「カルメン純情す」(木下恵介監督/1952年/松竹)。
前作の「カルメン故郷に帰る」は見ているのだがまるでピンとこず、我々は(というかみやしたが)高峰秀子が苦手なので、この続編を見ることはまずないだろうと思っていたのだが、漫画家の田亀源五郎さんのツイートを拝見し、俄然見たくなりチャレンジした次第。
だって「ヒゲのある右翼の女性代議士(三好栄子)」だよ! ヒゲの三好栄子をぜひともこの目で確認したい!
日本初のカラー映画「カルメン故郷に帰る」(1951)の第二部であるのに、なぜかモノクロ作品。
浅草の松屋全景、新橋の馬券売り場など、せっかくの50年代の東京の風景を是非カラーで見たかった。
コメディとして撮られたのだろうが、高峰秀子の捨て鉢な演技、気軽に赤ん坊を捨てるシチュエーション、絶え間ない赤ん坊の鳴き声と消防車のサイレンで始まるこの映画からは重苦しさしか伝わってこない。
木下監督の演出はやけにもったり感じられるし、高峰秀子の不安定な歌声やよっこらしょよっこらしょなダンスシーンも、「わざとヘタにやってンのよ」というデコちゃんの声の幻聴が脳裏に去来してひたすらツラい。
雇い主の須藤家の息子の前衛芸術家にヘンテコな服を着せられている東山千栄子演じる女中が終始原爆にとりつかれているのも重苦しいし、何を意図したのかわからない常に傾いた画面が不安感をかもしだす。
キネマ旬報ベストテン第5位。
ちなみにこの年のベストテンはこんな感じ。1位は黒澤明監督の「生きる」。
どうですか、このラインナップ。
この映画に良いところがあるとすれば、須藤家にかわいい犬がいっぱいいたことと、三好栄子演じる政治家にヒゲが生えていたこと。それも漫画のようなヒゲではなくまばらなアゴヒゲなところが妙にリアル。
もしかしたら三好栄子は本当にヒゲを生やしたのではないかと目をこらしてしまった。
なお、須藤家の息子の前衛芸術家の元恋人の役で、北原三枝(石原まき子)が出演している。ウィキペディアによるとこれが本格的なデビュー作だという。
彼女は1954年に日活に移籍しているが、それより前に木下恵介監督作品で高峰秀子だの東山千栄子だのといったレジェンド俳優たちと共演していたのだから、道理でどの日活作品で見ても年に似合わぬ貫禄があるわけだと納得。
日本映画の大傑作とされる「二十四の瞳」も原作を愛読するみやした的にはガッカリする出来だったし、おそらく木下恵介×高峰秀子のタッグが向いていないのだと思う。
だが、昭和の東京の風景、かわいい犬たち、ヒゲの三好栄子という豪華三点セットを見ることができただけで満足である。【福】