映画の感想文「デビルズ・ノット」

デビルズ・ノット」アトム・エゴヤン監督、2013年公開。
原作は1993年にアメリカのアーカンソー州で起こった実在の児童殺人事件「ウェスト・メンフィス3」を元に書かれた同名のノンフィクション。

遊びに出かけたまま帰ってこない8歳の男の子3人組。
翌日、3人の遺体が郡内のロビンフッドの丘の小川から発見された。三人とも裸で、自身の靴ひもを用いて手首と踵とを結ばれていた」という無残な結果となった(ウィキペディアより)。
そして「捜査の結果、日頃から評判の悪い不良少年2人と知的障害のある少年1人が容疑者として逮捕され死刑宣告を受けた」というストーリー。

主犯がヘビメタやホラー映画やオカルト小説が好きな少年だったため、“悪魔崇拝者”が儀式のために少年達を生贄に殺したのではないかと近隣の住民が恐怖のあまりパニックに。
悪魔崇拝者の猟奇殺人事件として事を収めたい法廷と、「もしも容疑者達が無罪なら被害者の3人に加えてさらに三つの家庭から息子を奪うことになる」と主張し無給で調査を続ける私立探偵のコリン・ファース。

バイブル・ベルトに属するアーカンソーの人々の容疑者少年達への態度。黒髪に黒づくめの服装というだけで殺人犯に仕立て上げようとする法廷。レストランの女子トイレに血だらけで飛び込んできたが店主が通報している間に消えた男。有力な証言を行った容疑者の親友の少年。「悪魔崇拝は知らない」と言いながらこってりとした魔女ファッションで容疑者達を家に迎える描写のある証言者少年の母。あからさまに怪しく描かれる被害者少年の継父。

次々と湧き出る謎のエピソード。
容疑者達はこのまま死刑になってしまうのか。コリン・ファースの逆転はあるのか。
どう見ても怪しい継父は事件に関わっているのかいないのか。やけに影の薄い被害者少年の妹の“家庭内での被害”もほんのりと心配。
謎が謎を呼び、結末が気になって仕方ない。

と思ったら、死刑を宣告された容疑者の少年達は刑務所に収監され、なんと事件は未解決のまま映画は終わってしまうのだった。ええ、そうなの? これで終わりなの?

ウィキペディアによると「2011年8月19日、A・B・Cは無実を主張しつつ有罪であることを認める司法取引に応じ、10年の執行猶予で釈放された」のだという。

ブログ「Qetic」の「映画『デビルズ・ノット』では描かれなかった釈放までの愛の物語」という記事によると、主犯の少年は1999年に獄中結婚。

「18年間に渡って獄中生活を余儀なくされたダミアン・エコールズは現在、妻のロリと共にニューヨークで暮らしている。しかし自由を手にしたダミアンだが記録上は有罪のままのため、2人はドキュメンタリー映画の制作や執筆活動などを通して事件の不当性を訴え続けている。」

Qetic」より

事件は今もまだ続いているのだ。

息子を殺された母親役のリース・ウィザースプーンが巧い。
再婚した夫を気遣いながらも息子に愛情をそそぐ姿、息子を失った直後の狂乱、そして真犯人は別にいるのではないかと気づいてしまうまでの繊細な表情の変化が見事。【み】

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