ヨーロッパ企画×かとうけんそうの「ことばドリル」

小学校低学年向けの国語の学校放送「ことばドリル」第2回「かなづかいのルール」(2023年4月10日/NHK Eテレ)。
電子番組表で出演者の欄に「ヨーロッパ企画」とあったので、気になって録画したもの。

といっても、恥ずかしながらヨーロッパ企画については何も知らない。
以前何かの番組でちらっと見た時面白かったので「ヨーロッパ企画=面白い人達」という記憶が残っていたため、録画してみた。
たぶん、「若者に人気の小劇場系の劇団」的な団体だと思うのだが、こうして記事を書くにあたって、何も知らないじゃあんまりだと思うので、とりあえずウィキペディアをチェック。

ヨーロッパ企画(ヨーロッパきかく)は、株式会社オポスが運営する日本の劇団及び企画集団である。主宰は上田誠。1998年結成。

ウィキペディア

ウィキペディアによると、ヨーロッパ企画は同志社大学の演劇サークルが母体で、主宰の上田誠は映画「サマータイムマシン・ブルース」(もともとはヨーロッパ企画の演目)の脚本、アニメ「四畳半神話大系」のシリーズ構成、脚本(文化庁メディア芸術祭アニメーション部門史上初のテレビアニメによる大賞受賞)、第61回岸田國士戯曲賞受賞というパリッパリの経歴を持つ演劇人。

さて、ヨーロッパ企画についてざっくり調べたところで、本題の「ことばドリル」第2回「かなづかいのルール」のお話。

今回は

  1. 雪山で震えている探検隊が狼に遭遇するスケッチ「たてふだをつくれ!」
  2. ことばアンケート
  3. お城の若君の様子を探る忍者のスケッチ「にんじゃのぬすみぎき」
  4. うたっておぼえる漢字ドリル

という、4つのコーナーで構成されている。

目次

とうくのおうかみがとうとうった

何故か半袖半ズボンのユニフォームで酷寒の雪山をさまよう探検隊。遠くに見える山にはなんと10頭ものオオカミが!
隊長は後続の探検隊のために注意喚起の立て札を立てる。
そして出来上がった立て札がこれ。

とうくの
おうきな
こうりの うえを
おうくの
おうかみが
とう(十)
とうった


「この立て札なんかおかしくないですか?」と言う隊員。「おうかみ」じゃなくて「おおかみ」、「こうり」じゃなくて「こおり」、いやいや間違ってないだろう、いや間違ってます…などと言い争いをしていると10頭のオオカミがやってきてしまう。
慌てて逃げ出す探検隊一行。するとオオカミは「まったく。全部『お』だっていうのに」とぼやきながら立て札の間違ったかなづかいを直すというオチ。

ご覧の通り、話し言葉と書き言葉の違いを学ぶ回である。
私は国語だけは得意なナマイキな小学生だったので、たぶん、このくだりを見ていたら「かなづかいもそうだけど、そんなことより『多くの』と『十(とう)』は意味がかぶっていて文章として変」と文句を言っていたと思う。さらに「ひらがなで書くから間違う人がいるわけで、漢字で書けば解決するのにバカみたい」とも言ってたねきっと。なにしろナマイキな小学生だったから!

女王様とひらがなで書いてください

次のコーナーは商店街のロケ。
洋品店の店頭で、店主らしき女性に「女王様とひらがなで書いてください」とフリップとペンを渡す。
しかし、彼女は「じょうおうさま」と書いたり、「じょうおおさま」と書いたりする。
「わかんなくなってきちゃった」と苦笑しながら書いたのが「じょおおうさま」。

またしても誤答だったので、フリップに書いた文字列を見ながら「どこが違うんだろ?」と悩む店主。しばらく考えたところで「ひえっ!」と息を吸い込み、「じょおう…ここがいらないんだ!」とひらめく。
そして書いたのが「じょおうさま」。ようやく正解のチャイムが鳴る。
最後にしみじみと「難しいわ…」とつぶやく。

このコーナーも登場人物はオトナの洋品店店主のみ。
一般人を煽ったり大げさに励ますようなインタビュアーもいない素晴らしい演出(まあ、店主は「一般人」ではなく俳優の可能性が高いけど)。
ちなみにロケ中に流れていた曲は「ゲバゲバ90分」のBGM(「Comical Salon」)。

