祝・吉宗ご出産! 小石川養生所の医師に片桐はいりは名配役!NHKよしなが大奥第8話

ドラマ「大奥」第8回「八代将軍吉宗・水野祐之進編」(2023年2月28日/NHK総合)

御右筆の村瀬が死んだと加納久通から報告を受ける冨永吉宗。
原作の村瀬は吉宗と話している最中に突然バタリと倒れたまま身罷っているのだが、ドラマでは布団の中で息を引き取っていたという。今年で97歳、大往生である。

「丁重に葬ってやれ」と久通に命じる姿がもう凛々しい。
村瀬に解説させながら読み進めていた「没日録」の続きを借り出させることも忘れない。いや、吉宗が言うより早く久通はその手配を考えていた。

凛々しい上様と頼りになる久通の名コンビ。
というわけで、待望の「八代将軍吉宗・水野祐之進編」後編のはじまりはじまり。

「続きがないとはどういうことじゃ!」

シーン変わって大奥総取締藤浪を怒鳴りつける吉宗。
この藤波は、原作の御右筆村瀬に「大奥が始まって以来一番小物の大奥総取締誕生じゃわい」と言われた人。
2010年の映画「大奥」では佐々木蔵之介が演じている。
「有功と右衛門佐を実写化するなら佐々木蔵之介がいい!」と思っていた私を、「大奥総取締ってよりによって藤波かよ!」とおおいに嘆かせた配役だった。つまりそういう設定の人物なのである。

借り出そうとした「没日録」の続きが見つからないという報告を受けたので、吉宗は怒っている。
「盗まれたのか?」と問われ、「そもそも、ここまでしかなかったのではないかと」と返答する藤波。
しかし、吉宗が初めて村瀬と会った時、彼は何かを書き付けていたではないか。それを指摘すると、藤波は「書いていたのは『没日録』だけではありますまい」と言い返すのだ。

このふたりのやりとりを見ている加納久通の微妙な表情を知ってか知らずか、藤波は勝手に話題を替え、「男の好みを教えてほしい」と吉宗に尋ねる。
経費削減の鬼である吉宗が大奥の男たちに暇を出してしまったため、現在、大奥では御中臈不足なのだという。このままでは「総触れもなりたたない」と重々しく言う藤波。
安い禄でも良いから大奥に上がりたいという者は多いと進言するのだが、吉宗に「まずは約束通り、大奥のかかりを三分の一にせよ。それができれば考えてやる」と一蹴されてしまうのだった。

ここで引っ込む藤波ではない。
藤波は先代の家宣の時代から大奥総取締を務めているのである。紀伊の田舎から出てきた新将軍などにナメられるわけにはいかないのだ。

「しかし、それではお世継ぎはどうなさいますのか」と食い下がる藤波。
だが、すでに立ち上がっていた吉宗から「たわけ! 総触れなどなくとも世継ぎは作れる!」と怒鳴りつけられてしまう。
2019年10月31日付「ねとらぼエンタ」によれば、冨永愛の身長は179センチ。髪を結っているから実身長よりも高く感じるはず。しかも吉宗が立ち上がっているのは藤波が座っている畳よりも1段高い高座だ。
高い位置から投げ下ろした角度のついた叱責は、威力十分であろう。

藤波を好演しているのはむっちりねちねちとした感じが非常にしっくりくる片岡愛之助
彼は歌舞伎俳優なので高位の役職を演じる時代劇的な発声もまったく問題なし。

「つづきがないということは、今、大奥にいる誰かにとって、都合の悪いことが書かれているのではないか」。
シーンが替わり、久通を相手に見つからない「没日録」の行方について思案を巡らせている吉宗。
「もし、その誰かが藤波様やそのまわりの者であれば……御庭番に見張らせておきましょう」と久通はにっこり。
原作を読めばよくわかるのだが、ふんわりおっとりとした雰囲気のかわいらしい丸顔の久光は、有能かつ恐ろしい人物なのだ。
将軍直属の密偵である御庭番に藤波の見張りをさせるという提案に「うむ」とうなずき、さらに吉宗は進吉へ書状を出すよう久通に命じる。

進吉? 誰だっけ?

ここで挿入される回想シーン。
映し出されるのは顔に白い面紙を付け、打首にされる寸前の男。
あっ、思い出した! 吉宗の御内証の方として死罪になった水野祐之進だ!

刀は祐之進の首ではなく、面紙を切って落とす。
そこへ現れたのが吉宗。

「そなたはこれで死んだ。薬種問屋の田嶋屋ではのぶという娘が生涯婿は取らぬとだだをこね、親は往生しているらしい。ここはひとつ、婿となり助けてやってはどうじゃ。町人、進吉よ」

原作の吉宗編名場面のひとつである。「祐之進生まれ変わりの場」とでも名付けたい。
笑みを浮かべ心憎い奥の手を出してきた冨永吉宗、これがまた凛々しく格好いい。

そして、それを聞いてビックリする祐之進。そりゃそうだ。
「将軍と最初に褥を共にする御中臈は死罪」と聞き、家族への迷惑がかからないことを確認し、相思相愛のお信を思って死んでいくはずだったのに、とんでもない大どんでん返しがきた!
なお、この「大奥」の世界での御内証の方ルールは「将軍職についてから最初の男」に適用される設定。

