三ツ矢雄二の「公言」

日本テレビで放送されたマイケル・ジャクソン特番のマイケルの声を吹き替えた声優・三ツ矢雄二について、今週号の「TV bros.」の「ブロス探偵団」に「海外ドラマのゲイ役を得意とし、自らもゲイを公言していることで有名」との記述が。
知らなかったよ、三ツ矢雄二が「ゲイ役を得意とし」などと、まるで誰もが知っているような事柄のように書かれる声優だったとは。そして「自らもゲイを公言」していたとは。いつ「公言」していたんだろう。

件の日テレのマイケル特番。
声優ファン的にはゲイのイメージがクッキリとある三ツ矢の甘えるような粘っこい口調の吹替に、日テレのそこはかとない悪意のこもったメッセージを受け取ってしまうわけだが、それは一部の声優ファンだけのものだと思っていた(「Tv bros.」にも「マニア感激のさりげない悪意」という記述がある)。

だが、一般に流通している三ツ矢のイメージは、おそらくアニメ「タッチ」の上杉達也役だろう。最近のアニメや声優を紹介するような番組で、音響監督としてアテレコのスタジオにいる三ツ矢が喋ると「わあ、たっちゃんだ〜」などと大袈裟に驚かれるシーンとか、「あの人はいま」的な懐かし系の番組で、日高のり子と一緒に「タッチ」の名場面を演じるシーンを見たことがある。
あるいは、繰り返し放送される「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のマイケル・J・フォックス役の声優というイメージか。

いずれにせよ、「三ツ矢雄二=ゲイ」というイメージは一般的ではなかろう。
現在、三ツ矢は土曜深夜に放送されている「ウィル&グレイス」(NHK)でゲイのジャックの声を吹き替えているが、こんな深い時間に放送されているドラマでゲイ役を演じても、一般に三ツ矢=ゲイのイメージが浸透するとも思えない。

十代の頃に声優ファンだった私は、三ツ矢雄二など数人の若手声優の“おっかけ”をしていたことがある。
東京12チャンネル(現テレビ東京)で放送されていたドラマ「SOAP」で、ゲイのジョディ(ビリー・クリスタル)の吹き替えを好演して以来、当時の声優ファン(まだ「オタク」という言い方はなかった)の間では、「三ツ矢雄二=ゲイ」というのは常識で、また三ツ矢自身もそのキャラを楽しんで演じているように見えた。

当時の三ツ矢は髪を染め、片耳だけピアスをし、アラミスという濃厚な香りの香水を愛用し(彼に握手をしてもらうとアラミスの香りが暫く手に残った!)、「やぁね、もうッ」「〜じゃないのよォ」といったあからさまなゲイ口調で話す人だった。オシャレにこだわりがあり、「洗濯したTシャツにはアイロンをかける」と話すのを聞いて驚いたことがある。先輩声優の井上真樹夫が「雄二はナヨナヨしすぎだよ」と言うのもこの耳で聞いた。「金パ」こと「パック・イン・ミュージック」(TBSラジオ)でパーソナリティの野沢那智と白石冬美が、三ツ矢と映画評論家のおすぎは仲がよいと話していたのを聞いた記憶がある。アニメ雑誌のインタビューだったかアンケートだったかで、好きな映画は「真夜中のカウボーイ」と回答していたのも覚えている。

三ツ矢雄二は本当にゲイを公言したのか。あるいは「TV bros.」の勘違いなのか。
あれから20年ちょっとが過ぎ、今や声優ファンの世界からすっかりオリてしまった私。「ソワレ」という演劇雑誌の編集長を務めていたことや、「セーラームーン」のミュージカルの演出をしたこと、自分の劇団を持っていること、アニメのアテレコの演出をしていることなど、断片的ではあるが三ツ矢情報はそこそこキャッチしているのに、「ゲイを公言」したなんて知らなかった。
「公言した」というのが本当でも嘘でもどっちでもいいんだが、「自らもゲイを公言していることで有名」と書かれているにもかかわらず、公言したという情報や噂を一般人(=声優ファンをやめてしまった私)が知らなかったという事実が少し寂しい。【み】

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