「みのりかわ乙女団」の使い捨て感

V6がレギュラー出演する「学校へいこう」(TBS)の中に「みのりかわ乙女団」というコーナーがある。
なよなよとしたいわゆる“女性的な”少年たちを「乙女系」と名づけ、何人か集めて演劇部風の活動をさせるという企画である。
この「乙女系」というポジティブな表現に、一昔前ならこの手の男性に対し遠慮なく「オカマ」だの「気持ち悪い」だのと平気で口にしていたバラエティ番組というメディアの成熟を見る。
当初、この少年たちの集団は「歌劇団」と名づけられており、その名の通りミュージカル上演を目指していたのだが、「歌や踊りが苦手という少年がいた為にストレートプレイを上演することになった」という設定になっている。
さて、この企画はおおまかに分けて3つのコーナーで構成されている。1つは団員たちのミーティング、1つはV6による新団員のオーディション、そしてもう1つは団員たちに実際に演技をさせることで舞台への準備とするコーナーである。
ミーティングとオーディションはともかくとして、見ていて気になるのは実技のコーナーだ。スタッフが演技の練習として彼らに与えるテキストというのが、「3年B組金八先生」だの「スチュワーデス物語」だのという人気ドラマの名シーンなのである。
私は演劇の勉強をしたことがないので専門的なことはわからぬが、素人目に見てもこれが演技の訓練になるとは到底思えぬ。
可憐な顔立ちの少年にスチュワーデスの格好をさせて「可愛い〜」というスタジオ観客の声をかぶせたり、物腰の柔らかななよなよとした少年に荒っぽい台詞を言わせて大笑い…といった誠にイージーなシーンが繰り広げられるのである。
また、こんなシーンもあった。「発声練習をします」と言うなり、「あ、い、う、え、お!」とリーダーの少年が叫びだしたのである。たどたどしく叫ぶ少年の姿に、スタジオの観客が爆笑する声がかぶせられたわけだが、発声練習って「あ、え、い、う、え、お、あ、お」というのが一般的なのではないか? 演劇部や放送部の人間はたいてい「あ、え、い、う、え、お、あ、お」とやっているような気がする。
放送業界にいる者がそれを知らないとは思えないし、よしんば知らなくても演劇の訓練に関する書籍やビデオなど幾らでもあろう。なぜそれを彼に教えてやらないのか。
あるいはこの少年は何度やらせても「あ、え、い、う、え、お、あ、お」が「あ、い、う、え、お」になってしまうのか。だが、この少年は「みのりかわ乙女団」のリーダーに任命されているのだから、せめて発声練習のリードくらいこなせなければいかんだろう。
いずれにしても、このようなシーンを見ていると、スタッフが彼らを演劇人あるいはタレントとして育成する気持ちはさらさらないように思えてならない。その場さえ面白ければそれでよし、といった感じ。視聴率が芳しくなければそれで終わり、はいサヨナラ。
まあ、いかにもバラエティ番組らしい作りではあるのだが、こういう少年たちをせっかく「乙女系」という繊細な言葉で呼んでいるのに、要は笑い者にするだけというのがなんだかもったいない。「異形の者たちを笑う」というスタンスから抜け出していないのだ。
そういえば、TBSには同じような感覚の番組があった。日曜夜に放送されている「どうぶつ奇想天外!」だ。
愛らしい動物の仕草を見て嬌声、厳しい自然の掟を見て感動…といった動物バラエティ。奇しくも司会は「学校へいこう」と同様にみのもんたが務めている。
「動物の生態を知る」といったスタンスがベースのようなのだが、時々、「なんでわざわざそんなことをさせる?」みたいな実験をしていることがある。自然の中ではありえないシチュエーションでの実験。よたよたと走ったり転んだりする小動物の姿に「可愛いー」という声や笑い声がかぶる。
「動物って必死に生きているんだね」「自然って面白いね」といった表のメッセージに対し、「こんなところに頭ぶつけて可笑しい」「こんな細い通路をちゃんと通れるなんて動物って案外バカじゃないじゃん」という裏のメッセージ。この視点は「みのりかわ乙女団」と共通点を感じるのだ。
なよなよとした少年たちにとって「乙女系」という呼称は悪くないものだと思う。そういう種類の少年の居場所を作ってあげるというのは素晴らしいことだ。
だからこそ、彼らを使い捨ての素材のような杜撰な扱いはしないでほしい。【み】

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