「カーネーション」聡子のカーネーション

最終回を明日に控え、一足先に糸子があの世へ旅立ってしまった。

大勢の見舞客が訪れたと思われる病室には、たくさんの見舞いの品。
病院ではおそらくVIP扱いであろう。幸福な大往生である。

発作を起こして入院し、その後、意識が戻ってからというもの、「世の中が、えらいなんでもかんでも、きれえに見えるようになってしもた」糸子は、見舞いに来ていた里香にしみじみと「おおきになあ」。
婆ちゃんが珍しく改まって礼を言うものだから、里香は動揺して泣きながら糸子に抱きつくのだった。

それにしても若い。若過ぎるぞ里香。
もう四十近いはずだが、ルックスも演技も十代後半、頑張ってもせいぜい二十代半ばにしか見えない。
病院のファッションショーでは舞台監督かなにかを努めていたけれど、普段はどこで何をしている人なのだろう。
ちなみに里香のモデルの小篠ユマは、祖母が亡くなる頃には既に自分のブランド「ユマコシノ」の代表取締役である。

里香が「そんな、しみじみ、言わないでよ」と言った時の糸子の台詞が「おっかしか?」。
その後の台詞が「おかしいよ」なので、「おっかしか?」が「おかしいか?」という意味なのはわかるけど、生まれて初めて聞いたフレーズ。
泉州弁だろうか。日本語は奥深く、方言は豊かで面白い。

一方、ロンドンでは、仕事の忙しい時に母の日のカーネーションの花束を買いに出かけていたミッキーが叱られている。
それを意に介さず「だって売り切れたら困るじゃないの」とミッキー。
スタッフに指示をしたりミッキーを叱りつけたり、今日は聡子の英語をたっぷり。
特に京都訛りの「いつそーびじいなう(It’s so busy now)」が衝撃的であった。
でも、あの聡子ならこの英語でイギリスでなんとかやっていけているんだろうなあ、と勝手に納得。

優子から電話。
母の臨終を聞かされ泣き崩れる聡子。
優しく肩を抱き、カーネーションの花束を聡子に持たせようとするミッキー。

孝枝に案内されて二階のサロンを初めて見る優子と直子。
立派に改装された二階を見て回りながら、仲良く「おかあちゃん」の思い出を語り合う。あの優子と直子が。

上下黒にグリーンをあしらったパンツスタイルの直子がとにかく格好いい。
スタイルがいいし姿勢もいい。コシノジュンコ風のメイクもよく似合っている。
直子役の川崎亜沙美は岸和田出身なので、夏木糸子や優子のように泉州弁に悩む必要がないせいもあるのだろうが、繊細かつのびのびとした演技がとても気持ちがいい。
しかし、まあ、あの、あれだね、泉州弁ネイティブの人はイントネーションにあまり高低をつけずに話すんだね。
今日の回、糸子も優子も関西弁の台詞がかなり良い出来と思って見ていたのだけれど、直子が登場した途端、あらこれは違う、と思った。
直子の泉州弁は単語がクッキリ目立たない。ひとつのセンテンスをサラサラと話す感じ。

さて、糸子が入院した時と同様に、今回もロンドンの聡子は一日遅れの到着である。
小原家の女達とオハラの従業員達は、みな喪服で糸子の棺を囲んで座っている。
聡子の手には真っ赤なカーネーション。
そして、棺で眠る糸子に泣きながらこう言うのである。

聡子「おかあちゃん、ただいま」

切ない。ここで私も涙腺決壊。

聡子「イギリスはな、母の日やったんやで、昨日。ごめんなおかあちゃん。娘のくせに見送ることもでけんでごめんな」

涙で目が霞んでテレビの画面がよく見えない。

糸子に誉められたかった聡子。必死に頑張ってテニスで日本一になったのにリアクションの薄い母。
聡子への素っ気ない態度を千代に戒められ、なんだかよくわからないけどとりあえず仏壇で埃をかぶっていた表彰状を供えながら「聡子は偉い子です」と芝居がかった言い方で仏壇を拝んでいた糸子。
それを聞いた時の聡子の驚いた顔、その後の満面の笑顔が忘れられない。寝転がって足をバタバタしていた聡子の可愛さといったらもう!

テニスをスッパリやめて母や姉と同じファッションの道に進んだので「もう、さびしい」ことはなくなったはずなのに、ロンドンにオフィスを構えているため、ああ、母の最期に間に合わなかった。聡子切ない。【み】

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