「お万の方様、この月をもって、上様のお
春日局(斉藤由貴)にこう言われた有功(福士蒼汰)は、「へ?」とも「ふぇ?」とも聞こえる気の抜けた声を出すのだった(もちろん字幕には「え?」と表示されていた)。
これは、女子家光(堀田真由)と二度と性交渉を行うなという命令である。
女子家光が妊娠しないのに業を煮やした春日局は、有功にお褥すべりを命じ、新しい側室を連れてきた。
女子家光は過去に出産した経験があるわけで、子が出来ない原因は有功にあるというこの時代としては正しい判断。
春日局によると、新しい側室の捨蔵(濱尾ノリタカ)は「種をつけるのが巧いと市中で評判の男」なのだという。
もうしばらく猶予がほしいと粘る有功に対し、春日局は1年たっても懐妊の兆しがないのだからそろそろ潮時だとにべもない。
「上様が納得しないのでは?」とさらに食い下がる有功。
「だからこそ有功からお褥を辞してほしい」と春日局。
しかし、有功まだ粘る。
「上様はけだものではございませぬ」。
原作でのこのセリフは「これではまるで/けだものと同じや!!/こないにしてまで/血を繋げたとして/その後に何が待っているというのです!?」(「大奥」3巻より)。
普段は正しい江戸ことばを使っている有功が激してつい京ことばになってしまうという演出。有功という人のキャラクターを表現する大事な設定なのに、今回のドラマではスルーしちゃってるのが謎。
徳川家を盤石にし、太平の世を永らえるために上様に子をもうけさせたい。かつては衆生を救う僧だった有功にこの理屈がわからないのかと炸裂しまくる春日局砲。
結局、春日局の命令に従い、自らお褥すべりを女子家光に申し出た有功。
当然、女子家光は「いやじゃいやじゃ」と激怒&錯乱。
なだめる有功を突き飛ばし、「お前は言うだけだからな! 男になぶられ、血を流すのはいつもわしじゃ!」。
他の男と褥を共にしろと言うのかと嘆く。
「男なら何故春日局に歯向かわぬ。死ね! お前など死ね!」。
相思相愛の女子家光になじられ、有功、何と応えたか。
「では!……殺してくだされ」
この期に及んで相手に命の選択を任せる情けない男にも見えるし、ただのバカップルの痴話喧嘩のイチャイチャにも見える。
もちろん有功にベタぼれの女子家光は有功にすがって「ならぬ! 決して有功は死んではならぬ!」と訴えるのだった。
「自分は石女なのだ」とか「相手が誰でもわしは孕むことはない」とか言った末に、「その時はわしと一緒に死んでくれるか?」。
有功はにんまりして、じゃなかった微笑みを浮かべながら「わたくしにそれより他の道がございましょうか」と優しく応える(やっぱり痴話喧嘩のイチャイチャ系だった!)。
さて、捨蔵に上様とのベッドマナーを教えるのは有功。適任と言えば適任だがあまりにも酷なお役目。
「上様はおいくつなんですかね?」とか「見た目は?」などと不躾に問う捨蔵に対し、「上様の最初の男は好みではないとたたっ斬られた」「好みではなければたたっ斬られるのはそなたのほうだ」とか言って意地悪しちゃう有功。
どうでもいいけど、この「たたっ斬る」は脚本家の書き癖だよね。老いも若きも男も女も江戸育ちも京育ちももれなく「たたっ斬る」と言ってるよ。
捨蔵にちょっと意地悪した後、自室で大声で般若心経を唱えて、苦しい心を抑えるというより苦しい心を大奥の皆さんにアピールしているように見えちゃう有功。
捨蔵の初褥&有功の大声般若心経から時は過ぎて一年後。
御中臈達に尾頭付きの鯛をふるまう有功。
一人切腹して3人になっていた御中臈グループだが、今回はまた4人に戻っていた。もしや定員4名?
「上様から晴れの気持ちを分かち合うてもらいたい…とのお志でございます。どうか皆様でお召し上がりくださいませ」と有功。
おお、上様ご懐妊か!?
さすがは種付けナンバーワンの男捨蔵だぜ。
尾頭付きをつつきながら御中臈達がひそひそばなし。
和田「こたびの姫様のご誕生で有功様に
??「俺だったら腹立たしいわふがいないわで、とても笑ってられぬがのう」
勝田「まあ、あのお方はわしらとは出来が違うからの」
上様ご懐妊じゃなくてご出産のお祝いだった!