吉宗の命で、御中臈祐之進改メ町人進吉が大奥へ呼び出された。
大奥には女性しか入れないから進吉は女装している。廊下ですれ違う大奥の人たちはツンツルテンの着物の進吉を見てクスクス笑っている。

吉宗が進吉を呼び出したのは、この男女逆転大奥の世界で流行中の架空の病「赤面疱瘡」に効く薬を探し出せと命じるためだった。
「そんな薬あるわけない」と吉宗に向かって口答えしちゃう町人進吉。
「薬屋だって、赤面が出るたびに、ありとあらゆる薬を試してきてるんですよ!」。
この進吉、もともとサバサバした気質だった上に、一度とはいえ褥を共にしているせいなのか、将軍に対してものすごく気安くかつ現代的な言い方でお返事するのだった。
でも、この人、もともとは旗本の出だからね? 武士が上様に無理難題を言われたら「ハハァー」と平伏一択でしょうが!
命令に従えなければ腹を切るのみ。いや、もう侍じゃなくて町人だから切腹はできないかもしれないが、自刃して果てるしかないのでは?

まあ、進吉はあれこれごちゃごちゃ言っていたのだけれど、結局「日本中を回って赤面疱瘡に効く薬を探し出せ」と吉宗に命じられてしまったのだった。

それにしても冨永吉宗、背筋を伸ばし掻取を翻して歩く姿のいや美しいこと。
掻取の黒がまたいい色でね。本当に上品な黒なんだよ。

さて、加納久通が吉宗に紹介したのが大岡忠相。
大岡忠相というのはドラマでも有名な大岡越前である。有能な久通が連れてきた人材だから当然忠相も有能。
吉宗は忠相を町奉行に任命し、米の価格調整を一任する。
原作では、いかにも仕事のできそうな風貌の中年女性として描かれていたが、今回演じているのは瑞々しいMEGUMI。かつらも和装もよく似合っていて大変よろしい。

なお、原作の忠相は、1巻の「祐之進生まれ変わりの場」で登場している。
「生まれ変わりの場」の後、吉宗は忠相に向かって「どうじゃ越前、なかなかの名裁きであったろう?」とドヤ顔。しかし、忠相は「これからはああいうつまらぬ探索に大事な御庭番を使いませぬよう」と苦言を呈して、「遊び心のない女だのう」と吉宗に呆れられている。

第1回の「八代将軍吉宗・水野祐之進編」で活躍した杉下も再登場。
今回は吉宗の命で藤波の片腕となり、彼の動向を見張る役回り。今回もしっかりとした芝居でドラマを支えている。

政治に注力しつつも、ちょっとしたすきま時間を利用し手っ取り早く子作りに励んでいる吉宗がめでたく懐妊。
しかし、大奥の決まりである総触れをせずに身ごもった吉宗に対し、大奥総取締藤波はおかんむりだ。愛之助の大芝居がピタリとハマる。
吉宗は誰が父であろうが産むのは自分なのだからわざわざ父を決めることはないと言い張るが、父親不明のままだとかえって問題が起こると杉下に説得され、これまで性交渉のあった男たちの中から庭掃除をしている時に捕まえて関係を結んだ卯之吉を選びお腹の子の父と決める。指名された卯之吉は驚いて失神してしまうのだった。
いろいろアレンジが加わっているが、ここは割と原作に沿った流れ。
なお、恐るべき僥倖に恵まれてしまう卯之吉を演じたのは、平田オリザの「青年館」の舞台等で活動している吉田庸

大阪での米の価格調整に奔走する忠相が大奥に来てみると、なんと吉宗は分娩中!
驚いて出直そうとするのだが、吉宗は汗だくで苦しそうに息をしながら忠相を呼びつけ大阪での成果を報告させようとする。
忠相の報告ははかばかしくないもので、そもそも江戸と大坂は経済のなりたちが違い、土木工事はすべて力ある商人たちの手によって行われており、商人たちが米の流れを見て得た銭を取り立てるのはとても無理だという。
これを聞いた吉宗、青筋立てて「くっそぉーー! 商人めぇー!」と怒りのいきみが炸裂して無事ご出産。
「それではこれで」と退席しようとする忠相を引き止めてさらに話を続ける吉宗が「いいかげんになさいませ、まだ後産がございますぞ」と産婆に叱られるところまで、ほぼ原作通り。
愉快な出産の場面がイメージ通りに映像化されていたので私はとても嬉しい。

目安箱を通じて、吉宗に小石川養生所を作らせた町医者小川笙船に片桐はいり
知性と貫禄に加え、いかにも変わり者の医者という風情をも醸し出すナイスキャスティングだ。ユーモラスではあるが決してコミカルではないギリギリのところを突いた見事な演技。このギリギリのラインを守った演出家も偉い。

吉宗は果てしなく凛々しく、加納久通は原作通りの(かつ、奇跡の配役だった映画版の和久井映見に非常に近い)イメージで、大奥総取締藤波は見事な所作でどこまでも重々しく、小川笙船は見事すぎる仕上がりで、大岡忠相は控えめながら手堅く、原作の面白いところを上手に取り入れた気持ちよく楽しい45分だった。

さて、「大奥」も残り2回となった。
果たして吉宗の三人の姫は最終回までに登場するのだろうか。仮に登場するとしても、姫たちは子役で終わってしまうのか成人するまで描いてくれるのか。
期待と希望あふれる「八代将軍吉宗・水野祐之進編」。次回も楽しみだ。【み】

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