「とと姉ちゃん」常子、編入試験に挑む(第4週)感想。

「とと姉ちゃん」第4週「常子、編入試験に挑む」(2016年4月25日〜4月30日/NHK)。

母と喧嘩して三姉妹を連れて実家を飛び出した君子、数メートルてくてく歩いて青柳家の裏手の弁当屋「森田屋」に住み込みで働くことに決定。喧嘩した母と顔を合わせる距離であるとか森田屋の大女将は母と犬猿の仲だとかちょっとありえない選択なのだけれど、君子に「気まずい」という感覚はないらしい。

家を飛び出したはいいが、なぜか大きな荷物は青柳家に置いてきた君子。必要な物はそのたび青柳家へ取りにいくつもりだったのだろうか。森田屋に大荷物を送りつけられビックリしていたが何がしたいんだ君子。これがお嬢様というものなのか。おそるべし創業200年の老舗。

小橋一家は森田屋の二階の一室を間借りしているわけだが、ミシンだの仏壇だの重たい家具を女3人で運び上げてしまう剛力っぷりに驚く。狭い階段を使って荷物を運び上げるのは相当技術が必要だろう。そして家財道具一式を運び込み布団を一組敷いてもまだ広々としている小橋一家の部屋。魔法の部屋か。
夕食は森田一家と一緒にとる。ただし森田一家と従業員の浜野謙太は居間、小橋一家はふすまを開け放した隣の部屋だ。隣の部屋の食卓と見比べ「何であっちよりおかず少ないの?」と険しい顔でボヤく美子と「ああ…本当だ。いわしがないね」と応える常子の態度にも困ったものだが、「当然でしょ。雇って頂いてる身なんだから」とノンキな君子。いくら小さな子供でも失礼な発言を咎めない母親はどうかしている。声筒抜けだからね。

常子の父の竹蔵は有能な会社員だったようだが、家庭では独自のルールを掲げて「なにげない暮らし」とか「家庭」を大切にすることばかりに熱心で、この時代のオーソドックスな躾には興味がなかった模様。そして亡くなる直前に長女の常子に「ととの代わりになってほしい」と遺言して、彼女の人生と小橋家のパワーバランスを大きく崩してしまった。
ハンサムで背が高くて妻子に優しく品のいい自慢の父親ではあるだろうが、昭和初期に生きる少女達にとってはなかなか厄介な人物じゃないかと推測する。毎晩酔って暴力をふるうとか浮気三昧だとかすぐ仕事を辞めてしまうとか娘達を虐待しているとかあれば、「あれ? もしかしてウチの父親って変?」と考える余地もあるだろうが、一見良きパパなのでそのおかしさに気づきにくいのではなかろうか。
このユニークな父親のせいか、品のよい家庭で育ったはずなのになぜかガサツで無神経なふるまいが多い常子。また、いまだ娘っぽさが抜けずまるで頼りない君子。

この機能不全家族的な小橋一家を「育て直し」してくれているのが森田一家である。

因業ババアの大女将にいつも怒鳴っている親方とニヤニヤ笑いの若女将とキャラの薄い娘とボンクラな従業員…という鬼の住処と見まごう森田屋に住み込みで働くことになった小橋一家、これから一体どうなることやらと視聴者をハラハラさせておいて、あっという間に人間関係改善。
大女将は厳しくはあるが裏表のないまっすぐな気性。若女将も自分の笑顔が他人を怖がらせているのを自覚しており何くれとなく小橋一家をフォローしてくれている。不愛想ですぐ怒鳴るおっかない親方も、まだ幼い美子が自然とないしょ話ができるほど小橋一家と心の交流が持てている人。

無愛想で頑固で横暴で…と、昭和初期のオヤジさんとしては非常にオーソドックスな森田屋の親方。娘達が大人に無礼な口をきいても戒めることなく他人行儀な丁寧語で会話する竹蔵や小橋一家をベタベタ甘やかす青柳の鶴太郎とは違って、叱る時は叱る。
配達が終わりリヤカーを引きながらふざけている常子と鞠子に「うちのリヤカー引いてる以上、森田屋の看板しょってるんだ。仕事中にはしゃぐなんてやめとくれ」と言う森田屋の大女将。弁当の種類を間違えて配ってしまった時のエピソードで「商いってのはな、素人が口挟めるようなもんじゃねえんだ!」「そこは親として止めるべきだったよなあ!」と小橋一家を叱りつける親方。いずれもこのドラマではなかなか聞けない正論。
まるでおとぎの国の住人のような君子と常子が、唯一現実感を持つことができる貴重な場所が森田屋なのである。
とはいえ、森田一家も結構甘いけどね。
大女将が小言をくれる時に常子の頬を両手でむぎゅうと掴んだり、親方がミスした浜野謙太のオデコに自分のオデコをゴツンゴツンぶつけるとか、森田屋の叱り方は案外優しい。体罰というよりスキンシップのようだ。

現実離れした小橋一家をリアルな世界に近づけてくれる森田屋を出て、常子が女学校に行ってしまうともういけない。またしてもファンタジーの世界に入ってしまう。美しい自然の風景に囲まれた浜松編はまるで童話の絵本を読んでいるようだったが、東京の女学校のシーンは昭和の少女小説とか少女漫画のごとき様相。
大声でひそひそする意地悪な同級生。頭ごなしに叱りつけることなく生徒達の声に耳を傾ける民主的な國史の教師。図々しい常子と仲良くしてくれるツンデレなお嬢様。大映ドラマかい。

さて、先週から心配していた女学校の学費。祖母の援助が受けられなくなった今、弁当屋の住み込みの給金で娘二人を女学校へ通わせられるとは思えないのだが…とそこへ手を差し伸べたのがまさかの鶴太郎。君子と三姉妹が大好きな鶴太郎なのだった。なるほどね、そうきたか。その手があったか。いや、その手はなかろうよ。
どうせウチは老い先短い夫婦だからどうぞ全財産使っちゃってと迫る鶴太郎も変だが、いったんやんわり断ったものの結局厚意を受ける君子もだいぶ変わっている。いろいろ規格外れな小橋一家に驚かされっぱなし。

弁当の配達の途中で出会った学生に親しく話しかけていた鞠子。これはなかなか目立つことのない鞠子の見せ場につながるのかと喜んだのもつかの間、学生の悪口を言っていた常子が「日陰でもたくましく育つ」という学生に聞いた話を横取り。さらにその後、学生と再会するエピソードは常子のものになるのだった。あんなに嬉しそうにニコニコして学生と話してたのに。鞠子切ない。【み】

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