いやじゃいやじゃの若君様

屋敷の外で聞き耳を立てているふたりの忍者。
部屋の中では、勉強も運動もしたくないと駄々をこねる若君に爺やが手を焼いている。

「いやじゃいやじゃ、体育はいやなんじゃ!」
「若! 運動をおろそかにしていると立派な武士にはなれませぬぞ」
「いやじゃいやじゃ! 体育はとにかくいやなんじゃ!」

これを聞いた親分の忍者は「なんと若君は体育がには苦手じゃと? これは殿に報告せねば! 体育が苦手と書いておけ」。
しかし、巻物に子分の忍者が書いたのは

たいくが
にがて

だった。

「たいくとはなんじゃ?」と問われた子分忍者は、「言われた通りに書いたんでございますが」。
親分は「違う違う」と言いながら筆を出し、「い」と「く」の間に朱筆で「い」を書き足す。
ふたりの忍者は言い争いになり部屋の中の爺やに声を聞きとがめられるが、ネコの鳴き真似をしてピンチを切り抜けた。

このあと「宿題はいやなんじゃ!」とわめく若君に、爺やが「若が宿題を頑張ればごほうびに城内全員で花見に行きましょう」と言うのを聞いた親分忍者、「若君が宿題をやれば次の休みには全員で花見とな? 城ががら空きじゃ」とにんまり。
「若君は運動嫌い」はたいした情報ではないと思ったが、この「花見で城ががら空き」はなかなか貴重な情報ではなかろうか!

そして子分は予想通り

しくだい
ぜいいん

と巻物に書いているのだった。

そもそもその2行だけでは「若君が宿題をやったごほうびとして休みにお城の者全員で花見に行くのでお城はがら空き」という情報は殿様に伝わらないと思うぞ。

「しくだい」ではなく「しゅくだい」、「ぜいいん」ではなく「ぜんいん」と朱筆を入れて訂正する親分。「書き直せ」と命令するが、子分は「いえ」と言ってきっぱり断る。
「いえ、とは何だ、書き直せ」と親分にきつく言われた子分、大きな声で「いやじゃいやじゃ!」。
「お前は若君か。書き直せ」「いやじゃ」と揉めているうちにうっかりふすまに倒れ込んでしまい、忍者ふたりは部屋の中へ転がり込んでしまう。

ビックリする若君と爺や、狼狽する忍者達。
親分忍者は苦し紛れに「にゃーお」とネコの鳴き真似をするという落語みたいなオチ。
若君の「いやじゃいやじゃ」を子分の忍者が模倣するとか、ピンチを切り抜けたネコの鳴き真似をオチに持ってくるとか、見事な伏線回収っぷりなのだった。
「体育」とか「宿題」という視聴対象の子ども達になじみのある現代的なワードを入れてはいるが、登場人物達の言葉遣いは本寸法の時代劇コント。

ナレーションと歌はかとうけんそう

最後は歌のコーナー。今回の歌は「うたっておぼえる『日』のうた」。
「日」に何かをくっつけると別の文字になるよ、という歌。
唄っているのはナレーター(というか進行役のヤドカリみたいなキャラの声)を担当するかとうけんそう(加藤賢崇)だ。
加藤賢崇といえば、「ドレミファ娘の血は騒ぐ」とか「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」とか「いぬちゃん」とか、刺さる層には刺さる80年代を代表するサブカル系タレントのひとり。特徴的な声音を活かし、吹替やナレーションなど声の仕事も多い。
私は「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」でのデビュー作「未知の贈り物」を見て、なんと個性的な俳優さんなんだろうと驚いた。大漁旗を降って斉木しげるを翻弄する姿が印象深い。


と、まあ、こんな感じの番組であった。
ヨーロッパ企画の面々は、コドモに媚びないしっかりしたコント演技。
無駄にワーワー騒いだりおかしな声を出したりしないのが良い。さらに言うなら出演者が全員オトナなのがとにかく素晴らしい。
タイトルが地味なのも好き。

そう、これでいいのよこれで。
「子どもは年の近い子どもが好き」という通説は嘘。
いや、嘘は言い過ぎかもしれないが、少なくともコドモ時代の私はわざとらしい芝居をさせられている子役が出てくるこども番組が大嫌いだったよ。
「シャボン玉ホリデー」のようなオトナがオトナ向けに面白いことをしている番組のほうが面白かった。意味のわからない言葉や所作もあったが、親子関係がフレンドリーなご家庭なら親に意味を問うのも良いだろうし(我が家はフレンドリーではあったがなんとなく恥ずかしくて聞いちゃいけないんじゃないかと気を回す言葉も少なからずあったよ!)、成長する過程で「ああ、あれはこういう意味だったか」と気づくのもまた楽しいものだ。

2023年度はこの「ことばドリル」と、おぎやはぎの「キキとカンリ」で久しぶりに学校放送を楽しむつもりだ。
……あっ、もしやと思ってウィキペディアを見たところ、今は「学校放送」じゃなくて「NHK for School」と言うのね。あゝ今浦島。【み】

CASTとSTAFF/関連リンク

CASTとSTAFF

出演:ヨーロッパ企画(永野宗典、諏訪雅、本多力、西村直子、角田貴志、中川晴樹)
声の出演・歌:かとうけんそう
コント脚本:上田誠、西垣匡基
アニメ・音楽:10GAUGE

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