「うたテクネ」(2020年3月14日 / NHK総合)。
まだミュージックビデオがなかった70年代や80年代初頭までの「日本のうた」を現代のクリエーターが映像化するという企画の第2弾で、今回作られたのは、柳沢翔「リバーサイドホテル」(井上陽水)、中根さや香「一番星ブルース」(菅原文太、愛川欽也)、柴田大平「海を見ていた午後」(松任谷由実)、胡ゆぇんゆぇん「蝶々さん」(細野晴臣)の4曲。
偶然ネットで目にした記事を読んで「蝶々さん」が気になったので録画予約しておいた。
「蝶々さん」は1976年にリリースされた細野晴臣のアルバム「泰安洋行」に収録されており、プッチーニのオペラ「蝶々夫人」のイメージ色濃い歌詞をトロピカルな音色に乗せて唄うハッピーな曲。歌詞はアンハッピーだけど。
ウィキペディアによるとコーラスに山下達郎と大瀧詠一が参加しているらしい。
昨日、この番組が録画されていたことに気づいてのんびり再生してみたら、いやもう、これが良いのよ。良すぎるのよ。
じんわりと蒸し暑い南国のどこかの島のカフェで、冷たくて甘いドリンクを飲みながら時折吹いてくる爽やかな風に頬を撫でられているような心持ち。
とにかくまずは見て頂戴。
「蝶々さん」のミュージックビデオを担当した胡ゆぇんゆぇんさんは、1986年中国南京市生まれのアニメーション作家。
チカチカと切り替わるサイケな演出が素敵。
中国の陶器のお皿みたいな水色の風景の中で蝶々さんと船長さんが舟に乗って流れていくシーンとか、もう最高すぎてうっとりしてしまう。
1960年代から1970年代にかけて流行した、サイケ風味のイラストやアニメーションを想起させるタッチ。
星新一の小説の挿絵の真鍋博とか「みんなのうた」や「11PM」の久里洋二のアニメを思い出す。
1962年生まれの私はこの時代の匂いにべらぼうに弱い。
ベトナム戦争、公害問題、オイルショック、連合赤軍事件等々、なかなかに深刻な時代だったわけだが、当時の私は何もわからないコドモだったから、今残っているのは主に甘い郷愁だけである。
1970年代を知らない若い胡ゆぇんゆぇんさんのアニメに、昭和中期生まれの私は胸の奥から大きく揺さぶられてしまったのだった。
VRなる新技術をいまだよく知らない私ではあるが、このアニメの中に入って蝶々さんと一緒に舟に乗りたいと思った。
どこかにありそうでどこにもない南国の島のカフェでくつろぎながらこのアニメをただぼんやり見るだけでもいい。
もし、胡さんのアニメの世界に入っていけるVRコンテンツができたら、VRゴーグル即買っちゃうよ!【み】