映画の感想文「クリムゾン・キモノ」

サミュエル・フラー監督、日本劇場未公開、1959年製作のアメリカ映画。

ロサンゼルスのリトル・トーキョーで、あるストリッパーが殺される事件が発生。LA市警に勤める日系2世のジョーと、その同僚で朝鮮戦争での戦友でもある白人のチャーリーが、捜査を担当することに。彼らは被害者の職場の楽屋に残されていた1枚の絵画を手掛かりにするが、やがてその作者である美しい女流画家クリスと知り合う。彼女に好意を抱いた2人は、彼女をめぐって争い、互いの友情にヒビを生じさせるようになるが……。

WOWOW公式サイトより

「東京暗黒街 竹の家」(1955年)のサミュエル・フラー監督作品。「東京暗黒街 竹の家」は、日本の人々は皆和装だし、家屋は娼館もどきだし、薄縁のような畳の上を靴で歩くし、部屋の中に風呂があるし…と、ヘンテコなニッポン描写の連続。山口淑子はどんな気持ちで出演したのやらという珍品だった。
どうせこの「クリムゾン・キモノ」もヘンテコな日本人街や日系人がぞろぞろ出てくるのだろうと、まったく期待せずに見た。
だって、タイトルからしてもうおかしいじゃないの。赤いキモノって。ねえ。主演のジェームズ繁田(「ダイ・ハード」のナカトミ商事のタカギ社長!)の役名が「Det.Joe Kojaku」だって。コジャクって何よ。刑事コジャックなら知ってるけど刑事コジャクって何よ。アヤしいニッポン映画の匂いがプンプンする。

と思ったら、これが意外に拾い物。
ハンサムなアメリカ人刑事とハンサムな日系人刑事コンビが人気ストリッパーの殺人事件を捜査。二人のイケメンは戦時中上官と部下の間柄で今も強い絆で結ばれている。二人と親しいアル中の中年女性画家、重要参考人の若く美しい女性画家、アジア文化に詳しいかつら職人のアメリカ人女性、空手使いの屈強な韓国系アメリカ人男性、リトル・トーキョーの日系人達などが次々と登場して謎がまた謎を呼ぶ…ところなのだが、途中から二人のイケメン刑事の恋愛模様が話の中心となり肝心の事件は割とどうでもよくなる。
最後に確保された犯人は意外な人物!…ではあるのだけれど、意外というよりほんのワンシーンしか登場していない人物なので「誰だっけこの人」というサスペンスドラマ的にはもやもやした気持ちでエンディングを迎えるのだった。

ただし、リトル・トーキョーの描写は今見る限り違和感がないし、日系人達が喋る日本語も自然な日本語。多少訛っている人も登場するが、それもいかにも日系人っぽい訛り。ヘンなジャパン、屈辱的な日本描写はほとんどなし。「東京暗黒街 竹の家」から4年、フラー監督大成長。というか、リトル・トーキョーでロケしているので、日本の風習や日系人の話し方等、細々とアドバイスしてくれる人が身近にいたのかもしれない。

そして、なにより主演のジェームズ繁田が格好いいのだ。
仲谷昇と天知茂をかけて2で割ったようなちょい渋なハンサムで、すらりとしたスタイルもよし、髪型もスーツの着こなしも素敵。両手をポケットに突っ込んで歩く姿が颯爽としている。
 
ウィキペディアによると、ジェームズ繁田はこの作品で「アメリカ映画で初めて白人女性の愛を獲得した役を演じたアジア系俳優となる。これは、異人種間の恋愛が描かれる事が極めて稀で、恋愛映画の場合、白人女優の恋の相手は白人男優が演じるといった人種による役割分担が常識化していた当時のハリウッドの撮影システムの中で、従来の常識を打ち破ったエポック・メイキングな出来事であり、(特にアジア系俳優にとっては)現在でもアメリカ映画史の中の重要な出来事の一つとして語られている」のだという。
ジェームズ繁田は「紅白歌合戦」にも1957年、1958年と2年連続で出演しているのに、この作品が日本で劇場未公開なのが信じられない。カッコイイのになあ。

サスペンス映画としては凡庸だが、世界一格好いい日系俳優、ジェームズ繁田の魅力全開の一作。【み】

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