映画の感想文「テルマ&ルイーズ」

リドリー・スコット監督、1991年公開。

あらすじは斜め読みだったので、見る前のイメージは「うっかり人を殺してしまった二人の美女が警察から逃げようとしてあちこちで事件を巻き起こす陽気なコメディロードムービー」。
いや、見てみたらまさにその通りだったのだが、一箇所だけ大きく間違っていた。主人公の二人は陽気にふるまっているが、ストーリーは決して明るいだけのコメディではなかったのだった。

しっかり者のウェイトレスのスーザン・サランドンとおっとりした主婦のジーナ・ディヴィスは気晴らしに一泊旅行のドライブに出かける…という冒頭は、いかにも愉快な旅が始まりそうな雰囲気。
しかし、ジーナ・ディヴィスは一泊旅行に出かけると夫に言い出せなくて置き手紙をしてきたのだという。はしゃぐ二人に不安な要素がぽつり。

そして、ジーナ・ディヴィスは酒場で知り合った女たらしのイケメンにレイプされそうになり、それを間一髪で助けたサランドンは酷く侮辱されて怒りのあまり男を射殺してしまう。
「どうせ自首しても取り合ってもらえないだろう」と判断した二人は国境を超えてメキシコへ逃げることにするのだが、恋人に工面して貰った逃走資金をゆきずりのブラッド・ピットに持ち逃げされるわ、金に困って銀行強盗を働くわ、職務質問をしてきた警官を銃で脅してパトカーのトランクに閉じ込めるわで、陽気な二人の美女は最終的に警察のヘリと大勢の警官に囲まれる凶悪犯に成り果てる。

さて、この物語が急坂を転げ落ちるように悪い方へ悪い方へと進んでしまうのは、すべてそれまで厳しい夫に家庭に縛られていたジーナ・ディヴィスの心の解放が原因なのだった。
男に襲われたのはイケメンに誘われて浮かれたジーナ・ディヴィスが酒に酔ったのがきっかけ。学生と身分を偽って二人に接近した銀行強盗のブラッド・ピットと一夜を共にしたジーナ・ディヴィスは、翌朝サランドンに首のキスマークを見せびらかして「あたし初めてセックスの良さがわかったわぁ」などとのろけるのだが、その間に全財産を奪われてしまう。そしてジーナ・ディヴィスの銀行強盗が成功したのは、前の晩にブラッド・ピットから銀行強盗のやり方を聞いていたから。そういえば犯行に使ったピストルも、ジーナ・ディヴィスが旅先の用心のために持ってきたものだ。

どんどん奔放になっていくジーナ・ディヴィスに巻き込まれていくサランドン。最初はジーナ・ディヴィスを責めてもみたが、いつの間にか彼女のペースに巻き込まれてすべてを許し受け入れる。
旅に出る前はただの真面目なウェイトレスだったが、いざ逃げ始めてみたら警察の追撃を軽々とかわすカーチェイスの達人という新しい才能に目覚め、ジーナ・ディヴィス同様、サランドンの心もまたすっきりと解放されていくのだった。

サランドンの華麗なドライビングテクニックと運の良さのおかげでメキシコへの逃避行を続ける二人。しかし、殺人+強盗で指名手配されている二人がこのまま逃げおおせるとは到底思えない。テルマ&ルイーズノーフューチャー。
心を解放しまくって行き当たりばったりに車を飛ばす二人の表情は底抜けに明るいが、見ている私の心は痛い。逮捕か。蜂の巣か。ジーナ・ディヴィスのピストルと警官から奪ったピストルで互いに撃ち合って果てるのか。この愛すべき二人との別れをあれこれ想像して胸が苦しい。

おへそをだしたウェスタンスタイルのジーナ・ディヴィスがたまらなくキュート。立派な体躯に愛らしい顔のジーナ・ディヴィスが自己に目覚め傍若無人にふるまう様子が腹立たしくも憎めなく、私もサランドンと一緒に彼女を許し受け入れてしまうのだった。

現代のボニー&クライド。広大な自然を背景に二人の魂が極限まで解放されるラストシーンはハッピーエンドと捉えたい。そして「やっぱり女の友情もの映画にハズレなし」との思いを深めたのであった。【み】

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