「THE SECOND~漫才トーナメント~」(2023年5月20日 生放送/フジテレビ)。
いや、本当に面白かった! 手に汗握った! ドキドキした! ワクワクした!
この心躍る体験を未来の自分に残してやりたいので、この記事を書いている。
なんといっても優勝賞金1000万円だ!
さらに副賞は「英國屋のオーダースーツ仕立て券」ときた!
銀座の! 英國屋のスーツ! 昭和育ちの東京者にとってはかなりグッとくるチョイス。
しかも、すべての漫才をあの松本人志が同じステージの上でずっと見守っているのだ。
出場者は当然気合いが入るだろうし、見ているこちらだって力が入る。
THE SECONDとは?
「THE SECOND~漫才トーナメント~」とは、「フジテレビ開局65周年×吉本興業110周年」と銘打った特番であり、「“結成16年以上”の漫才師たちが渾身(こんしん)のネタでしのぎを削る新・漫才賞レース。実力や才能はあっても、出場できる賞レースがないため、ブレイクのきっかけが見出せない…そんな漫才師たちに“セカンドチャンス”をつかんでほしいという願いを込めて、フジテレビが立ち上げる新たな大会」(大会概要より)という心躍るお笑いコンテストだ。
「結成16年以上」という出場資格は、つまりM-1グランプリに出られなくなった漫才師が対象ということ。
しかし、対戦ルールはM-1グランプリとは大きく異なる。
- 2組ずつで対戦するタイマンバトル形式(M-1は1組ずつ個別に採点)。
- ネタ時間は6分(M-1は4分)。
なお、番組中の芸人のコメントによると、5分30秒から6分30秒の間に収めるというルール。 - 審査員は一般の人たち100人(M-1は番組側が選んだ著名人たち)。「3点=とても面白かった」、「2点=面白かった」、「1点=面白くなかった」のどれかを投票するシステム。
また、番組の放送時間が4時間10分という異例の長尺なのも嬉しい。
期待を煽りまくるオープニングVTR
お笑いの賞レースではおなじみのオープニングVTR。
モノクローム映像のインパクトを駆使したりして、芸人たちのネタ合わせの風景とか悩んでいる表情とか思わず漏らす本音などが散りばめられたカッコいいVTRが番組冒頭に流れるアレ。
「THE SECOND」のオープニングVTRも、誠にカッコいい仕上がりだった。
- 「漫才師として映っていない」(スピードワゴン)
- 「M-1で結果を残せなかった」(三四郎)
- 「負け癖がついている」(金属バット)
- 「ダントツ無名だと思うんで」(囲碁将棋)
- 「一発屋にもなれず」(超新塾)
- 「まったく箸にも棒にもかかんなかったよ」(マシンガンズ)
- 「ちゃんといい結果が出なかったっていうのは、今後たぶん漫才師を辞めるまでずっとあるから」(ギャロップ)
- 「なんかつかむまで辞められないっていうか、今までの人生を否定してしまうような感じがして」(テンダラー)
これらの決勝出場8組のネガティブなコメント映像が流れた後、その言葉が金色に輝くサンパチマイクに次々に重ねられていく。
そして、そのコメントが消え、「漫才師たちのセカンドチャンス」という文字が浮かび上がる。
次に流れてきたのは、彼らの若き日の映像。音楽はTHE YELLOW MONKEY「バラ色の日々」。
そこに文字が重なる。
「追いかけ続けた 王者の称号」
「追いかけ続けた 地位と名声」
「追いかけ続けた 華やかな生活」
「追いかけ続けた 漫才師の誇り」
「追いかけ続けた 地位と名声」
ここまででもうたいがい涙腺崩壊なわけだが、フジテレビはダメ押しのように立木文彦のナレーションをかぶせてくる。
「誰かが言った。
おもろい奴は、いつか、報われる。
だから、こんな賞レースがあってもいいじゃないか」。
そして、予選の風景が流れる。
最初は133組だった漫才師が32組に減り、さらに8組に絞られる。
敗れていった漫才師たちの姿が次々と映し出される。
勝者を拍手で称える敗者。涙をぬぐう勝者。エモーショナルな光景がこれでもかこれでもかと流れて……いや、ちょっと待ってよ、なんなのこれ、この番組は我々視聴者を笑わそうとしてるの? 泣かせようとしてるの? いやいや、泣かせてどうするの!
ああ、お笑いファンの心をぐいぐい揺さぶるオープニングVTRがもうたまらない!
そして、いよいよ、決勝進出者の紹介だ。
「生まれて初めて何かで勝ちましたわ」
(NA: 結成16年、金属バット!)
「こんなこと、あるんだなあ。辞めなくてよかった!」
(NA:結成25年、マシンガンズ!)
「コンビだって、知ってもらおうか」
(NA:結成24年、スピードワゴン!)
「人生で一番嬉しいかもしれない」
(NA:結成18年、三四郎!)
「2人でいい漫才できたら、おのずとついてくる、確固たる自信があるので」
(NA:結成19年、ギャロップ!)
「やっぱり、なんか、2人ともワクワクしてしまったから」
(NA:結成28年、テンダラー!)
「2人より3人、3人より4人、4人より5人の時のほうが、奇跡が起こりやすいっちゅうか」
(NA:結成21年、超新塾!)
「
(NA:結成19年、囲碁将棋!)
芸人たちのコメントに続いて響き渡る立木文彦の重々しいナレーション! シンジ、エヴァーに乗れー!
