テレビをこじらせた東京福袋が書いたノンキなテレビコラム集。

田村で金、谷で金、ママで金、そして脱力

インターネットに書く趣味のコラムでもお金を頂戴して書く原稿でも、テレビについて書こうとする時、必ず一瞬よぎる言葉がある。
「ナンシー関ならどう思うだろう」
私は、デビュー作以来、エッセイ集はすべて初版で購入しているほどのナンシー関の熱烈なファンだ。同い年ながらも心の師と仰いでいる。
「違うんじゃねえの、ナンシー!」「ナンシー、それは勘違いだよナンシー!」とか思うエッセイも中にはあるのだけれど、これだけはきっと今でも彼女と意見が一致するという確信のある物件がある。

谷亮子選手である。

ナンシー師が何度も何度も俎上に上げていた大物件。
彼女がマスコミ相手にまき散らし続ける厄介な感じを、「ヤワラさん」という不自然な呼称や「そのうち政治家になる」という予言で、しきりと我々に訴えていたものである。
相手にしないのが一番だ。
触れてはいけない事は良くわかっている。
しかし、どうしても言いたい。一言モノ申したい。
こうなるともう彼女の術中にハマったも同然。さすが世界一の女子柔道家といえよう。

6月28日に「谷亮子選手、妊娠のため世界選手権辞退」というニュースが報道された。妊娠っつってもまだ3ヶ月。一般的な常識ではまだ公にしない不安定な時期である。
とはいえ、谷亮子選手は世界選手権に出場するような選手なわけだから、一般常識に合わせる必要はない。彼女が出場辞退することによって他の選手を選ばなければならないといった事情もあるだろうしね。
頬紅がやたらと目立つおてもやんチックなメイクも、まあ良しとしよう。
マスコミ各社が集まる記者会見で翌日テレビでオンエアされるのは必至という状況。若い女性がメイクに凝ったからといって文句を言う筋合いはない。

だが、相変わらずの“ヤワラ節”とでも呼びたくなるフレーズの数々は見逃すわけにはいかぬ。
自らの妊娠について「待望のおめでた」と言う非常識。
「田村で金、谷で金、ママで金」なんて自分の口から言うか普通。お前はスポーツ紙のデスクか。

彼女のように若い頃からずっと第一線で活躍しつづけるアスリートは、勉強や業務よりも競技を優先に過ごしてきた人が多いに違いない。
いつもカメラの前で臆せずペラペラ喋るのでつい忘れてしまいがちだが、谷亮子選手に社会的な常識が欠けていたとしても責めるのは酷というものである。
に、してもだ。
「田村で金、谷で金、ママで金」(あるいは「田村で金、谷で金」)というフレーズを彼女が公の場で口にするのは、これが初めてではないと記憶する。以前にも聞いた覚えがあるぞ。
ここは「独身時代に金メダルを獲得し、結婚してからも再び手にすることができました。今度出産して、また金メダルが獲れるよう精一杯頑張ります」とでも言ってもらいたいところ。そして、そのコメントを受けてマスコミが「田村で金、谷で金、ママで金」と見出しをつければ良いだけのことだ。
礼儀作法にうるさいイメージの柔道界だが、谷亮子選手に「それはおかしい」と言ってあげられる人材はいないのだろうか。

いっしょくたにされては谷亮子選手は不本意かもしれないが、誰も知りたくもない彼女の夫婦生活に関する露骨な話を嬉々としてキーキーわめく松野明美の醸し出すイヤな感じに近いような気がする。
だが、松野の場合、キーキー騒ぎまくる下品なキャラを演じることによって、ある程度計算して笑いをとりにいっている。まったく成果はあがっていないが。

一方、谷亮子選手は、いかにも優等生的なコメントに終始し(ナンシー師が「政治家になる」と書いたのもそのせいだろう)、一向に面白くない。
スポーツ紙向けのキャッチーなフレーズを口にすることがファンサービスとでも思っているのかもしれないが、一流のアスリートのコメントにしてはあまりにも品のない表現が多すぎるのだ。

全体的には面白くもおかしくもない流暢な優等生コメントなのに、その中から、不自然というか傲慢な言い回しがポロリポロリとこぼれる。
これが、記者会見における彼女の鬱陶しいポイントかもしれない。それだけ自信満々に喋るなら非常識な言い回しをするなよな、という感じ。
しかも、その非常識さはガキだからとか馬鹿だからとかいう類のいわゆる天然ボケとは違い、「おまえはアイドルかよ」とか「おまえはそんなに偉いのかよ、何様だおまえ」といったニュアンスの言い回しだから、余計勘に障るのだろう。

しかし、谷亮子選手に「何様だ」と問えば、「金メダリストだよ、亭主は一流のプロ野球選手だし」とかあっさり言い返されておしまいである。
でも、そこはそれ、多少は自らを卑下しといた方が賢く見えることもあるし、会話も気持ち良く進行するというもの。「一流は一流なんですけど、今いち人気のないオリックスの選手なんです」とかね。
いや、実際にそう言えということじゃなくて、彼女からそういう気配が全く感じられないから困ってしまうのである。
「亮子ちゃん強いわねえ」「亮子ちゃんお嫁さんになってすごく綺麗になったわねえ」なんて言って谷亮子選手を応援している善良な人々も、そろそろ辟易している頃ではないのか。
「田村で金、谷で金、ママで金」みたいなヘンテコなフレーズを得意気にペラペラ喋るよりも、たどたどしくても良いから真摯な態度でインタビューに応えたほうが好感度上がると思うぞ。

ところで、彼女の見た目が今ひとつだからつい差別して見てしまっているのではないか、彼女が別嬪さんならもう少し点が甘くなるんじゃないかと自らに問うてみたのだが、やはり問題はルックスではなかった。
最近、盛んにバラエティ番組に出演しているプロレスの佐々木健介選手の“鬼嫁”北斗晶。
素顔が谷亮子選手と似ているといわれるが、彼女の本業ともいえる「うるせえんだよばかやろう」的なコメントを発している時も、なにかの拍子に照れたりする時も、ちっともイヤな感じはしない。お笑いタレントのツッコミに思わず絶句してしまうシーンなんて、なかなかキュートなのである。あのコワモテの北斗が。そう、顔の作りは関係ないのだ。

北斗にあって谷亮子にないもの。それは愛嬌と羞恥心だと思う。
今後もマスコミに頻繁に登場しつづけると思われる谷亮子選手、北京五輪の金メダルを目指して修練するのも良いが、それよりもまずは愛嬌と羞恥心を養ってほしい。演技でもかまわないから。【み】