東京に行くのに着ていく服がない、パーマでもあてなければ田舎者とナメられるとスネる直子。岸和田より東京が偉いと誰が決めたんやと叱りつける糸子。
直子がこれから入るのは服飾の専門学校なのだから、他の学校よりもファッションにうるさい学生が集まっているだろう。仮にも洋装店の店主ならそのくらいは察してほしい。
戦時中に父・善作が亡くなった時は経済的な余裕がなかったにも関わらず、番頭の昌子の心配をよそに「立派な葬式あげちゃる」と気風がいいところを見せた糸子ではないか。案の定、その後小原家の食糧が尽きて青くなっていたけれど。
だから今回だって直子が悩んでいるのを知っていたのだから、「洋裁屋の娘が野暮ったい服を着ていって東京で笑われたら店の恥や」とかなんとか言って徹夜してでも流行の服を何枚もこしらえて持たせてやるのかと思えば、それどころか小遣いを貯めてこっそりパーマをかけにいった直子を見つけて「絶対あかん、脛かじりの癖に百年早い」なんて怒鳴ってあきらめさせる始末。
ああ、誰か直子の味方はいないのか。
千代は赤ん坊の頃に預かって育てていたから優子への思い入れは特別だろう。そもそも優子は初孫だし。
だったら神戸はどうだろう。幼い頃「ゴンタ娘」と呼んで三姉妹を可愛がってくれた松坂の叔父はどうなんだ。自分の孫で手一杯か。
もちろん直子が猛獣と呼ばれて大暴れしていた乳幼児期に散々迷惑をかけられたであろう昌子に期待するのは酷というものである。
そうだ、北村は一体何をしているのだ。
数ヶ月に一度オハラを訪ねてきては三姉妹に喫茶店で甘いものを奢って機嫌よく喋っているあの北村だ。オハラに来るたびに「もう今日は帰るから」「お婆ちゃんが用意してるから寄っていって」「いや帰るって」「まあそう言わずに」と三姉妹相手にミニコントを演じてから結局夕飯を食べていくあの北村だよ。
もう10年も婦人服でメシを食っているのだから、これから東京に行く直子の不安も多少はわかるだろう。直子に似合いそうな服を2~3着見繕ってポンとプレゼントしてやったらどうだ。
もしも北村がそんなことをしたら、そりゃ糸子は怒るだろう。
きっと「余計なことをしくさって」とか「こんなんコドモには贅沢や」とかキーキー文句を言うね。でも、北村的には糸子と喧嘩するのもまた楽しいのではないかと推測する。
そういえば、優子が上京する時はフィフティーズ風のしゃれたファッションだったが、あの可愛い服は誰が誂えてやったのだろう。千代か、糸子か。あるいは優子が自分で縫ったのか。
私は直子に肩入れしているのでついやきもきしながらドラマを見ていたのだが、結局「中途半端なモノを着るくらいならコレでいい」と高校の制服で旅立ってしまった。
このセンス、この思い切りの良さ、服飾関係の道を目指す者として前途有望とみた。
母の糸子でさえ笑っているのか怒っているのかわからないというあの仏頂面では上京してからしばらくは苦労しそうだが、そのうち良い友もできるだろう。
ウマの合わぬ優子との同居はしんどいだろうが、自分でお金を稼ぐようになれば一人暮らしも夢ではないぞ。
ガンバレ直子。おばちゃん応援してるからね。【み】