そして、「彼らは、今、全盛期!」と締めた。
滂沱の涙……は言い過ぎだけれど、私の目はもうすっかりうるうるである。
これから漫才を見てゲラゲラ笑おうという時に、なんちゅうもんを見せてくれたんや、なんちゅうもんを……とすっかり京極さんの心持ちである。
作り手とて、さすがにこのまま1回戦に突入してはマズいと思ったのであろう。
VTR明けに「若干泣かせにかかる?」と松本人志に言わせた。これで会場は笑いに包まれ、視聴者も1回戦への心の準備無事完了である。
出場漫才師8組
1回戦 第1試合:金属バット×マシンガンズ
この対戦はワタクシ的には“実質的な決勝戦”と言っても過言ではない組み合わせで、初っ端から贔屓のコンビのどちらかが落ちてしまうのが本当に残念だった。
いつも通りのダラダラ感とトガリっぷりで散々笑わせてくれた現役感に満ち溢れた金属バットに対し、「大舞台で漫才ができて嬉しい!」という喜び丸出しで熱量の高い漫才を展開したマシンガンズ。好対照の好勝負だ。
金属バット
つやつやと輝くロングヘアをなびかせ、ステージに登場した友保のカッコよさたるや!
昨年、M-1出場資格を失った金属バット。M-1の決勝で彼らの勇姿が見たかったがついにその夢は叶わなかった。
この20年くらいフジテレビの大型バラエティにはがっかりさせられることが多く、この大会にも実はたいして期待していなかったのだが、トップバッターでステージに立った金属バットの姿を見た瞬間にフジテレビへの不信感は消え失せた。「決勝の金属バット」が見られただけでもありがたいではないか。
ネタは「ことわざを知らない小林」。
小林が「灯台下暗し」を「東大デモクラシー」と間違うボケと、これに対する友保のツッコミ「だいぶ間違えてるよアンタ、なんやそれ、東大の民主化みたいな」というやりとりが最高に好き。
「飛んで火に入る夏の虫」ということわざの意味を「危ないと思ってもついつい飛び込んじゃう」と友保に説明してもらった小林が、「ああ、ワクチンね」としれっと言い、友保が「思想強っ! おい! アンタそっちなんかい!」とツッコミを入れた瞬間が「THE SECOND」一番のピークと言っても過言ではなかろう。
もちろん番組中に笑いのピークはいくつもあったが、問答無用でとにかくピークはココだ。誰も登らぬ山の頂上に屹立する金属バットに漫才の神の祝福あれ。
ネタの最後に小林が「知らぬが仏って、言いますからね」とボケると、友保は「ウェーイ」と言いながら小林の肩にひじを乗せ、にやにやして「これ、オチですねん」。
そして、友保、客席側に設置されている時計を指差しながら残りの秒を数えて「ウィ、ウィ、ウィ、6分、帰りましょう」と言ってさっとハケていくのだから、カッコいいにも程がある。
さらに、友保がこの大舞台でなんとスニーカーのかかとを踏んで履いていたのを発見して仰天した。このやさぐれたカッコよさにはもうひれ伏すしかない。カッコいいの権化かよ。
マシンガンズ
「レッドカーペット」でチャンスをつかんだと思ったが、「手開けてみたら何も入っていなかった」。さらに「滝沢は5年前くらいに言ってましたよ、『もう心の中では芸人は辞めている』」「(自信は)ないよ」。
なんとも悲壮感漂うインタビュー。
今や滝沢は「ゴミ収集のプロ」として脚光を浴び、コンビ揃ってテレビで見るのは久しぶりだ。
「漫才師のセカンドチャンス」というこの大会の趣旨に一番マッチしている決勝進出コンビであろう。
気合充分でステージに飛び出す2人。開口一番、西堀が「テレビに出て嬉しいですよ」と言うから、見ている私だって嬉しくなる。
そして、「金属バットもオレらも第1試合に出る芸風じゃないんだよ」と滝沢。
西堀は客席を見回して「まあ、みんなももっと穏やかな大会にしたかったよね」。
滝沢は「本格派があってのオレらと金属バットだよな」。
さらに西堀は「チンピラ2人出た後、声のデカいおじさん2人って、これ、構成が『警視庁24時』だよ、ホントにね」。
早口で畳み掛けるマシンガンズ。いやもうのっけから楽しい楽しい。
絶好調だ!
