テレビをこじらせた東京福袋が書いたノンキなテレビコラム集。

ハイビジョン特集「オペラ座の弁慶 團十郎・海老蔵パリに傾く」

オペラ座

2007年3月、パリ・オペラ座で史上初の歌舞伎公演が開催された。歌舞伎俳優・市川團十郎と海老蔵親子が家の芸「勧進帳」で世界の檜舞台に挑むドキュメンタリー番組。
(NHK番組表より)

團十郎の大きな目で睨んでもらうと邪気を払うとか風邪を引かないとか言われていたことを思い出し、肌寒くなってきたこともあり風邪の予防を祈願しつつ10月21日にNHK-hiにて放送したものを録画して鑑賞。

さて、團十郎といえば滑舌の悪い台詞回し。
フガフガというかアワアワというかアレがどうにもいけない。
たとえば「助六」の台詞で「大門をずっとくぐる時、俺が名を手の平へ三遍書いて舐めろ。一生女郎に振られるということがねえ」を、團十郎が演ると「大門をザっとカガラタケ、アレが名をタノヘラへ三遍書エテ舐マロ。エッシャウ女郎にハラレルタエウカタガナエ」といった感じ。
歌舞伎の台詞回しなんて誰でもそんな感じじゃねーの?と思う方もいるかもしれぬが、團十郎の叔父さんの故二代目尾上松緑や74歳にして長女を授かって話題になった中村富十郎といった聞き取りやすく気持ちのよい台詞回しを聞かせてくれる役者は幾人もいるのである。

しかし、滑舌は悪いが姿かたちは見事な團十郎。
さすがは市川宗家。あのルックスだけでも見る価値がある。少々のフガフガは許さざるを得ない。
重い病気を乗り越え、還暦を過ぎた今なお大きな目やムッチリとした貫禄のある体型をキープしてくれていることが嬉しい。いや、嬉しいというよりありがたい。

そんな團十郎の立派な姿を楽しみに見始めたところ、ナレーションが入った途端ガッカリ。一声聞いただけでわかる。この耳障りな濁った声はNHKのアナウンサー、黒田あゆみだ。
鼻が悪いのか、原稿のすべての文字に濁音がついているかのような濁った声。鼻濁音も不正確なのではないか。
番組のクライマックス、いよいよパリ・オペラ座での舞台が始まるという大事なシーンでは、「パリオベラ座の『カグチッチョー』開幕デス」。
「勧進帳」が「カグチッチョー」に聞こえたのだった。
字面で見てもピンとこないかもしれないけど、「カグチッチョー」と声に出して言ってみてほしい。小さい声で口の中で呟くのではなくハッキリと大きめの声で。
いかがだろう。鼻の詰まった不快な響きをご理解いただけたのではないかと思う。せっかく邪気払いをしようと思って見ているのに、これではかえって気が滅入る。

「海老蔵さん」と言う時のイントネーションも気になった。
アクセントが「蔵」に置かれていて、文字にすると「海老・象さん」のように聞こえるのである。海老は呼び捨てで象だけさん付けみたいな感じ。海老は節足動物で象はほ乳類だから?(←関係ない)
「團十郎さん」は平らなイントネーションなのに、「海老蔵さん」は「海老・象さん」。
音の高低で示すと、黒田アナは「低低低ー低低(だんじゅうろーさん)、低低高ー低低(えびぞーさん)」。私の感覚だと「低低低ー低低(だんじゅうろーさん)、低低低ー低低(えびぞーさん)」。
黒田アナは何度も何度も同じイントネーションで「海老・象さん」と言っていたので、もしかしてコレが正解なんだろうか。

海老蔵といえば、楽屋の廊下を歩いているシーンでやけに胸を張って肩を怒らせて歩いていたのが印象的だった。
カメラが入っていたので普段より気合いが入ってしまったのか、いつもあんな風に歩いているのか。若干無理してる感じが伝わってきて痛々しい。
荒事の総本山の家の坊ちゃんだ。やんちゃOK、傾くの大歓迎。でも、愛敬はあった方がいいと思うぞ。もうちょっと肩の力を抜いたらどうだ。

團十郎と海老蔵がオペラ座の舞台のミニチュアを前にして、スタッフを交えてあれこれ打合せをするシーン。
海老蔵にとって團十郎は実の父親だが、歌舞伎の世界では大先輩。こういう時、どんな態度で臨むのであろうか。
だいたい團十郎のことをなんて呼ぶのか。
歌舞伎役者が先輩を「○○の兄さんにはお世話になって」とか「○○のおじさんに教えていただいた型で」とか言うのをよく耳にするが、息子が父親を「團十郎の兄さん」とか「團十郎のおじさん」とか呼んだら変だ。素直に「お父さん」とか「パパ」とか呼ぶんだろうか。
さて、どうするのかなー?と思ってみていたら、海老蔵は團十郎に対し、終止“タメ口”であった。ちなみに服装はゆったりとした短パン。
楽屋の廊下ではのしのし歩いていた海老蔵だが、大先輩にあたる團十郎の前では和服でかしこまって敬語で話すのではなかろうか、と予想していたのだが大ハズレ。結局、團十郎の名を呼ぶシーンはなかった。

そういえば、中村福助は父・芝翫に教えを乞う時、どう呼んでいるんだろう。染五郎と幸四郎は? 勘九郎と勘三郎は?
なんとなくだけど、福助も染五郎も勘九郎も普段は父親とフランクに接していたとしても、仕事の場では丁寧な口を聞くような気がする。
だが、團十郎パパが許してくれる限り、海老蔵は今のままでいい。
祖父と父譲りの立派な姿かたちと良く響く声、そして奔放な態度でこれからの歌舞伎の世界でおおいに暴れてほしい。【み】