和田と勝田は字幕に表示されたのだが、二人目のちょっと霜降り明星せいやに似た御中臈は名前が出なかった。
そしてもうひとりの御中臈はセリフすらなかったのだった。御中臈格差!
廊下ですれ違う捨蔵と有功。
無論、有功が道を譲って「おめでとうございます」と頭を下げる。
ニコニコした捨蔵は一緒に頭を下げ、「いや、どうも、おかげさまで、ねえ」。
種付けが巧い上に人柄も良い男捨蔵。
いや、もう捨蔵ではなかった。上様から「お楽の方」という名を授かったのだという。
「朗らかなお人柄にようお似合いかと」という有功に対し、「へへ、おいらもそう思います」と素直に受け答えする笑顔の捨蔵改メお楽の方。側室になって9ヶ月以上たっているのに、いまだ一人称がおいらなのが気になるが、人柄が良いから許されているのかもしれない。
原作では捨蔵は有功に瓜二つということから市中でスカウトされた人材なのだが、TBS版「大奥」の堺雅人と窪田正孝同様、今回も福士蒼汰と濱尾ノリタカは全然似ていない。
生まれたばかりの姫君と女子家光改メママ家光の部屋を訪れる有功。
「上様によく似ておられる。お楽の方様にも」という有功の手を握り、「そなたの子じゃ」とママ家光。
「ずっとそなたを思うて作った子じゃ。だから、この子はそなたの子じゃ」。
この思考は有功への妄執というより、江戸時代初期なら割とありえる考え方だったかもと思わせる(これ、原作にはないドラマオリジナルのセリフだと思う)。
原作では、この有功が姫君と対面するシーンの直後に、お世継ぎの父になったことに浮かれて廊下で飛び跳ねた拍子に足を滑らせ頭を打ったお楽の方が寝たきりになってしまうのだが、今回のドラマではすっ転ぶシーンなし。まず女性の悲鳴が聞こえ、続いて頭に包帯を巻き布団に横たわるお楽の方が映し出される。
お楽の方の枕元で浮かぬ顔の春日局。この時代、世継ぎひとりでは心もとない。
というか春日局の希望は次の将軍になる男子一択なのだ。
種付けナンバーワン男お楽の方に代わる側室を連れてこなければならない。
お楽の方重傷の報を受け、有功の部屋で「ええ気味や」だの「仏様のバチがあたった」だの罵詈雑言の玉栄。その口の悪さに閉口した有功に「そのうちそなたこそバチがあたるで」とたしなめられるが、これで上様と有功の仲が元通りになると言い張る。「それはありえない」と否定する有功。「いえ、戻ります」と玉栄。
すると、襖がガラリと開き、家光が飛び込んできた!
「春日が良いと言った。春日が戻って良いと言った!」と言うなり有功に抱きつく家光。
喜びと自信にあふれる家光は有功に抱きついたまま「子をなすぞ、有功」とつぶやく。
しかし、その後に続くどんより顔の春日局の映像に重ねて流れた御右筆村瀬正資(若年期:岡山天音)のナレーションはこう。
「家光公と有功様は、
引き裂かれた相思相愛の二人の仲が元通りになり子をなし……なんてうまいこといかないのが、このよしなが大奥。
家光から始まった歴代の女将軍達は、どんなに健康でもどんなに美しくてもどんなに賢くても皆うまいこといかない。
そして、再び有功が家光に次の側室と褥を共にするよう伝えにきた。
だが、今回の家光は前回のように取り乱しはせず、「あいわかった」と即答。
いわく「戦国時代のおなごは夫が死ねばまた次の夫ににたらい回しに嫁がされ、そのさきざきで子をなした。この世のあまたのおなごたちがそうやって生きてきたのじゃ」。
「できてみれば子は愛おしいしの」と飄々、淡々と語る家光。何か達観しちゃった感じ?