2人で愚痴って2人で同じセリフでツッコミをいれるマシンガンズ独特のスタイルで、おなじみのネタをまさにマシンガンの如く連射。ザ・ベスト・オブ・マシンガンズの趣。
採点
採点 | 金属バット | マシンガンズ |
---|---|---|
1点 面白くなかった | 2人 | 1人 |
2点 面白かった | 27人 | 27人 |
3点 とても面白かった | 71人 | 72人 |
合計 | 269点 | 271点 |
金属バットとマシンガンズの対戦は、わずか3点差でマシンガンズの勝利。
もし私に投票権があったら、双方に3点入れていた。どちらも本当に面白かった。ここで金属バットが落ちたのは本当に惜しい。
採点を待つ間も結果が出た後も、金属バット友保が隣り合わせたマシンガンズ滝沢にしきりと話しかけあれこれ気遣っていたのが印象的だった。
1回戦 第2試合:スピードワゴン×三四郎
非吉本かつ東京で活動する漫才師、いわゆる他事務所の対決。
そして、M-1グランプリの決勝に2度進んだスピードワゴンといつも惜しいところまで行くのにとうとう決勝進出できなかった三四郎というカードだ。
スピードワゴン
「漫才でも何かの称号が欲しいなってずーっと思ってるから」とネタ前のVTRで井戸田が言っていた。
「コンビとしての活動が、あんまり漫才師として映ってない」とも。
井戸田は「ハンバーグ師匠」名義のピン芸人として、小沢は不思議なキャラクターの「世界のオザワ」としてトーク番組で人気を得ている、いわゆる“じゃない方”がいない理想的なコンビである。
だけど、漫才コンビとして優勝したいのだ。頂点に立ちたいのだ。
ネタ前のVTRで、二丁拳銃を下して決勝進出を決めた時の映像が流れる。
ノックアウトステージ(予選)MCのマヂカルラブリー村上からコンビ名を告げられた瞬間はぱっと明るい表情になった小沢だったが、すぐに顔を歪めて嫌そうな仕草を見せた。そうそう、M-1の敗者復活戦から勝ち上がった時もこの顔をしてたよな。
一方、井戸田は、嬉しそうな顔をしてあの朗らかな声で「シビれるぜ」と言いながら舞台から引き上げてきた。後ろから歩いてきた小沢は「負けると思ってた」とあくまでもネガティブ。わかりやすい明と暗のコンビ。
ネタは「四季折々の恋してる?」「お前今日もゲボだな」という、スピードワゴンらしい立ち上がり。いつかどこかで見た気がするネタ。
金属バット×マシンガンズ戦でも思っていたことだが、「THE SECOND」は新ネタじゃなくても、あるいは新しい試みを取り入れなくてもOKなのだと改めて確認した。
これまでのキャリアの集大成でいい、というか、集大成を見せるステージなのかもしれない。
いきいきとした表情でのびのびと朗らかに漫才をしているベテラン2人の姿にぐっとくる。
小沢も今日は明るい表情なので安心して見ていられる。
大きな声でわーわー言っている井戸田をほったらかしにして、ステージを行ったり来たりしながら何役も演じ分ける小沢(もちろん頻繁に井戸田から「集合」の号令がかかる)。
ひとり芝居の
正直なことを言えば、私は割と熱を入れて三四郎を応援している者なので、スピードワゴンの仕上がりの良さにヒヤヒヤしている。これはヤバい。これはマズい。
三四郎
ネタ前VTRのノックアウトステージ(予選)で出番を待つシーンでは、いかにも何事にも動じないように見える相田が「えずきと嗚咽が止まらない」と言っていた。座ってスマホを見ている小宮は震えながらえずいている。
そして、ノックアウトステージでは強敵の流れ星☆と戦い、ノックアウトステージ最高の290点を叩き出す。
「魂でいったなマジで」と小宮。
「自信はめちゃくちゃあります」。ネタ前VTRの中の小宮はこう言い切った。
「負ける気はしないです」と小宮。「ぶちかまします」と相田。
この10年、テレビ・ラジオで大活躍を続ける三四郎である。芸歴こそ大きな差があるが、人気や知名度ならスピードワゴンに負けていないだろう。
小宮「どうもー、三四郎です」
相田「2人とも片親です」
小宮「とても悲しきツカミ!」
という、毎度おなじみのスタート。
ネタは「占い師」。
占い師をやってみたいという相田、小宮は占い師を訪ねるお客さんになってその相手をする。
相田「(上手から走ってきて軽い調子で)お待たせしました〜、占い師です〜」
小宮「デリバリー?
相田「わたくし新宿の、カウボーイです」
小宮「新宿カウボーイじゃねえかよ! 浅草のハゲ狂った漫才師だよ! おかしいだろ、お前」
相田「すいません、すいません、間違えました。風雲児と呼ばれてるんです」
小宮「あ、占い界の風雲児ですか」
相田「ものまね界の風雲児です」
小宮「Hey!たくちゃんだよ、お前! 『エンタの神様』の時の
テンポの良いやりとり。お笑いファンがニヤリとするネタ展開。
小宮独特のツッコミワードチョイスも冴え、滑り出し快調。
ツッコミのセリフのユニークなワードセンスが小宮の生命線。
しかし、彼には声が通りにくいという弱点がある。
笑いを大きくふくらませることができるせっかくの面白いツッコミが、観客に伝わなければ意味がない。
そこで小宮はどうしたか。
サンパチマイクをつかんで口を近づけツッコミのセリフを怒鳴ったのだ。
これなら伝わる。しかもその必死な様子が面白いからもうひとつ笑いが起きるというナイスアイデア。
スピードワゴンのネタを見てこれは無理かと諦めかけた三四郎派の私だが、勝機がチラリと見えた。
この調子ならもしかしたらイケるかもしれない。一般審査員の中に小宮が嫌いな人が少ないことを祈るばかり。
採点
採点 | スピードワゴン | 三四郎 |
---|---|---|
1点 面白くなかった | 1人 | 4人 |
2点 面白かった | 41人 | 14人 |
3点 とても面白かった | 58人 | 82人 |
合計 | 257点 | 278点 |
何と31点の大差で三四郎の勝利。
めでたい。うれしい。
だが、やっぱり小宮嫌いの人が4人いた模様。
もし私に投票権があったら、スピードワゴンに2点、三四郎に3点入れていた。どちらも素晴らしい出来だったがこれは好みの問題。
感想を求められたスピードワゴンの小沢は、「本音を言うと3本やりたかった」と言い、続けて「あと、来週の金曜日と再来週の金曜日、漫才ライブやってるんで見にきてください」と頭を下げた。
決勝戦でライブの予告!
