日本の俳優は兵隊かヤクザの役をやらせれば誰でもうまくハマる…という説を聞いたことがある。おそらく、殿様だの貴族だのといったハイクラスな役柄が似合う日本人俳優が少ないという喩えなのだろう。
“ヤクザと兵隊役”の代表格といえば高倉健である。日本を代表する任侠顔。たくさんの映画でヤクザや兵隊を演じてきた。ヤクザ映画・戦争映画ではなくても、どんな役柄で登場しても、「きっと前科者なんだろうなあ」と見る者に思わせるおそるべき俳優である。
今公開中の「ホタル」という映画でも「元特攻隊員」という役を演じているらしい。その妻に田中裕子。映画を見ていないので詳細はわからないが、この2人が夫婦というのは少々違和感。親子ならともかく。幼妻という設定なんだろうか。
さて、いかに日本の俳優でも50年以上も昔の人々とはかなりルックスが変わってきてしまっている。「兵隊かヤクザの役をやらせれば」という概念は通用しなくなっているのではないだろうか。
ヤクザはともかく兵隊役にマッチする顔だちの俳優は減っているに違いない。若手の俳優の顔を思い浮かべてみても、兵隊役が似合う顔というと残念ながら山本太郎しか思いつかない。
なぜ、こんな事を言いだしたかというと、テレビで見ていた阪神─中日戦に登場した沖原佳典選手(阪神)の顔に感銘を受けたからなのだった。まるで戦時中の兵隊さんの写真のような顔。今どきなかなか見かけない顔である。177センチ、75キロという体格は、プロ野球選手としては少々細めだが、無論一般人に比べればガッチリしていることだろう。
沖原の他にも、阪神には星野修、松田匡司 、広澤克実といった味のある顔の選手が少なくない。また、巨人の松井、清原なども兵隊役が似合う立派な顔をしている。
戦争ものの映画やドラマに彼らのような古風な顔だちの野球選手たちが大挙して出演したら、厚みのある良い作品になるに違いない。
当然のことながら、演技の訓練を受けたことのない彼らには、主演級の役は無理だろう。だが、運動神経は抜群。走ったり殴ったり殴られたりといったアクションシーンはお手のものだ。
いや、清原や広沢は、ヒーローインタビューで見る限り、喋りも達者。重要な役どころを任せてもいいかもしれぬ。
大島渚の「戦場のメリークリスマス」では、当時主にコメディアンとして活躍していたビートたけしが素晴らしい演技を披露し、スピルバーグの「太陽の帝国」では、元プロボクサーのガッツ石松が強い印象を残した。
黒澤明は「乱」などで、プロアマ問わないオーディションを行い、今まで俳優経験のない者を出演させている。
現役のプロ野球選手がスポーツと無関係なドラマや映画に大挙して出演するというのは今までなかったことだろうが、戦争ものにプロ野球選手、これって悪くないアイデアだと思う。【み】