スウェーデンのリアリティ番組「独裁者の部屋」

独裁者の部屋」(2016年3月21日-24日/Eテレ/スウェーデン教育放送(UR)、アート89制作)。
NHK主催「日本賞 2016」青少年向けカテゴリー最優秀賞 外務大臣賞受賞作品。

日本賞のFacebookによると以下のような内容だという。

もし、権利や自由がはく奪されたら、あなたならどうする?夜間の外出が禁止され、仕事は単調で人生に何の意味もないような社会で、無理やり生活させられたら?自分とはまったく違う人たちと一緒に暮らさければならないとしたら? 番組では8人の若者が実際にこんな生活を8日間体験する。

昨今流行のリアリティー番組の中でもピカイチの設定。いや、これは間違いなく面白いでしょう。
今まで見たことのないような刺激的な番組の予感がして全8話を録画予約した。

年齢も職業も肌の色もバラバラの20歳前後の男女が目隠しでどこかの建物に連れていかれ、8日間番組側が作った“擬似独裁国家”で生活するという設定。無論やめたければいつ出ていってもかまわない。
8日間この生活に耐え最終的に勝ち残った者には、10万クローナ(約150万円)の賞金が与えられるという。
ただし、どうなると勝者になるのかは一切明らかにされていない。

この擬似独裁国家でのルールは3つ。

  1. 外出禁止令を守れ!
  2. 労働は人生だ!
  3. 互いに監視せよ!

私物と私服をすべて没収され、テーブルの上にぶちまけられた大量のクリップの中から自分の色を選り分けて瓶に入れるだけという単調な労働を強いられ、食事は毎日同じメニュー。
この生活に腹を立てて出ていってしまう者もいれば里心がついて出ていく者もいる。また、ルールを破って追放されたと思しき者もいた。

我々が大きな違和感を覚えたのが、独裁者から与えられた生活に苦しむ参加者達だった。

白いワイシャツと黒いチノパンというこざっぱりとした“制服”、ピンセットを使ってクリップを仕分けするという単調な軽作業、耳障りな警告音で区切られる行動時間、鏡台や風呂つきの個室など、参加者達は文句を言いっぱなしだったが、平均的な日本の学生や社会人の目で見ると割と恵まれた環境ではなかろうか。
さらに参加者同士の会話は一切制限されておらず、過去に犯したいじめを武勇伝的に語る者もいれば、差別的な発言やスウェーデンの特定の政党に対する批判や議論も問題なし。作業中のおしゃべりもOK。
スマートフォンを没収されて外部との連絡やネット環境を絶たれているのはツラいが、このルールに従う生活自体は2日目あたりで慣れてしまいそうだ。クリップの仕分けは単調な分没頭できそうだし。人見知りの私は初対面の7人とのコミュニケーションに苦労するかもしれないが、寝る時は個室なのがありがたい。
もちろん慣れない生活や意味のない単調な作業の連続はしんどいと思う。家に帰りたい友達に会いたい音楽が聞きたい日光を浴びたいあれが食べたいこれも食べたい…などと里心もつくだろう。
しかし、150万円の賞金を目の前にブラ下げられている上に、期限はたったの8日間なのだ。

毎日何かが起こりそうな雰囲気を醸し出しつつ、時々参加者同士による政治談議が強引に挿入される他にはたいして波風立たぬ8日間。
そして最終日に残ったのは5人。私物を返され制服から自由な服装に着替えるように言われた5人は建物から出ることを指示され、全員で電車に乗って別の場所へ移動する。そのシーンにかぶせられたナレーションがコレ。

8人の若者が独裁体制の下での8日間に挑んだ。そこでは独裁者の命令だけが社会のルールだ。残ったのは5人。これから最後の舞台へ向かう。そこでは10万クローナが待っているはずだ。彼らは独裁者を信用し自らの意志で境界線を超えた。

いや、なんですかね、これ。結末は藪の中?
彼らは独裁者を信用し自らの意志で境界線を超えた」というナレーションは、つまり全員うっかり失格したというバッドエンド? 独裁国家に洗脳される恐怖や抵抗できない市民の虚無感みたいなものを視聴者に教えようというオチ? なんというか一休さんにトンチで一本取られた庄屋さんみたいな気分だよ。
あるいはエンターテインメント番組のつもりで見ていたら実は「明るいなかま」とか「さわやか3組」みたいな道徳の授業時間に見るようなドラマだった…ということなのだろうか。
ドラマでは結末をはっきりと描かず「どうしたら問題が解決するのかクラスのみんなで話し合ってね」というアレ。

製作者によると「『独裁者の部屋』は若い視聴者、特に政治には関心がないという若者たちに、民主主義の価値について考えてもらうことを目的とした番組」なのだという。

もしも同じ設定でリアリティ番組の本場アメリカで娯楽番組として制作されたのであれば、参加者同士の軋轢や絆を描いたり過酷な労働を課して派手にわかりやすく演出するのかもしれないが、そもそもの成り立ちが違うわけで、私が期待したような刺激的な番組ではなく肩透かしな結末だったのは仕方ないのだった。

ここの独裁下生活意外とゆるいとか3つ目のルール「互いに監視せよ!」が結局稼働しなかったとかツッコミどころはあったけれど、とにかく大変ユニークな番組なので、続編、あるいは他の国バージョンも見たい。【み】

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