こういうコメントをぶち込むための4時間10分の放送時間であろう。
三四郎の次の対戦が楽しみだが、この後、優勝まで勝ち上がるためには2試合残っているので、魂込めて怒鳴りまくった小宮の喉が心配ではある。
1回戦 第3試合:ギャロップ×テンダラー
スピードワゴン×三四郎の他事務所対決の後は、吉本興業所属の大阪のコンビが対決する“関西ダービー”。
「THE SECOND」は「吉本興業110周年」と銘打った大会なので、やはり吉本の大阪芸人が優勝してナンボだろうと想像はつくし、正統派のしゃべくり漫才コンビが初代チャンピオンになるのはまあ納得できる(他事務所ファン的には、大番狂わせが楽しみだけど!)。
ギャロップ
舞台
というか、“生えすぎ”ていないのが林で、“生えすぎ”ているのが毛利。
関西薄毛芸人界の雄。カンテレのあのアナウンサーとは別人です。
「そろそろカツラかぶったらええんちゃう?」「今さら?」という、最強の武器である林の薄毛をがっつりメインに据えたネタ。
ネタも話術も抜群の安定感。加えていまだM-1現役感もあって、もしこれがM-1グランプリ決勝だとしても好成績を残すだろうと思わせるギャロップ。
さらに小柄な林の可愛らしさもあって、向かうところ敵なしという感じ。
林の一挙手一投足がすべて客席の笑いを誘う。強い。強すぎるぞ。
テンダラー
決勝戦で一番芸歴が長いコンビ。
そして、白川は決勝戦に参加した芸人の中で最年長の51歳。
この大会の開催が発表された時、「もしも中田カウス・ボタンとかオール阪神巨人とか参戦してきたらどうするの? ていうか、ダウンタウンとかとんねるずとか爆笑問題とか出てきたらホントどうするの!?」などと不安と期待にドキドキしたものだが、何というかそのドキドキのギリギリのラインが、結成28年のこのコンビという感じがする。
ネタ前VTRによれば、「新ネタライブはやってきたが、出す場がなかった」という。
ネタを披露する吉本の劇場はいくらでもあるはずだが、彼らにとってはそれは新ネタを「出す場」ではなかったということか。
土曜の夜のゴールデンタイムに全国ネットの生放送でオンエアされ、アンバサダーという肩書きの松本人志がその場で寸評を述べてくれるというこの「THE SECOND」こそ、テンダラーにとって最高の「出す場」に違いない。
ネタは、白川が「スカウトされてみたい」と言うところから始まるストーリー。
とにかく達者な浜本の緩急取り混ぜたボケが決まりまくって客席は良く笑う。
さあ、“関西ダービー”の行方はどうなる?
良くも悪くもずっしりとした重みがにじむギャロップか? 飄々とした軽さの最年長テンダラーか?
いずれも甲乙つけがたい安定感。これぞザ・よしもと漫才。
採点
採点 | ギャロップ | テンダラー |
---|---|---|
1点 面白くなかった | 0人 | 1人 |
2点 面白かった | 23人 | 26人 |
3点 とても面白かった | 77人 | 73人 |
合計 | 277点 | 272点 |
5点の僅差で勝者はギャロップ。
この時点でギャロップ毛利は涙ぐんでおり、相方の林に「あ、ダメだダメだ! まだあるのに!」とツッコまれていた。
「いやあ、もう、ね、こうなったら優勝目指して頑張っていただきたいですね」というテンダラー浜本の後輩への温かい一言。
そして、「この後、小沢と呑みに行きたいと思います」も見事なコメント。最後の最後まで良い仕事をする浜本!
舞台の上にはギャロップとテンダラーと東野幸治。
「そこは大阪や!」という永野の声が脳裏を去来する。
1回戦 第4試合:超新塾×囲碁将棋
異色の革ジャン5人組漫才の超新塾とクールなしゃべくり漫才の囲碁将棋の対戦。
これはもう、好対照だか何だかわからない。そもそもジャンルが違う感がある。
しかし、なんといってもこの「THE SECOND」は「吉本興業110周年」特番の決勝戦なのだから、吉本興業所属の正統派漫才師である囲碁将棋が圧倒的に有利だろう。
とはいえ、これは「フジテレビ開局65周年」特番でもある。
フジテレビの元ゼネラルプロデューサーを代表取締役会長に擁するワタナベエンターテインメントに所属する超新塾にだって勝機はあるはずだ。
囲碁将棋には申し訳ないが、超新塾が勝ち抜ける奇跡の瞬間を見たい。
そして、もしもこの大会で超新塾が優勝したら、シアトル出身のアイクぬわらは日本の大きなお笑い賞レースで優勝した最初のアメリカ人になるはずだ。
超新塾
ネタ前VTRで紹介された、ノックアウトステージ(予選)での超新塾の対戦相手がスゴい。
なんとジャルジャルとCOWCOWを破って決勝に進出していたのである。
これぞ「THE SECOND」。地場が歪んでいる。
- 「ちゃんと負けたな」(ジャルジャル福徳)
- 「スベるわけないでしょ超新塾さん」(ジャルジャル後藤)
- 「完全な負けで」(COWCOWよし)
- 「すごいですね、5人のパワー」(COWCOW多田)
皆、呆れたような声でコメントしているのが良い。
あれ? もしかして「THE SECOND」は、予選のすべての敗者コメントを収録している……?
だとしたら、「M-1グランプリ アナザーストーリー」みたいなドキュメンタリーが見たい。
3時間ぐらいの尺で舞台の表と裏、勝負が決まった後の勝者と敗者の様子、舞台を引っ込んでからのコメントなどたっぷり見せてほしい。
さて、おなじみステッペンウルフの「Born to Be Wild」のイントロを口ずさみながら、人力アメリカンバイクを駆って超新塾の登場だ。さあ、ワイルドで行こうぜ!
