笑い飯の言葉の力

かつて関東圏に住む子どもたちは、ビートたけしの「オールナイトニッポン」を聴いて、すっかりたけし風の喋り方になってしまったものである。「○○だなオイ」とか「そんなわけでしてね」とか、たけしな奴続出。
一方、関西圏ではダウンタウン松本のように喋る奴続出。今どきの関西系のタレントの中には、松本の影響を色濃く受けたと思しき語り口調、芸風の者が少なくない。

さて、我々が住む関東エリアではなかなか見ることのできない笑い飯。
コンビ二人で相手に負けじと怒濤のごとくボケ合う破調なスタイルと、一昨年、昨年のM-1でのネタの神懸かり的な出来にすっかりノックアウトされてしまった。
真似したい。笑い飯がネタで使ったフレーズを日常で使いたい。
ジャンケンをすれば「チョキぃ? 箸と同じ言い方でチョキぃ?」と頭の中で言ってみるし、「象」という単語を聞けば「かわいそうな・ぞ」と呟き、「博物館」という単語を聞けばすかさず自動人形の動きをしながら喜多郎の「シルクロード」のテーマを口ずさむ。もちろんその人形は「J文」時代のモノだ。
薬局で「脱脂綿」という文字を見れば「こんな大事な舞台で脱脂綿ってなんや」と静かに言いたいし、もしも私が今小学生なら迷わず授業中に妙な手の挙げ方をするだろうし、教師だったら「そこのヘンな挙げ方のおまえ」と指名するだろう。
電話がかかってくれば「モシーン」と叫びたいし、相手には「それ俺のや! 俺の面白いのや!」と怒鳴り返してほしい。

かつて、コメディアンのトニー谷が「家庭の事情」というフレーズを流行させた頃、このフレーズをごく普通の文脈で使っても笑いが起こってしまい非常に不便だったというエピソードを聞いたことがある。
「ええ、わたくし、このたび家庭の事情で退社することになりまして、皆様には大変ご迷惑を…」といった真面目な挨拶をしていても、聞き手たちの脳裏にはザーマス眼鏡のトニーのふざけた顔や「恋をするなら〜家庭の事情〜♪」というトニーのヒット曲「サイザンスマンボ」の一節がグルグルめぐってしまって、あまつさえ別のトニーの流行語「ネチョリンコン」などという怪しげなフレーズまでも思い出したりして、笑いをこらえるのに苦労したに違いない。

今後、笑い飯がネタで使ったフレーズも、トニーの「家庭の事情」のように笑いの要素を含んだ新しい言葉として生まれ変わる可能性大とみた。
理科の実験の授業中に教師が「この脱脂綿を…」と言いかけると生徒たちが「脱脂綿や! 脱脂綿、脱脂綿、脱脂綿!」と叫んで大騒ぎになったり、歴史の時間に教科書を読ませれば「J文式土器は…」と涼しい顔で読み上げたり、保育園で「機関車トーマス」のビデオをかけると幼児たちが「この機関車には顔がアリマス」と回らぬ舌で一斉に呼応したり。
と、笑い飯のネタに登場するフレーズには、そんな力があるような気がするのだ。
彼らにシンパシーを感じる者ならそれがわかるはずである。
さあ、キミも今日からは、穴を掘ったら大きな声で「ええ土ー!」と叫ぼうではないか。もうええっ、替われ!【み】

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