「カーネーション」東京の優子

今日の回は、上京した直子が東京駅で無事に姉と合流、二人で優子のアパートへ向かうシーンから始まる。

もう卒業しているのになぜか高校のセーラー服を着てきた妹を訝しむ優子。不審がる姉をよそにさっさと布団を敷いて寝る直子。
せっかく上京して服飾の学校に入学したというのにちっとも東京になじまず部屋で暗い顔をしてデッサンばかりしている妹を気にした優子は、外出に誘ったり自らの友人を部屋に招いてみたりするのだが、直子は相変わらず仏頂面のまま。

外出用の服がないのなら自分の服を貸してやるという優子に対し、直子は「姉ちゃんの服なんか、格好悪ぅて着られへんわ」と言い返す。
姉妹ならではの甘えだろうが、言われた方はこれたまらんわね。
妹をあれこれ気遣ってやっているのにこんな攻撃的な対応をされる優子は気の毒だけれど、メソメソ泣きで我が身の不運を宣伝しまくる姿とか、妹に偉そうに説教していた“長女無双”の優子を思い出すと、まあ、お互い様かなとも思う。

そもそも優子というのは小原家の最初の孫として祖父母に散々甘やかされて育ったおかげで少しワガママなところがあり、要領がいいようでそうでもなく、長女としての責任感から次女・三女に威張る…という少々感情移入しづらいキャラクタ。
そして、優子を演じる新山千春に関しては、キャスティングが発表された時からドキドキし、先週の初登場の時からハラハラして見ていた。だって母の糸子役の尾野真千子と実年齢が同じ、学年でいうと1年上なんだよ。しかも一児のお母さんだ。
演技者としてのイメージも薄く、なにより関西出身ではないのも心配の種。
世界中に何万人もいるだろう女優の中から、どうして主人公の長女というドラマ後半を背負っていく大切な役に新山を抜擢したのか不思議。

しかし、今日の「もう知らない! 勝手にしなさい!」や、その前の化粧をしながら喋っているシーンでの「せっかくなんだからさ、あんたも来りゃいいじゃないの」の台詞回しがいかにも時代の気分。
半分だけ裏声のような発声で、スカスカと息が漏れているような、またポキポキと滑らかでない喋り方をするのが毎日気になっていたのだが、今日はそのギクシャクした発声と発音の東京弁がうまくハマった。

1961年に放送された「男嫌い」というドラマがある。

主演は、越路吹雪、淡路恵子、岸田今日子、横山道代。
日本には珍しいアクの強いドラマであった。短期間の放送とはいえ、印象が強烈で、「戦後に強くなったのは女と靴下」という当時の表現をそのまま絵にしたようなシチュエーション・コメディである。【以上、小林信彦・著「現代<死語>ノート」岩波新書刊より引用】。1961年に「東レ サンデーステージ」枠で単発ドラマとして放送され好評だった『男嫌い』を連続ドラマ化したもの。4姉妹と末っ子の師弟愛を通して、女性の目からみた男性批判をコミカルなタッチで描く。好評を博したため、正続2編映画化された。「カモね」「そのようョ」「まあネ」「ムシる」「カワイ子ちゃん」などの流行語を生んだ。このうち「カワイ子ちゃん」とは、年下のかわいい男性をさす。横山道代が劇中で使ってはやらせた。提供・いすゞ自動車。一部資料では1964/04/09放送終了と記載されているが誤りと思われる。

ドラマ詳細データベースより

流行語になった「カモね」「そのようョ」「まあネ」は、おそらく当時としてはあまり品のよろしくない蓮っ葉なイメージ、若い女性が使うとオトナ達が眉をひそめるような喋り方だったのだろうと思う。
昔ながらの東京弁の山手言葉や下町の江戸言葉とはちょっと違う1950年代から1970年代頃に東京の若い女性が使っていたぶっきらぼうで少し早口な喋り方。ひばり・チエミ・いづみの三人娘の映画や梶芽衣子の「野良猫ロック」シリーズあたりで見ることができる気がする。

で、オトナが嫌がるような喋り方というのは、服飾の学校に通うような流行に敏感なオンナノコがいかにも使いそうだ。
演出の力か新山の努力か、はたまた偶然の産物なのか。
いずれにせよ、この「オシャレな地方出身の女の子」的な喋り方ならイケるぞ優子。

これからドラマで描かれる60年代、70年代がどう描かれるのか、ファッションデザイナーという華やかな職業の彼女達の交友関係、東京の風景。
善作や奈津といった前半の主要なキャストが次々と去り、糸子は中年になって若干パワーダウン、ドラマがなんとなく寂しくなっていたけれど、今後が楽しみになってきた!

ところで組合長。
その「上物の舶来の反物」を10反も糸子に売りつけたのは何か魂胆あっての事ですか?

なぜか糸子と周防の不倫を焚き付けるような言動、結局二人は恋に落ち大騒動に。そして、糸子と周防について金銭絡みのウソの噂を流すという商人としては致命的な事件を起こした北村が今も泉州繊維商業組合で大きな顔をしているというこの現状。
そのどれもこれも実は組合長が裏で糸を引いているのでは…などと穿ったことを考えてしまうのですよ。

組合で知り合った女性経営者達とサン・ローランの悪口で調子よく盛り上がっているシーンも北村と組んで舶来の反物10反を売りさばこうと相談しているシーンも悪い事が起こる前触れにしか見えないし、トラペーズラインを糸子が頑に否定するところを何度も何度もしつこく見せているが、これも何か痛い目にあう伏線なのでは…。大丈夫か糸子。【み】

目次