ネタは「じゃあオレが◯◯」「何ッ!?」でテンポよく繋いでいく、いつもの超新塾スタイル。
ぬわらの英語を生かしたネタも良い調子。
皆、とても楽しそうに明るく元気にステージを盛り上げている。楽しい。
そして、いつものように最後は「以上! 超新塾の! ロックンロール! 漫才! おしまい! サンキュー!」でポーズをキメて終了。
ネタ前VTRで福田が「一発屋になれてたら良かったんですけど、一発屋にもなれず、何かつかまないと辞められない、今までの人生を全部否定してしまうような感じがして」と言っていたが、今まで続けていてくれてありがとう。決勝戦の舞台で跳ね回る超新塾の姿を見ることができて私は幸せだよ。
これで負けても悔いはない(いや、超新塾はベラボウに悔しいだろうけど!)。
囲碁将棋
M-1チャンピオンのマヂカルラブリーを筆頭に、GAG、ジェラードン、すゑひろがりずなど、今や一大勢力になった感もある「大宮よしもと」を背負って決勝の舞台に立つ囲碁将棋。
現在プチブレイク中の根建の存在も、一般審査員に大きくアピールするのではなかろうか。
「自信はもうめちゃくちゃあります」と根建。
「(優勝する)準備はできてますよ」と文田。
クールに自信満々である。
サンパチマイクへの道を歩きながら、素晴らしく通る声で文田が「どーもーーーー!」と叫ぶ。
根建は嬉しくてたまらないという顔をしている。
ネタは「ものまね」。
「20年近くコンビをやっているが、2人ともものまねを1個も持っていないことに気づいた」という導入部から始まるストーリー。
いや、ストーリーというより、いわゆるフォーマット漫才である。
「これまでものまねを一度もしたことがないにも関わらず、無謀にもものまね上級者用の前フリでものまねを披露しようとする相方を『ナマイキだわ!』とか「ブチ殺すぞ!」とか「うるせえ!」などとツッコんでものまねを制止する」というフォーマットがあり、この中でいかにもな文言を散りばめ、ワードセンスを見せつける。
- 文田「街で買い物する様子がとても毎日がスペシャルとは思えない竹内まりあ」
- 文田「徳永英明が思春期に少年から大人に変わる瞬間をとらえた貴重なVTR」
- 文田「ドとソの音が出ないマツコ・デラックスクラリネット」「本日はオーケストラバージョンで」
- 根建「7人の話を同時に聞き同時に涙する聖徳光和夫太子」
- 文田「24時間マラソンを走るピッコロ大魔王をスタジオから応援する孫悟空、孫悟飯、孫正義」
- 根建「トリプルアクセル中にベジータとのボディチェンジを試みるも悟空に間にカエルを投げられカエルと入れ替わってしまったギニュウ結弦」
- 文田「ロボット松平健がマツケンサンバのリズムにのせて地元愛知県豊橋市のあるあるを1.5倍速で」
- 根建「ひとりワハハ本舗」
- 文田「歴史の飛鳥時代のところでやたらテンションが上がる飛鳥涼と」根建「体育の授業でドッジボールの時にスタートから積極的に外野に出るチャゲ」
まず、ものまね番組でおなじみのやたらと捻ったネタタイトルという着眼点が素晴らしいし、前フリの言い方よしそれを否定するツッコミの怒鳴り方またよし、とにかく巧いとしか言いようのない漫才。
ものまねファンにはちょっとたまらないネタである。
採点
採点 | 超新塾 | 囲碁将棋 |
---|---|---|
1点 面白くなかった | 1人 | 1人 |
2点 面白かった | 43人 | 18人 |
3点 とても面白かった | 56人 | 78人 |
合計 | 255点 | 276点 |
魂×ハイセンス。この異種格闘技戦を制したのは囲碁将棋だった。
もし私に投票権があったら双方に3点入れていた。いや、これは選べない。どちらも本当に良かった。
採点中にコメントを求められた時に、ぬわらと福田の通訳ボケをぐいぐいぶち込んできた超新塾はさすがのベテランの味。
準決勝 第1試合:マシンガンズ×三四郎
どういうルールでこの組み合わせになってしまったのかは謎だが(ルール説明をきちんと見てなくて申し訳ない)、私にとってこれはまったく厳しい対戦カード。
ああ、どっちも落としてほしくない。2組とも決勝まで進んでほしい。
だが、吉本有利と思われるこの大会の準決勝でこの2組がぶつかるということは、私が応援している他事務所コンビが必ず1組は決勝に勝ち上がるということ。
よくよく考えてみれば、これは喜ばしいことではなかろうか!
マシンガンズ
「三四郎とやりたくないよ。あんま言いたくないけど、今テレビに出てる人間と戦いたくないんだよ」と西堀が嘆く。
なぜかというと「セカンドってもっとヨボヨボの芸人が戦う大会だろ?」「オレはもっと売れてなくて、ハッハッて呼吸の浅い芸人と戦いたかったんだ」。
いや、まったくごもっとも。
てっきりベテラン芸人勢ぞろいの大会になるのだろうと私も思っていたよ。平均年齢60歳ぐらいでさ。
ところが、いざ蓋を開けてみたらM-1現役感バリバリの漫才師がぞろぞろ並んでいる。
毎年、何十組もの実力派漫才師たちがM-1出場権を失っているわけで、このままいったら「THE SECOND」は大混雑だ。
この感じだと、結成15年までのM-1グランプリと16年以上の「THE SECOND」に加え、結成30年以上の「THE THIRD」が開催されるかもしれない。
ちなみに「THE SECOND」に出場した全漫才師19人の平均年齢を計算してみたら44.47368421歳だった。
平均年齢約45歳。予想以上に若い。超新塾のアイクぬわら36歳が効いている。
生放送ならではの「エゴサーチ」ネタ、そしておなじみの「酷い仕事」ネタで勝負をかけるマシンガンズ。
「エゴサしたら1回戦で戦った金属バットのファンから罵られていた」という話で大きな笑いをとる。
さらに、なんと「Yahoo!知恵袋」の検索結果をプリントアウトして持ってきた!
