将軍の父を予言した怪僧隆光に山本學! NHKよしなが大奥第6話

ドラマ「大奥」第6回「五代将軍綱吉・右衛門佐編」(2023年2月14日/NHK総合)。

綱吉公のドタドタとしゃなりしゃなりがミックスされたような歩き方が、ちょっと面白い感じになっちゃっているのが気になる第6話「五代将軍綱吉・右衛門佐編」。
真っ赤な紅をさしたぷっくりした唇がいやに目立つ。これは原作の綱吉のぷっくり唇を再現しようとした結果だと思うので綱吉役の仲里依紗を責めたら気の毒だと思う。

残念だが、原作の綱吉のような愛嬌よしで色好みだが品下れることのない女将軍の貫禄はない。
喧嘩をしたらさぞ強いだろうなとは思うが、綱吉の横暴さとはちと方向性が違う。目をむいて「図に乗るなよォ」と右衛門佐を怒鳴りつけるところなど、レディースの総長のごとき迫力はあるが将軍の風格はない。
おおらかな子沢山のおかみさんとかよく似合いそうなんだけどな。愛娘の松姫とのシーンはとても良かったよね。

原作の綱吉の下がり眉、長いまつげ、垂れ目、口角の下がったぽってり唇は、天の配剤としか言いようがない絶妙な位置に描かれている。これを実写化するのはさぞ難儀だろうと思う。
時代劇の所作ができて、少女時代から老年までを演じることができて、大奥の男達は皆「上様に恋をしている」という容姿の魅力がある女優。そんな人が現代にいるわけがない。

だいたい有功の再来と言われる右衛門佐が、有功には全然似ていないのだ。
いや、そもそも有功だって原作のあのはんなりスラリとした美形ではなかったわけで。

有功と綱吉は私のお気に入りのキャラクターだから見る目がつい厳しくなってしまう。イヤなことばかり書いてホント申し訳ない。

で、前回に引き続き今回も右衛門佐が練りに練った策略をもって口八丁手八丁で大奥で成り上がるため、原作通りに獅子奮迅するの巻。
前職は徳の高いお坊さんだった有功とは違い、徳川家も江戸も見下している貧乏公家出身の右衛門佐は小狡い嫌な奴。でも美形。……というのが原作の右衛門佐のキャラ。
だが、このドラマの右衛門佐は演技も容姿もたくましい山本耕史なのでだいぶ感じが違っている。目がギョロリと大きく眼力が非常に強いのも右衛門佐のイメージからかけ離れている。
右衛門佐は違う俳優で見たかった。ちなみに山本さんには何の恨みもない。何せ「JIN -仁–」でしか見た記憶がない。土方歳三役で大活躍したという「新選組!」とか「真田丸」とか「鎌倉殿の13人」とか見てなくてごめん。
あまりにも山本さんのことを知らなすぎるので、ウィキペディアを見てみたら奥さんは堀北真希だった。「レ・ミゼ」初演のガブローシュでさらにその後マリウスを演じた人なのも今知ったよ!

他にも色々気になるところは多く、正直なところ見るのがしんどい。
せめて桂昌院さえ頑張ってくれたら、とひたすら高まる竜雷太への期待。頼んだぞゴリさん!

柳沢吉保の倉科カナは現代的な発声という弱点はあるものの、しなしなねちねちした感じが良い感じ。また綱吉への忠臣ぶりも見事。
ルックスも麗しく、右衛門佐の嘘を咎めるシーンのウソ笑顔が大変素晴らしい。
でも、対する右衛門佐の山本耕史が有能なビジネスマンのような顔で有能なビジネスマンのような声を出すものだから興ざめ。どこからどう見ても私の知っている右衛門佐じゃないのだ。

で、頼みの綱の桂昌院なのだが、1940年生まれの竜雷太は御年83歳。
さすがのゴリさんも年には勝てないわけで、いくらなんでも老いすぎ。この回はメイクや演技をもう少し若作りした方が良かったと思う(この後、老年期まで演じるんだよね?)。
少年のような顔だちだった頃に家光のお褥に上がり綱吉の父となった玉栄=桂昌院。今、綱吉が30歳としてもまだ四十代? よしんば五十代でもまだお年寄り過ぎる。
ちなみに2012年公開の映画「大奥〜永遠〜[右衛門佐・綱吉篇]」では西田敏行が桂昌院を演じており、この時の西田は65歳だった。

だが、竜雷太は時代劇で癖のある役をやると、何か違和感があっても時にとんでもないホームランをかっ飛ばす印象がある俳優。
今回は松姫を亡くして意気消沈している綱吉に、娘を亡くしたばかりで側室との子作りはつらいだろうが、「お前がどうしてもやらなあかんおつとめや」「世継ぎを産むんは将軍しか、徳子にしかできひん」と諭すシーンが特大ホームラン。

などと書いていたら、とっ、とんでもない大物が出てきたじゃないか。
少年時代の桂昌院に「将来将軍の父になる」と通りすがりに予言した怪僧隆光役に山本學
學、圭、亘の山本三兄弟の長男で、日本映画全盛期からずっと映画やドラマの第一線で活躍している俳優である。いつまでもいつまでも若々しかった山本學だが、今や美しく年輪を刻んだ風格のある面差しの老僧になっていた。
たぶんこれからも桂昌院&綱吉親子を散々振り回すはずなので、今後の活躍に期待しよう。

桂昌院に諭された後、御中臈をとっかえひっかえして子作りに励む綱吉が描写される。
また将軍綱吉の面前でこっそり指を絡み合わせていた御中臈のカップルを見つけた綱吉は、彼らを呼びつけ三人で褥を共にする。その後、男達に「今ここで睦み合え」と性行為を強要する綱吉。
ふたりは恋人同士なのは認めたが上様の目の前での性交渉は拒否し割腹自殺しそうになったところで、隣室に控えていた右衛門佐に「上様の布団を血で染めるつもりか」と厳しく諌められる。

これまでも性的描写はあったが、今回の綱吉の性行為のシーンは特に生々しかった。
このドラマにはインティマシー・コーディネーターをつけたというのがニュースになっていたが、こういうところにお金を使うのはさすがNHKだ。非常に正しい。

そして、今回もドラマ終盤で俳優が演技をしている最中にバックに流れるポップな歌。
綱吉が肝っ玉おっかさんタイプでも、右衛門佐が斬って斬って斬りまくる系のツワモノに見えるのも辛抱するが、これだけはどうしても受け入れられないよ。
最高の原作、冴えた脚本家、美しい衣装、インティマシー・コーディネーター等々、NHKがこのドラマを力を入れて作っているのがよくわかる。それなのに、どうしてこういう演出になってしまったのか本当にわからない。惜しい! もったいない!

あれこれ野暮用に追われだいぶ間が空いてしまったが、第5話まで見終わった「よしなが大奥」の続きをようやく見始めた。最終回がオンエアされた3月14日からもう1ヶ月もたっているじゃないか。いやはや面目ない。
次回もまた「五代将軍綱吉・右衛門佐編」なので少々気が重いが、この峠を越えれば再びあのカッコいい冨永吉宗の「八代将軍吉宗・水野祐之進編」が待っている!
無事、最終回まで完走できるようゆるゆる頑張ります。【み】

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