生誕110年のメモリアルイヤーであり、昨年度後期の朝ドラ「ブギウギ」のモデルとして脚光を浴びた天才歌手・笠置シズ子出演の作品をホームドラマチャンネルがオンエア中。
「脱線情熱娘」(1949)、「春の饗宴」(1947)、「ペ子ちゃんとデン助」(1950)、「ザクザク娘」(1951)といったラインアップ。
エノケンとコンビを組んだ時代劇ミュージカルとか「銀座カンカン娘」とか黒澤明監督の「醉いどれ天使」あたりは見たことがあったが、ホームドラマチャンネルでオンエアされている映画は、どれも寡聞にして見たことも聞いたこともない。いや、ペ子ちゃんって誰よ。デン助って大宮敏充のこと?
……とまあ、かようにぼんやりとしたイメージだけで鑑賞しちゃった「ペ子ちゃんとデン助」。
だって、大好きな笠置シズ子の歌唱シーンがあるっていうんだもの。これは観るでしょ観ざるを得ないでしょ(恥ずかしながら私は笠置シズ子が好き過ぎて「ブギウギ」を見るのを1日であきらめた派なのだ)。
あらすじ
さて、ホームドラマチャンネルのサイトに掲載されていた、映画研究家佐藤利明さんによるあらすじは以下の通り。
銀座の裏町にある売れないカストリ雑誌 「フラウ」の編集者・大中ペ子(笠置シヅ子)は、職業婦人として今日も、取材や原稿取りに忙しい毎日。しかし雑誌社は倒産寸前、なんかヒット企画をモノにしないといけない。そこでぺ子は、いささか頼りない給仕のデン助 (堺駿二)とあの手この手。 銀座四丁目で交通整理をしていたお巡りさん(高倉敏)が、ある日、ラジオののど自慢に出演。レコード会社から覆面歌手としてデビューするエピソードなど、 音楽シーンもタップリ。 のど自慢には、服部リズム・シスターズの双子姉妹・山本照子と山本和子も出演。 音楽監督・服部良一のサウンドが、 BGMに至るまで楽しめる。
【連続企画】ブギの女王・笠置シヅ子特集 | ホームドラマチャンネル(文/佐藤利明)
なお、文中の「カストリ雑誌」とは「1946年ごろから数年間にわたって発行された大衆的娯楽読物の俗称」(コトバンク)。「フラウ(Frau)」はドイツ語で「女性」「夫人」「奥様」という意味。そういえば、現在、講談社から「FRaU」という女性誌が出てますね。
見どころはもちろん歌!
見どころといったら、これはもう文句なしに「買物ブギー」の歌唱シーン。
「笠置シズ子スヰング伝説(後編)」(ホームドラマチャンネル)によれば、この曲のために「撮影所に公設市場のセットを作り、歌詞に合わせたシーンを撮影」したのだという。
「公設市場」とは「本来は公共団体の所有地(建物)内の市場の称。一般には私有地内にある場合も含め,生産者や商人が場所を借り受けて日用商品を公正な価格で販売する公認された市場(マーケット等)」(百科事典マイペディア/平凡社)のこと。
歌詞に合わせて公設市場の階段を昇ったり降りたり、八百屋に行ったり魚屋に行ったり。1階のラジオ店では「テレビアン」を売出中。「テレビアン」といってもコレはテレビではなくラジオ(国産第1号テレビ発売は1953年なのでまだ日本ではテレビは売っていないのです)。
買い物かごを持ったエプロン姿の笠置シズ子が大阪弁を駆使して気持ち良さげに唄う「買物ブギー」は多幸感200%。
また、ラジオ番組の「のど自慢」に出演した音痴な友人に自分の名前を勝手に使われて恥をかいた笠置シズ子が、ストレス発散とばかりに会社の屋上に出て「ラッパと娘」を激しく歌い上げるシーンは大迫力。
彼女がシャウトすると他のビルから驚いた人々が顔を出すし、ビルの下には人だかりができてしまう。笠置シズ子はビートルズよりも19年も前に屋上で唄っていたのだった。
ちなみに、現在、CDやサブスクではカットされている「買物ブギー」の「わしゃつんぼで聞こえまへん」(「つんぼ」=耳が聞こえない人を指す差別的な表現で現在は使わない)という歌詞を、音を消すことなくそのままオンエアしていたのでちょっと驚いた(その後に続く「これまためくらで読めまへん」(「めくら」=目がみえない人を指す差別的な表現で現在は使わない)は初めて聴いた)。
Apple Musicで配信されている「買物ブギー」では「わしゃつんぼで聞こえまへん」の部分は「わしゃ聞こえまへん」と編集されているし、「これまためくらで読めまへん」の部分はもちろん収録されていない。
完全版!? キャスト一覧
キネマ旬報社が運営する映画感想投稿サイト「KINENOTE」によると、出演者は「笠置シヅ子、堺俊二、日守新一、飯田蝶子」であるという。
当然、タイトルロールのペ子ちゃんが笠置シズ子でデン助が堺駿二だろう(大宮デン助じゃなかった!)。いつも震え気味の声でふにゃらふにゃらとした日守新一が恋敵で飯田蝶子が笠置シズ子のばあやか。いや待て。ウィキペディアによれば笠置シズ子は1914年生まれ、飯田蝶子は1897年生まれ。たったの17歳差でばあやは気の毒か。そうだ、生き別れのお母さんかもしれぬ。
ところが、ホームドラマチャンネルのサイトを見ると「笠置シズ子、堺駿二、高倉敏、日守新一、河村黎吉」となっている。生き別れの飯田蝶子どこ行った!