紙モノを持った漫才というと「爆笑!オンエアバトル」で良く見かけた記憶があるが、大型の賞レースの決勝戦では異例であろう(初期のM-1で誰かやってたっけ?)。
1回戦と同じくザ・ベスト・オブ・マシンガンズな漫才。2人の一言一言に客席はおおいに湧く。
1回戦が「マシンガンズベスト」なら、準決勝は「マシンガンズベスト2」だ。
コンビでテレビに出られた嬉しさ全開で本音キワキワのセリフでたたみかけるベテラン2人がベスト盤を引っさげて戦っているのだから、面白くないわけがない。
三四郎
相田「ちょっと小宮、くら寿司の醤油さし、金輪際ペロペロしないでよ」
小宮「言うとしたらお前だろ、ビジュアル!」
三四郎、準決勝は時事ネタをつかみに持ってきた。
相田は醤油さしから直接口に注ぐ迷惑客のアクションを真似て、まずひと笑いを起こす。
「松ちゃんも怒ってるよ、くら寿司だから」。
この小宮のセリフを聞いた松本人志は、片手で口を覆って困ったような顔をしつつも笑っている。
ネタは「師匠と弟子」。
小宮は師匠になってみたいので、相田に弟子入り志願をしてくれと頼む。
相田「なるほど、じゃ緊急でコント入りましょう」
小宮「ユーチューバーか、おい。緊急でじゃねえよ」
相田「(頭を下げ、後ずさりしながら)ファファファファファ〜ン♪」
小宮「いにしえだな、入り方」
決してギチギチではなく適度なスペースにエッジの効いた笑いを詰めていく。見やすく聞きやすい三四郎スタイル。
弟子入り志願をする人に扮した相田の「ボク、三四郎、相田さんからファンになったんですよ」というセリフに対し、「そんなヤツいねえんだよ! そんなヤツ日本列島ひとりもいねえんだよ! 三四郎は軒並み小宮から入るんだよ!」と小宮。
師匠小宮「相田のどこがいいんだよ!」
弟子志願の相田「相田さん、イカれてて面白いじゃないですか」
師匠小宮「ファッションサイコだよ! ファッションサイコのラジオ弁慶だよ! ラジオの時だけスラスラスラスラ喋って、テレビだとステルス!」
小宮の独特のワードセンス炸裂。
そして、1回戦で披露した「サンパチマイクをつかんで口を近づけツッコむ」という技をさらに発展させ、客席に背中を向け、相田に正対して延々と怒鳴りつけたのだった。
師匠と弟子志願者の会話というコントにかこつけて、「THE SECOND」と対戦相手のマシンガンズをイジるくだりも面白かった。
相田「審査員は?」
小宮「審査員は一般のお客さん」
相田「イッパンのオキャクサン!? ゲスト審査員ではなく?」
小宮「ゲスト審査員ではなく一般のお客さん」
相田「ネタ尺は3分くらいですか?」
小宮「まさかの6分」
相田「ロップン!?」
小宮「6分です、この時代に」
相田「TikTok、ショートネタが全盛期のこの時代に?」
小宮「はいはい。6分。まさかの」
相田「じゃあ、放送尺は3時間くらいですか?」
小宮「まさかの4時間」
相田「4時間!?」
小宮「4時間。4時間越えですね、生放送で」
相田「生放送!」
小宮「生放送です。だいじょぶです」
相田「じゃ、優勝しそうなのは?」
小宮「優勝しそうなのは、囲碁将棋さんとか、マシンガンズ」
相田「マシンガンズ!」
小宮「マシンガンズが。そういう世界線なんだよお前。時空が歪んだんだよお前」
相田「ゴミと発明の?」
小宮「ゴミと発明だけど!」
相田「面倒くせえ、面倒くせえ、マックス面倒くせえの?」
小宮「そうだよ」
マシンガンズが準決勝に残るというのは、当日にならないとわからない情報である。
ひょっとして「金属バット」や「超新塾」のバージョンもあったのかしらん。もしあるのならそっちのセリフも知りたい!
採点
採点 | マシンガンズ | 三四郎 |
---|---|---|
1点 面白くなかった | 1人 | 3人 |
2点 面白かった | 14人 | 31人 |
3点 とても面白かった | 85人 | 59人 |
合計 | 284点 | 256点 |
「THE SECOND」の開催趣旨に一番しっくりくるマシンガンズが三四郎を制して決勝進出を決めた。
284点はここまでで最高得点。
なお、1回戦では4人いた小宮嫌いの審査員が、準決勝では3人に減っていたのがめでたい。「小宮よりもマシンガンズが嫌い」という審査員だったかもしれないけど。
この後の準決勝第2試合は「ギャロップ×囲碁将棋」の吉本決戦なので、マシンガンズは他事務所芸人と他事務所ファンの期待を背負って決勝に臨むことになる。
三四郎の分もがんばってくれマシンガンズ!
