テレビをこじらせた東京福袋が書いたノンキなテレビコラム集。

おしんの孤独は解消されたのか。

老カップル

おしんの怒涛の説教のおかげで仁・道子夫妻は離婚を回避し、その恩を感じた道子は犬猿の仲だった姑へ心を開き、仁の強引な経営方針が仇となってスーパー田倉は潰れることになったがそれをきっかけにバラバラだった田倉一族の心が一気に団結した「おしん」最終週。

家庭内のトラブルはこれですっかり解決し、さらに商売の方も浩太の厚意によってスーパー田倉はすんでのところで息を吹き返したのだった。
仁は宴の席で一族ひとりひとりに礼を述べ、酔った勢いでかつて手酷く傷つけた元カノ百合への懺悔の言葉も口にし、山下真司から高橋悦史が延々と演じてきたダメ次男ストーリー完結。

一族揃って田倉家と八代家の墓参りを済ませたおしんは、海を見ながら浩太との親交をより深める。
そして、最後の最後に毎回見事な鼻濁音を響かせていたナレーターの奈良岡朋子が犬を散歩する女性に扮して登場し、おしんと浩太に不自然に声をかけるのだった。

奈良岡朋子

お散歩でいらっしゃいますか?
お幸せそうですね。どうぞ、いつまでもお元気で。
ごめんください。

幸せそうに微笑むおしんと浩太が海辺で寄り添うシルエットで「完」。
1年の長きにわたって続いた朝の連続小説「おしん」、これにて一巻の終わり。

幼い頃から胸に抱いていた貧乏のツラさと戦争への怒り、あるいは自らの抜きん出た商才でスーパー田倉を大きくしていく過程を描くのがこのドラマのテーマだとばかり思って見ていたので、結局、「おしん」が描いてきたのはついに結ばれなかった浩太との愛情物語だったというオチに驚く。

いや、思い出してみよう。
幼いおしんが雪山で遭難した折に助けてくれた脱走兵の俊作あんちゃんに反戦思想を叩き込まれ、自分だけは何があっても戦争に反対しつづけると決心したおしんだったが、戦時中は嫌々ながらも軍需工場を切り回し豊かな生活を享受していた。
そして時流には逆らえず長男を戦場へ送る。次男も家出して特攻隊へ入隊してしまった。
結局、俊作あんちゃんとの約束は守れなかったのだ。

そして、スーパー田倉が創業できたのは、戦死した長男雄の戦友が初子と婚約し、スーパーに適した土地を融通してくれたおかげだった。
初子がいたからこそ今のスーパー田倉はある。
無論、奉公へ出されるところだったガッツの遠縁の初子を引き取って戦中戦後の苦しい時代を我が子同様に育てあげたのはおしんだ。
その後、家出して東京で米兵相手に春をひさいでいた初子を迎えにいったのもおしん。
息子達と力を合わせ日本ではまだ珍しかったセルフサービスのスーパーを成功させたおしんは、やはりスーパー田倉の一番の功労者である。

が、商売人おしんのサクセスストーリーはここでふっつりと途切れてしまう。
仁の妻道子との嫁姑の争いやら養子の希望のぞみを独立させる話やら希望の妻百合の交通事故死やら、ザ・ホームドラマな展開が延々と続き、ふと気づけばおしんはスーパーの経営から手を引いていたのだった。

経営陣の中心からは退いたとて、商工会議所の幹部を招いてお茶を点てるとか、近所の娘さんを集めて着付教室を開くとか、かつての経験を生かしてスーパー田倉をバックアップする落ち着いた老後もあっただろうに、人情味のないイケイケドンドンな経営を行なう息子達にお灸をすえるためわざわざスーパー田倉が窮地に陥るよう段取りした上で、自らの人生を振り返る旅に出てしまうのだ。

いつからおしんはスーパー経営に興味がなくなってしまったのだろう。
気が強い道子との嫁姑戦争で精根尽き果ててしまったのだろうか。
あんなに算盤に強くて商売が大好きで一生懸命働いていたおしんだったのに。

商売人の顔を捨て、今や「初子を生活を安定させる」「死んだお加代様への義理」という2つの事柄にのみ力を注ぐ人になったおしんである。
実子よりも養子として育てた二人のことばかり案じている。

浩太の尽力でスーパー田倉は破産を逃れ、初子に開いてやった店も守れた。
これで初子の生活は安泰だろう。
陶芸の道を選んだ加代の遺児希望の独立資金を整えてやったものの大恩ある加賀屋を再興する夢は潰えてしまったと思っていたら、回想旅行についてきた希望の息子の圭が、「大学を卒業したら加賀屋を再興する」と言ってくれた。
おしんの2大ミッション無事コンプリートである。

しかし、気の毒なのは実子達だ。
加賀屋復興を夢見て苗字を「八代」のままにしておいた養子の希望のぞみ、使用人やら姉やらはっきりしない立場の初子が加わった田倉家は、いかに戦中戦後の混乱期といえども複雑な家庭である。
この複雑な家庭の中で、非の打ち所がない優秀な長男雄と温厚で手のかからない希望と比べられて育った仁の性根が歪んでしまうのも致し方なしと思ってしまう。
空襲が激しくなってから家族の中で一人だけ疎開に行かされ、タチの悪い農家で苦しい思いをした末妹のていも同様である。しかも禎は自死直前の父に会っているのだ。
幼な心にトラウマが深く刻まれているやもしれぬ。

さて、最終回を迎え、おしんの孤独は解消されただろうか。
これまでの人生において素晴らしき「マジカル・ババア」達に助けられてきたおしんは、他者に救いの手を差し伸べる「マジカル・ババア」になれただろうか。
なお、「マジカル・ババア」というのは私が勝手にこしらえた言葉で、以前書いた記事「おしんの孤独を考える。」をご参照ください。

結局、最終回になってもおしんが「マジカル・ババア」になって他人を助けるシーンは登場しなかったが(最後の最後までマジカル浩太に助けられっぱなし!)、積年の夢がすべて叶い、生活に余裕もでき、浩太との関係もこれまで以上に良好となれば、従業員のピンチにポンと金を出したり地元の発展に力を貸すような立派な「マジカル・ババア」に変身する彼女のその後の人生が想像できるというものである。

ところで、初めて今回の再放送で見てわかったことだが、「おしん」は決して辛抱するヒロインではなかった。
持っている知恵と人脈と運をフル活用し、逆境から逃げては努力を重ねて成功をつかむタフでアグレッシブなヒロインだった。
乙羽信子に交代したあたりからパワーダウンは否めず若干げんなりしながら毎日見ていた「おしん」だが、さすがは国民的朝ドラ、少女時代から終戦までの名優達がしのぎを削る激動のドラマにわくわくした。

実は、佐賀の嫁いびりのくだりが非常にハードだと聞いて怖気づき、佐賀の嫁いびり〜酒田の飯屋〜伊勢の魚屋のあたりを見ていない中抜けの完走なので、今度「おしん」が再放送される際は、抜けた部分も是非見たいと思う。
いや、やっぱり酒田で飯屋を開くあたりからでいいかな。佐賀弁で嫁を延々といびりぬく高森和子が怖いんだよう。【み】

 
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