義足のレスラー、ザック・ゴーウェン

プロレス好きの方には何をいまさらと思われるかもしれないので、今回は読み飛ばしてほしい。
先日テレビをつけっぱなしにしていた。普段は見ないプロレスが流れている。ザック・ゴーウェン対ブロック・レスナー戦。
ザック・ゴーウェンはひょろひょろの坊や。常人よりはデカイのだろうが、しかしプロレスラーとしては心許ない体型。しかも何だか足をひきずっているし。
一方ブロック・レスナーは凶悪な面構え、首から肩の筋肉が恐ろしく盛り上がり、人間二人羽織といった体型だ。あ、二人羽織はもともと人間がやるものか。じゃ、ひとり二人羽織ということで。
試合が始まり、レスナーがリングに上る。続いてザックがリングに上る。いや、上る前に…足を外して…? この坊やは義足だったのだ。
リング上で向かい合う二人。画面から漂う無茶感。結局試合はザックが一方的に椅子で殴られ、鉄柱にたたきつけられ、血まみれになって失神し、ストレッチャーで運び出される。
がんばれ義足の少年ザック! リングで夢を叶えるんだ!
というポジティブな感想は余人に任せるとして、それを凌いで余りある業の深い何かを我々は感じ取った。そしてそれは主催者側も、おそらくザック自身も、そしてザックをリングサイドで応援していた母親も十分承知の上のことなのだろう。【吉】

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