準決勝 第2試合:囲碁将棋×ギャロップ
第2試合は東京吉本×大阪吉本の吉本決戦。
通称“事実上の決勝戦”。シャレ混じりとはいえそんなことを言うのだったら吉本芸人だけで大会を開けばいい。
私は三四郎にも超新塾にも勝機はあると思って見ていた。
数多ある劇場で鍛え続けた確実性と安定感の吉本の漫才師たちに対し、テレビで見ている限り贔屓目もあるのだろうが、他事務所の漫才師たちの華と勢いと笑いの数は全然負けていなかったよ。
囲碁将棋
1回戦同様、今回もサンパチマイクに向かって歩きながら、「どーもーーーー!」と挨拶していた文田。
そのよく通る声も練り込まれたネタも安定の一語。一切の無駄なゆらぎなし。
ネタは「副業」。
「副業として飲食店をやりたいと思ってる」と言い出した文田。
準備万端なんだか行き当たりばったりなんだかよくわからぬ雲をつかむような話を次々と繰り出す。
1回戦の「ものまね」に続いて、今回もそのジャンルの上級者でなければありえない凝った言い回しの前フリ付きの飲食店の店主にチャレンジしようとして、ツッコミの根建を翻弄し苛立たせる。
そして、根建は「ナマイキ」というワードで文田の無謀な試みを全否定するフォーマット。
飲食店をナメきっている人物を演じる文田の妄言ボケの数々をご覧あれ。
ラーメン屋さん編
- 俺、その日の温度や湿度によってスープの味若干変えるラーメン屋やるわ
- 来てもらって悪いんだけどスープの味納得いかないから今日店開けないわ
パン屋さん編
- 幼稚園児の子どもとかがね、女の子とかが、将来何になりたいのって聞くと普通にパン屋さんって言うんですよ、幼稚園児でもやれると思われてる仕事を、それを大人がやるんで
- 俺、1種類のフランスパンしか作ってないけど行列ができるパン屋やるから
- 来てもらって悪いんだけど、ウチのパンには何も塗らずに食べてくれ
お寿司屋さん編
- (寿司を握るアクションをしながら)ワンタッチ、ワンタッチ系いきます
- 僕、料理はできないんですけど手先起用なんですよ、何も見ずにツル折れます
- 俺、銀座の一等地で看板出してない寿司屋やるわ
- あれ? ミシュランの方ですか? 星いらないんで帰ってください
- 寿司屋燃えてんのに現金とか無視してまな板と包丁だけ出てくる、俺の財産はこれだ、って
文田のボケも面白いが、それを全否定する根建のツッコミのワードチョイスがまた面白い。
妄言ボケも全否定ツッコミも「あるある」的なセリフのやりとりなのだが、いかにもバラエティ番組やお笑い番組を見ている者に刺さりそうなフレーズを並べるのが本当に巧い。
さらに、文田がたっぷりボケた後、根建がボケに回って新たに笑いを獲得する効率のよさも大きな魅力。
ギャロップ
1回戦のギャロップは林の愛嬌ある重厚感と毛利の若々しさがしっかり噛み合って絶好調。
他の出場者たちが緊張したり高揚したりと普段と異なるテンションで漫才をしている中、まるで毎日この舞台でネタをやっているような余裕綽々っぷり、ちょっと小面憎いほどである。
ネタは「電車のストレス」。
電車に乗った時に座席に座れない、日差しがまぶしい、冬場の座席の足元から吹き出す熱風、座席に座っている時に立っているおじいさんと目が合ってしまう、電車で居眠りして目が覚めた時の駅名がわからない等々、電車にまつわるストレスを延々と語る林。
あまりにも電車にまつわるストレスを抱え過ぎている林に呆れた毛利は、「もう電車乗るな、タクシー乗れ」と林にタクシーを勧めるのだが、林は「タクシー乗り場なのにタクシー1台もいない」。
タクシーはタクシーでまたストレスがあるのだった。
……という、端正なネタ。これぞしゃべくり漫才、これぞ正統派。
だが、若干落ち着きすぎという印象。勝負ネタを決勝用に温存しているのではなかろうか?
採点
採点 | 囲碁将棋 | ギャロップ |
---|---|---|
1点 面白くなかった | 0人 | 2人 |
2点 面白かった | 16人 | 12人 |
3点 とても面白かった | 84人 | 86人 |
合計 | 284点 | 284点 |
甲乙つけがたい仕上がりだった“事実上の決勝戦”、囲碁将棋×ギャロップの東西吉本対決の結果は何と同点!
「同点の場合は3点の人数が多い方が勝者」という大会ルールにのっとり、3名差でギャロップが決勝に進出した。
もし私に投票権があったら双方に2点入れていた。
囲碁将棋は1回戦で見たフォーマットの斬新さが少し薄れ、ギャロップは1回戦のはればれとした勢いを若干欠いていたように感じたのでそれぞれマイナス1点。
たぶん、いずれのコンビも決勝のためにより強いネタを温存しているので、こういう印象に。
とはいえ、どちらも文句なしに巧かった!
決勝戦:マシンガンズ×ギャロップ
8組の漫才師が生放送で熱戦を繰り広げる「THE SECOND」、いよいよ決勝戦。
決勝戦を戦うのは、太田プロのマシンガンズと吉本興業のギャロップ。渋いにも程がある。
この渋さ、地味さこそが、いろいろな意味で“ガチ”の「THE SECOND」なのだろう。
マシントラブルもなく、ここまで無事たどりついた。
椅子に座りっぱなしの観客の皆さんはお尻も腰も悲鳴をあげているだろうが、あと一息だからがんばって!
マシンガンズ
「決勝はもうネタがない」と自虐的に言うマシンガンズ。
本音か? 三味線か? アドリブか? 台本通りなのか?
しかし、結成25年の漫才師が、たかだか2本でネタ切れなどということがあるのだろうか?
