たいして期待しないで見た「たけしのこれがホントのニッポン芸能史『ツッコミ』」(2020年3月21日 / NHKBSプレミアム)が大層面白かった。
「これがホントのニッポン芸能史」はビートたけしが「独自の視点で日本の芸能史を語り尽くす」というシリーズで、たけしが博士、所ジョージが助手、NHKのアナウンサーが新人研究員という設定。
これまで漫才、コント、紅白歌合戦、コミックソング、時代劇、司会、クイズ番組などの企画がオンエアされている。
今回は漫才・コントの「ツッコミ」に焦点を当てた企画。
M-1王者、ファイナリスト達を迎え、「ひとくちにツッコミといってもさまざまなスタイルがある」という芸人達のインタビュー映像がネタ映像とともに紹介される。
VTRに登場した芸人達も、中川家やナイツといったお笑いを語ることに達者なスタジオゲストの芸人達も「ツッコミ」について真剣に分析する。
そして、さすがはNHK、ゲストのM-1&KOCファイナリスト達の過去の映像と昭和のレジェンド達の映像を新旧とりまぜてふんだんに見せてくれたのも嬉しい。
ネタの一部分が使用された番組一覧(赤い文字はスタジオゲスト)
横山やすし・西川きよし | 夜の指定席(1983年) |
あした 順子・ひろし | 年忘れ漫才競演(1997年) |
B&B | 花王名人劇場 (注1)(1980年) |
爆笑問題 | 笑いがいちばん(1997年) |
中川家 | 東西笑いの殿堂(2020年) |
フットボールアワー | “笑”たいむ2008(2008年) |
ナイツ | 東西笑いの殿堂2019(2019年) |
一人ナイツ(塙宣之) | Eテレ2355(2019年) |
獅子てんや・瀬戸わんや | 漫才十八番(1977年) |
中田ダイマル・ラケット | 夜の指定席(1980年) |
あした 順子・ひろし | 笑いがいちばん(2007年) |
横山やすし・西川きよし | 夜の指定席(1980年) |
笑い飯 | 綾小路きみまろの演芸図鑑(2016年) |
かまいたち | 年忘れ漫才祭り2017(2017年) |
かまいたち | 西方笑土 トップギアライブ(2012年) |
和牛 | 新春生放送!東西笑いの殿堂2020(2020年) |
霜降り明星 | 有田Pおもてなす(2019年) |
霜降り明星 | 新春生放送!東西笑いの殿堂2019(2019年) |
バイきんぐ | バナナマンの爆笑ドラゴン(2015年) |
バイきんぐ | King(DVD/2015年発売) |
かまいたち | 年忘れ漫才祭り2017(2017年) |
東京03 | バナナマンの爆笑ドラゴン(2015年) |
東京03 | 燥ぐ、驕る、暴く。(DVD/2011年発売) |
(注1) 「花王名人劇場」のみNHKではなく関西テレビ / フジテレビの番組(映像提供:吉本興業)
これだけでは堅くなりすぎると思ったのか、「メガホンに代わるツッコミの道具になる楽器を探そう」というスタジオ企画と「カミナリたくみとミキ昴生による一人で客に語りかける仕事をしている人の所に行ってツッコんであげたらどうなるか」という検証ロケ企画が入ったのはまったくの蛇足。
ネタのVTRやスタジオゲストによる漫才の実演が入っているのだから、「お笑い」の要素は充分足りているのだ。
歴史や科学や政治について、詳細なデータやインタビュー映像等を用いて識者が解説を加える教養番組は、本来NHKが得意とするところ。
この正統派NHKスタイルでお笑いを分析する番組があってもいいと思うのだ。
NHKには良い例があるではないか。
「ファミリーヒストリー」だ。
ひとりの人物の家族の歴史を取材しルーツを明らかにしていく番組。司会は、大御所俳優にも後輩芸人にも巧みに対応する達人今田耕司。
たとえば、「吉本興業」とか「ワタナベエンターテインメント」とか「マセキ芸能」といったお笑い事務所を特集してもいい。
その場合は、「吉本」なら陣内智則、「ワタナベ」ならアンガールズ田中、「マセキ」ならナイツ塙といった具合に、MCはそれぞれの事務所の現役トップ格の芸人が交代で務めたらいいと思う。
あるいは「ファミリーヒストリー」のように毎回1人の芸人をピックアップし、芸人になってからの歴史であるとか、「誰に憧れて芸人になったか」「賞レース」「同期」「ライバル」「相方」「自分に似ている後輩芸人」などのテーマでトークや取材で深く掘り下げていく番組。
ナイツ塙の著書「言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」(集英社新書)をそのままタイトルとして番組を作ってもいいと思う。
プロローグ「僕が霜降り明星を選んだワケ」
集英社「言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」目次より
第一章 「王国」 大阪は漫才界のブラジル
第二章 「技術」 M-1は100メートル走
第三章 「自分」 ヤホー漫才誕生秘話
第四章 「逆襲」 不可能を可能にした非関西系のアンタ、サンド、パンク
第五章 「挑戦」 吉本流への道場破り
第六章 「革命」 南キャンは子守唄、オードリーはジャズ
エピローグ「10年ぶりの聖地。俺ならいいよな」
上記の「言い訳」のコンテンツをベースにするもよし、「東西の笑いの違い」とか「吉本と非吉本の比較」とか「歴代M-1王者の特徴」とか「M-1出場者のネタや芸風の流行の変遷」などを、はしゃがず騒がず知ったかぶらずお笑いのプロ達がさまざまな角度から分析してくれる番組が見たい。
「ナントカ研究所」とか「所長」とか「新人研究員」みたいなバラエティで使い古されたギミックは要らない。
無理に大はしゃぎする局アナとか何も知らない役回りのアイドルとかゆるい要素は一切抜きで、NHKのライブラリーに眠る膨大な演芸映像を駆使し、事務所の壁を超えた現役トップの芸人達がただひたすら笑いについて語る番組をシリーズ化してほしい。
NHKよ、キミなら出来る。いや、こんな番組、キミ達以外には作れないぞ!【み】
MC: ビートたけし、所ジョージ、片山千恵子(NHKアナウンサー)
スタジオ: 中川家(剛、礼二)、ナイツ(塙宣之、土屋伸之)、ミルクボーイ(駒場孝、内海崇)、ぺこぱ(松陰寺太勇、シュウペイ)、かまいたち(山内健司、濱家隆一)
VTR出演: 爆笑問題(太田光、田中裕二)、フットボールアワー(岩尾望、後藤輝基)、笑い飯(西田幸治、哲夫)、和牛(水田信二、川西賢志郎)、霜降り明星(せいや、粗品)、バイきんぐ(小峠英二、西村瑞樹)、東京03(豊本明長、飯塚悟志、角田晃広)、ビートきよし、カミナリ(竹内まなぶ、石田たくみ)、ミキ(昴生、亜生)
構成: 武田浩、藤原ちほり
演出: 坂田政度
制作統括: 北生大介、小池明久、瀬崎一世
制作: NHKエンタープライズ
制作・著作: NHK、イースト・エンタテインメント