フジテレビ「鹿男あをによし」第1回

最近、フジテレビの番組は見るたびに失望させられっぱなしなので、たいした期待もせずに見てみたのだが、これが予想に反して面白い。
とにかくシーンの切り替えのテンポが良く、余計ながないのがナイスだ。役者の演技が全体的に控えめなのもポイント高い。室内のシーンの照明にかなり気をつかっているように見えるのも嬉しいじゃないか。どこも平面的に明るいペッタリした照明だと見る気が失せる。

さて、玉木宏が演じる主人公は、まわりから「神経が細かい」と言われ続けて、それを気にするあまりさらに神経質になってしまっているという気の毒な男。不安定なカメラワークも手伝ってか、イライラおどおどピリピリした感じが伝わってきてまずは合格点。玉木が赴任する女子校の同僚で同じ下宿に住む綾瀬はるかの自然な天然ぶりも好ましい。どうでもいいけど、玉木は時々チュートリアルの徳井にそっくりに見えることがあるよね。って誰に聞いてるんだ。

ドラマの舞台は奈良。奈良といえば鹿である。
そしてどういうわけだか、いつも鹿が玉木をじっと見つめている。
また、学校帰りに洋品店に寄って下着を買えば、翌日、教室の黒板に「パンツ3枚1000円」とか落書きしてあるし、休日に綾瀬はるかに連れられて奈良見物をすれば、その翌日には「かりんとうとラブラブ」の落書き(この学校での綾瀬のニックネームがかりんとう)。落書きされないようあたりを見回して誰もいないことを確認してから鹿せんべいを味見してみたら、やっぱり翌日の黒板には「鹿せんべい、そんなにうまいか」。なんだ、どうなってんだ。

といっても、見ている我々はいつも鹿が玉木を見張っているのを知っているので、玉木のクラスに鹿に関わる人物がいることくらいわかるわけで、それは当然、赴任初日から玉木とトラブルを起こした生徒が一番怪しいわけで。父さん、富良野にもう雪は降りましたか。

落書きの犯人と思しき生徒を演じる多部未華子はちょっと変わった風貌の持ち主で、どこか人間離れした透明感がある。いかにも鹿関係者といった趣があって誠によろしい。
角度によっては若き日の薬師丸ひろ子の面影もあるが、松田美由紀にも似ている。いや、松田美由紀というか、松田龍平・翔太兄弟にどこか似ている気がする。もしや松田優作の娘かと思ったのだけれど、プロフィールを見たところ、どうやら娘ではないらしい。

キムラ緑子(劇団M.O.P.)、篠井英介(花組芝居出身)、酒井敏也(つかこうへい事務所出身)、鷲尾真知子(劇団NLT出身)、田山涼成(夢の遊眠社出身)、佐々木蔵之介(惑星ピスタチオ出身)と、やたらと小劇場系の人材が集結している玉木の同僚の教師陣。今どきのドラマはどこもこんなもんなんだろうか。

それにしても、酒井敏也がいつのまにやら立派なおじさんになっていて驚いた。古文の教師役のイメージがぴったりだ。
紀伊國屋ホールで上演されたつかこうへい事務所の「いつも心に太陽を」か「ひもの話」がたぶん彼のデビュー作だと思うのだが、あの頃はぽっちゃり体型に童顔、可愛らしい声でたどたどしく喋るのだけれど何故かやけに図太そうな雰囲気を醸し出すという不思議な俳優だった。
声を張って熱演する役者の多かった当時のつかこうへい事務所の中では完全に異色であり、そのたどたどしい台詞回しは見る者を不安にさせつつも「癖になる」とでも言うべき味わいがあった。そういえば、芝居の中で「浩宮に似ている」と言われるシーンがあったっけね。
あれから30年。すっかり薄くなっちゃって、ねえ。あの酒井がねえ。若い頃の不思議な雰囲気をまとったまま中年になっている。感慨ひとしおである。

さて、常に鹿に監視されている玉木と鹿の関係は? 鹿男というのは玉木のことなのか? 玉木の母が鹿島神宮を信心しているのも意味があるのか? 等々、謎は謎を呼びつつ次回へ続くのであった。
このままの小気味良いテンポと抑え気味の演出で最後までどんといけ。大仰な芝居や無駄にコミカルなリアクションは要らないぞ。【み】

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