というわけで、マシンガンズが決勝で選択したのは「もうネタがない」という漫才なのだった。
今見たものやさっき聞いたことをアドリブのように取り込んでマシンガンズのスタイルに落とし込む。
ベテランの味が冴える虚実皮膜のアップテンポな6分間。
滝沢「事実上の決勝戦、終わりましたからね」
西堀「皆さんね、余興だと思って楽しんでくださいね」
というくだりに、特にグッときた。
客席も大喜びだ。
他事務所派としては誠に残念なことだが、たぶんマシンガンズはギャロップに勝てない。
まだギャロップのネタを見ていないが、おそらく勝てないだろう。
だが、この大会に深々と爪痕を残したと思う。
昨今の滝沢の「ゴミ収集」ブレイクに加え、「THE SECOND」初代準優勝コンビとして今年おおいに売れてほしい。
ギャロップ
ネタ切れしても開き直って元気いっぱいに最高の漫才を見せてくれたマシンガンズの優勝を早々にあきらめた私は、もうすぐ優勝するであろうギャロップの漫才を粛々と見るのであった。
さて、ギャロップのネタは「フレンチ料理」。
「男たるもの女性を高級フレンチに連れていってあげたい」という毛利の話から始まったのだが、林の話はとんでもない早口で目まぐるしく展開し、毛利はまともに口をはさめない。
日本人の庶民はフレンチになじみがなく、我々庶民がフレンチを口にするのは他人の結婚式の時だけ。自動的に出てきたそれなりのフルコースを食べたおっちゃんやおばちゃんが述べる感想は「パンが一番おいしかった」。
お肉を焼いてフォアグラをのせてとシェフがあれこれ工夫しても、結局はパン。こんな悲しい料理があるだろうか?
「シェフが聞いてたら膝から崩れ落ちるよ」と林は訴える。
いつの間にか話は変わって、フレンチの勉強をするため本場フランスに渡った男の話になっている。
その男はフランスで大変な苦労をしてフレンチの修行をした末、日本に帰ってフランス料理店を開くが、ある日偶然店を訪れたホテルの総支配人に腕を見込まれ、料理長としてスカウトされる。
フランスの師匠に電話をかけ、「自分の店はたたむが、結婚披露宴やパーティも行う格式の高いホテルで総料理長として勤めることになった」と報告する。師匠に「そんなめでたい日に料理をお出しできることを喜びに思ってしっかりやっていってください」と言われ、男は大感激。
肉を焼いてフォアグラ焼いて客に出して「パンが一番おいしい」……
2人同時に「パン!?」と叫んだのは、漫才が始まってから約5分30秒たった時。
「パン!?」という大げさな叫び声と同時に、客席の笑いも大きく爆ぜた。
与えられた6分の尺をギリギリまで使って語り倒したフランス料理修行譚をフリにして、巨大な笑いを一気に取りにいった大胆な構成。
視聴者も審査員も集中して漫才を見てくれる決勝戦の大舞台ならではのネタであろう。
見事な戦略。これでもうギャロップの優勝は盤石である。
そういえば言い忘れたけど、今回のツカミは、林が客席に頭を下げながら「お先、ハゲさせていただいてます」というものであった。
なんとまあ丁寧にバカバカしい挨拶! 素晴らしい。
採点
採点 | マシンガンズ | ギャロップ |
---|---|---|
1点 面白くなかった | 5人 | 1人 |
2点 面白かった | 44人 | 22人 |
3点 とても面白かった | 51人 | 77人 |
合計 | 246点 | 276点 |
30点の大差をつけ、優勝はギャロップ!
マシンガンズが奇跡を起こすところを見たかったが、結果は順当、何も文句はない。
ギャロップの2人、英國屋のオーダースーツがさぞ似合うだろう。
松本人志は「第2回、第3回って、ぜひ続いていってほしいなあ、って」と言った。
この言葉には大変な価値がある。
だって、フジテレビの港浩一代表取締役社長が同じステージに立っていたのだから。フジテレビさん、吉本さん、来年もよろしく頼みますよ!
あとがき
「THE SECOND」がとても面白かったので、良かったところや気になったところをピックアップして記事にしよう……などと軽い気持ちで書き始めたら、まあ、とんでもなく長い記事になってしまった。4時間越えの生放送をナメてはいけないね。
得点発表時の芸人たちのやりとりや松本人志のコメントにも触れたかったのだが、紙幅が尽きた(というのは大嘘で、尽きたのはワタシの根気)。
「くすぶっているみんな、夢めちゃくちゃあるよー!」
ギャロップ林が番組の最後に叫んだこの言葉こそが「THE SECOND」のすべてである。
もし、次回があるのなら、今年の敗者たちも正統派も一発屋も一発屋にすらなれなかった者たちも、みんなチャレンジしてくれたら楽しい。
M-1グランプリの2代目チャンプは松竹芸能のますだおかだであった。
今回は吉本興業所属のギャロップが優勝したが、次回は「くすぶってるみんな」にも「吉本じゃないみんな」にも優勝のチャンスがあると思うのだ。
「THE SECOND」を、ぜひ毎年恒例の大会にしてほしい。
ところで、松本が金属バットとマシンガンズの名前を呼び間違えるとか、三四郎が6分のネタ時間を5分で切り上げたせいで時間が余ったと東野にネチネチ責められるとか、あれこれ生放送らしいトピックスはあったが、一番印象に残ったのは番組中に流れたCM。
電車の車内広告でおなじみ「ハナノア」のCM。
「THE SECOND」のMC東野幸治の盟友であり、M-1グランプリのMCを長年務めるWコージのもうひとりである今田耕司の鼻の穴からジャーっと液体が流れる衝撃映像。さすが小林製薬。いや、この熱戦中に流すかこのCMを!【み】