった「若紫殺し」だが、このドラマでは若紫を探しにきた玉栄が中臈3人組の悪巧みを偶然立ち聞きして発作的に行う。
殺猫現場の刀の血曇りの確認から若紫の弔いまで、オリジナルのセリフも交えわかりやすく描いていて巧い。
ただまあ気の毒なのは角南役の田中幸太朗。役者にとっておいしい切腹シーンがカットされてしまった。

おっ、中臈の女装まつりのエピソードも来るぞ!
原作ではこのイベントをきっかけに女子家光が有功に心を開く大事なシーンだから、これも抜かすわけにはいかない。

女装させられた中臈達がぎこちなく踊るのを見て大笑いしている女子家光。
原作では3人の中臈達が踊っているのだが、このドラマで踊っているのはふたりだけ。角南が死んじゃったからだね。

「大奥」第2巻(白泉社)より


ゲラゲラ笑いながらも有功との思い出が去来して女子家光は泣き笑いになる。
そこへ登場したのが女装した有功だ!

……いや、まあ、原作のようにはいかないよね。
この件に関しては私は誰も責めないよ。
イケメン=女装が必ずしも美しいというわけではないのは知ってたし。

原作の女装有功は超弩級の美女。長身なのに女物の着物もサイズぴったり。
ほら、そこはそれ漫画のマジックだから! ファンタジーだから!
ドラマの有功が腕が半分にょっきり出たつんつるてんの着物を着ているのは現実だから仕方がないのよ。

この第三話は女子有光役の堀田真由が大健闘だった。
若干あどけなさすぎるきらいはあるが、このドラマの設定では「少女趣味(ではない)」などと語られる幼さがあるのでそれも含めて一等賞。45分のドラマを主人公としてしっかり牽引していた。

しかしながら、最後になって登場した吉宗(冨永愛)がまたもや全部かっさらっていくのである。

大奥の記録書である「没日録」に有功と女子家光のなれそめが書かれていて驚く吉宗。
「このおふたりの子が四代家綱公か?」と問う吉宗に「まあ、お進めくださいませ」と「没日録」のその先を読めばわかるとばかりにニヤニヤする老村瀬正資(石橋蓮司)。

私は歴代の色恋のあれやこれやを知りたいわけではないのだがの」という吉宗のセリフに膝を叩く。そうよその通りだわよ吉宗様。よくぞ言ってくださった。この放送の後、膝が腫れ上がって痛い視聴者が日本中に溢れていると見たね。冨永吉宗の格好良さには問答無用でシビれているけれど、それはともかくドラマがこういう保険をかけてはいけないと思う。

さて、女子家光、有功とめでたくお床入り。
長い髪のかもじをつけ女性らしい形となり、話し方もすっかり優しくなっている。
「有功がどんなことを好んでどんなことを嫌がるのかわかってきた」と言う家光を見て、有功は「なんでこんなに可愛らしい
かいらし
んや
」と布団にそっと押し倒して標準語のアクセントでキメの一言。

有功

好きですよ。上様。

えーー。そりゃないよ有功。なぜ標準語。
そこは京言葉で言ってほしかった。

ちなみに原作ではこう。

私に嫌われたら
どうしようなどと
お考えになっている
あなたがいとうしうて
ならぬのやないか
千恵様

あなた様が好きや
好きや

好きや…!!

「大奥」第2巻(白泉社)より

どうですか、だいぶ感じが違うでしょ?
私は断然原作版派。きりりとした良い声の標準語で「好きですよ」とした意味がわからない。

ドラマを見ながら思ったことをつらつら書いていたら、とんだ長編になってしまった。お恥ずかしい。
次回も「三代将軍徳川家光・万里小路有功編」。
玉栄はどうなるのか。お伝の方は誰が演じるのか。冨永吉宗公はまた登場するのか。来週も楽しみだぞ。【み】

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