「東京物語」1953年公開の小津安二郎監督の代表作。
日本の、いや世界の映画界に燦然と輝く金字塔。恥ずかしながら、今回が初鑑賞。
老夫婦と嫁のどんよりした説教くさい話だろうと侮って今まで何となく敬遠していたが、いざ見てみたらやはり傑作だった。登場人物それぞれのキャラが立っていて無駄なシーンや台詞がひとつもない。小津おそるべし。
ただし、原節子があまりに現実離れしていて、もしかしてこれ笠智衆が夢に描いた理想の嫁の妄想じゃないかしらと疑うほどの完璧なお嫁さん。
笠智衆、山村聡、原節子というどちらかといえば演技派ではないタイプの俳優達の中でキラリと光りまくる杉村春子。いつ見ても杉村春子は巧い。憎らしいほど巧い。一挙手一投足までが巧い。特に飯の食い方の巧さにうなる。
東野英治郎と中村伸郎も良かった。新劇陣大活躍。
名シーンは数あれど、私は老夫婦が熱海の安旅館に泊まるシーンが一番ぐっときた。
リアルタイムで映画館で小津を見ていた世代の母(昭和10年生まれ)によると、笠智衆は老人に見えるよう背中に座布団を入れているとのこと。えー、マジでー?
あっ、熱海のシーン、言われてみれば確かにそう見えるけど!
気になって検索したところ、「シネマトゥデイ」の記事がヒット。
笠智衆はこのとき実年齢より21歳上の70歳の周吉を演じた。熱海では腰に座布団を入れての撮影だったという。
シネマトゥデイ「原節子のみずみずしい演技が光る小津安二郎『東京物語』(1953)」より
おお、母の話は本当だった!
ちなみに笠智衆は1904年生まれ、その妻を演じた東山千栄子は1890年生まれ。ひとまわり以上も違うようには全然見えないのがスゴい。【み】
「東京物語」1953。最後に伴侶をなくしたもの同士、笠智衆と原節子が再婚をして丸く収まるというのはどうか。
「東京物語」には風景だけではなく今はない様々なものが映っていた。医者の妻と下町の美容師の言葉遣いの差、客に向けて団扇をあおぐ仕草、来客があると子供の机を動かさなければならない住宅事情、風呂のない戸建住宅、テレビのない時代の家族の団欒。だから昔はよかった、などとは言いたくないけど。【吉】