だが、彼女が本当に言いたかったのは戦国時代の女性の生き方やわが子の可愛さではなかった。
「もうひとつわかったことがある。他の男と添おうが、子をなそうが、わしの心にいるのは、そなただけじゃ」。
もう春日局に甘やかされ、言いなりになるだけのじゃじゃ馬娘の家光ではない。
有功との悲恋を経て、身の振り方を自ら考えることができるほどに成長したのだ。
そして、新しい側室溝口(押田岳)と家光の初めての夜。有功は乱れる心をおさえるため、またもや大音声で読経するのだった。
「また読んでるわよお経」「読んでる読んでる」「呪われそうで怖いわ」「ていうかうるさくて寝られないんですけど」などと大奥で噂になっていそうだよ有功。
一方、新人側室溝口は日焼けした浅黒い肌ということから、家光から「お夏」と名づけられる。
家光とお夏の褥の映像に重ねて有功の力強い読経の声が轟く。
有功は腰から刀を抜き……(あれ? 大奥の中で御中臈は帯刀が許されているんだっけ?)。
翌朝、玉栄が有功の部屋を訪ねて朝の挨拶をしようと襖を開けると、部屋の中は刀傷だらけでボロボロになっている。
原作では家光と捨蔵の初めての夜に繰り広げられたエピソードだが、今回はお夏との夜にチェンジ。
深く傷ついた師匠の有功の頭を胸に抱き、「何でも言うてください」と玉栄。
「上様は、お変わりになられた」「美しう、強くなられた」と玉栄に抱かれたまま有功はつぶやく。
「そうですか?」「いつものように有功様にそう見えるだけのことです」。
玉栄の相槌はなんとなく煽るようなニュアンスがにじむ。
「母になられたからや! そして、そうしたんはわたしやないんや」。
どうにも噛み合わない有功と玉栄の会話。
盲目的に家光に愛を捧げる有功。
有功を絶対的に敬い、騙して江戸に連れてきた徳川家をいまだ恨む玉栄。
慕い合ってはいるが見ている方向がまるで違う二人の心はうねり、大きくすれ違ったり一瞬重なったり(私は原作を読んでいるからこの先が見える予言者なのだ)。
一方、こちらはお忍びで民の暮らしを見て回る家光。
田畑の向こうにたなびく煙は赤面疱瘡で死んだ者を焼いている。
市中ではかつては男の役目だった仕事を女が代わって務めている。
遊郭は女が男を選んで種付けする場所になっている。
謎の伝染病「赤面疱瘡」の影響で、民衆の生活に大きな変化が起こっていることに気づく。
民の暮らしを見て回った家光は「江戸の各所で炊き出しをする」というアイデアを出す。
「流民も増え、皆、飢えておるからの」。
それを聞いた稲葉正勝(眞島秀和)が「さような付け焼き刃で民を救えるとは」と言うと、家光はこう答えるのだ。
「救えるわけはあるまい。一気の機運をくじくだけよ。米をむしり取っていくお
最初は不思議そうに家光の顔を見ていた稲葉が納得の表情になる。
偽の将軍だったはずの女子家光が、いつの間にか本物の女将軍になっていた。
ドラマの舞台は、再び八代将軍吉宗(冨永愛)の時代に戻る。
政治に目覚め始めた家光と寝たきりのお楽を手ずから介護する有功。
大奥の歴史を記した「落日録」を読んでいる吉宗は、子ができないため引き裂かれた二人がそれぞれの道を歩み始めたことを知るのだった。
女性の家督相続案に激怒して倒れてしまった春日局(家光に男児が生まれるよう薬断ちをして願掛けをしていた)に加え、お楽の方を世話する部屋子を新しく雇ったらそこから大奥内に赤面疱瘡が入り込んでしまうという大ピンチ。
赤面疱瘡に罹ってしまったお楽の方と春日局をまとめて介護することにした有功(有功はもう若くないので若い男性が罹る赤面疱瘡が伝染る心配がほとんどないという設定)。
寝たきりになった春日局と有功が嫌味の応酬をするちょっと楽しいシーン。
介護をしてくれる有功に心を許した春日局は自分の辛かった過去を語りだし、苦しい息の下で有功と和解、自らの過ちを認め、世が滅びるその日までこれからもずっと上様と共にいてほしいと告げる。斉藤由貴一世一代の名演技。
そして、春日局の死後、家光はついに女性の家督を許す宣言を行うのだった。
あっ、今回はエンディング近くのシーンにポップな歌をかぶせる演出がない!
これは良い改革。ずっとこのままで行ってほしい。
そして今週も登場、富永吉宗!
毎回、富永愛演じる堂々たる貫禄の吉宗に会えるのが楽しみで仕方ない。
この2ヶ月、ブログのリニューアルにかまけていて、ようやく第4話視聴。
吉宗編もまだ途中だったはずだから(娘達とのあれこれも描くよね?)、これからがまた楽しみなり。【み】
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