そこでこれも何かの御縁と、オープニングのクレジットに表示された全キャストを記録してみた。いつか何かの役に立ちますように。なお、「仝」は「同」の旧字。
ペ子 | 笠置シズ子 |
デン助 | 堺 駿二 |
社長 | 河村黎吉 |
小助 | 日守新一 |
好子 | 吉川満子 |
女史 | 岡村丈子 |
小母さん | 澤村貞子 |
民夫 | 高倉敏(コロムビア) |
茶村 | 殿山泰司 |
弱田 | 横尾泥海男 |
島田 | 高屋 朗 |
スト子 | 髙木敬子 |
丸山 | 安部 徹 |
キン子 | 紅 あけみ |
ビルの守衛 | 中川健二 |
競輪の客 | 遠山丈雄 |
仝 | 長尾 寛 |
おしるこや | 泉 啓子 |
ホテルの客 | 諸角啓二郎 |
ホテルのボーイ | 滝 久志 |
バアのコック | 前畑正美 |
ひるねの男 | 井上正彦 |
ラヂオ屋 | 縣 秀介 |
お菓子や | 高松栄子 |
アナウンサー | 太田恭二 |
のど自慢の客 | 津村 準 |
魚や | 土田慶三郎 |
八百や | 谷崎 純 |
花田家の女中 | 河村百合子 |
レコード社の客 | 永井達郎 |
バアの女給 | 山田英子 |
アソ坊 | 青木放屁 |
服部リズムシスターズ(山本照子、山本和子) | |
楽団クラック・スター | |
漫画集団 |
さらにスタッフ一覧!
調子に乗ってスタッフの完全版リストも作ったよ!
製作 | 1950年/松竹 |
監督 | 瑞穂春海 |
原作 | 横山隆一 毎日新聞連載・出版 |
製作 | 小出 孝 |
脚本 | 中山隆三 |
撮影 | 布戸 章 |
音楽 | 服部良一 |
美術 | 小島基司 |
照明 | 高下逸雄 |
調音 | 新 楠元 |
録音 | 宇佐美 駿 |
現像 | 神田亀太郎 |
編輯 | 濱村義康 |
装置 | 古宮源藏 |
装飾 | 小巻基胤 |
衣装 | 林 榮吉 |
結髪 | 北島弘子 |
床山 | 吉澤金五郎 |
演技事務 | 八木政雄 |
普通写真 | 小尾健彦 |
焼付 | 櫻井輝代 |
記録 | 室井量一 |
工作 | 三井定義 |
撮影事務 | 田尻丈夫 |
効果 | 斎藤六三郎 |
特殊撮影 | 川上景司 |
進行担当 | 清水富二 |
主題歌 | 「デン助節」(歌:高倉敏、堺駿二/作詞:高山 進/補作:藤浦洸/作曲:服部良一) 「ペ子ちゃんセレナーデ」(歌:笠置シズ子/作詞:高山 進/補作:藤浦洸/作曲:服部良一) |
おうちで昭和が楽しめる幸せ
今回のキャストでまず嬉しいのが、みんなだいすき殿山泰司とオレ達の安部徹が出演していること。
殿山泰司は雑誌「フラウ」に執筆している作家、安部徹は覆面歌手を売り出そうとしているレコード会社の偉い人。いずれもなかなか重要な役だった。
笠置シズ子のお相手役のデン助を演じた堺駿二は、堺正章(マチャアキ!)のお父さん。
まあ、お相手役といっても堺駿二が笠置シズ子に片思いしているという設定で、笠置シズ子は堺駿二のことを仕事上の相棒くらいにしか思っていない様子だった。
そして、ふにゃらふにゃらの日守新一は堺駿二の恋敵ではなく、笠置シズ子のお父さんの役だった。比較的ふにゃらふにゃらしていなかったが、しっかり者の奥さんと元気な娘の前で小さくなっているお父さん。
大柄な俳優の横尾泥海男は「よこお・でかお」と読むとのこと。ウィキペディアによると身長185センチ、体重98キロだったらしい。昭和25年にこの体格は確かにでかい!
青木放屁は小津安二郎監督の「長屋紳士録」に出演した子役で、人気子役の突貫小僧(のちの青木富夫)の異父弟だそうだ。
「漫画集団」というのは、この映画の原作者である横山隆一が1932年に「近藤日出造,杉浦幸雄らと新しい感覚によるナンセンス・マンガをめざして〈新漫画派集団〉(第2次大戦後の〈漫画集団〉の前身)を結成」(コトバンク)したグループだそうだ。
日守新一が横山隆一の「フクちゃん」を読んでいて奥さんの吉川満子に叱られるが、その後、吉川満子が「フクちゃん」を読み始めたら夢中になってしまうという楽屋落ちのシーンあり。
……っていうか、あれ? 生き別れの飯田蝶子は? 名前がなかったよ? 全然生き別れてないよ?
もしかしてノンクレジットでどこかに出てたのを見落としたのだろうか(「KINENOTE」はちょいちょいキャストの間違いがあるので本当に出ていないのかもしれない。もし出演していたら、あの特徴のある声ですぐわかりそうだものね)。
かつてはカセットテープやCDでしか楽しめなかった笠置シズ子の歌だが、豪快に唄い踊っている姿が我が家のテレビで見られるなんて幸せにも程がある。
一昔前なら、ネットや情報誌を必死に探して遠くの映画館や公民館に行かなければ観ることがかなわなかった昭和の映画の数々が、今やサブスクやCS放送で居ながらにして鑑賞できるようになったのだからありがたい。すごいぞ令和。【み】