佐藤弘道の声音の変化

4月からリニューアルし、出演者が大幅に交代した「おかあさんといっしょ」。慣れぬせいか、なにかちぐはぐな印象を与える新人たちに比べ、昨年度から只一人残留した体操のおにいさん佐藤弘道は、さすがの安定感で見る者をほっとさせる。

昨年度までは、歌のおにいさん、おねえさん、体操のおにいさん、おねえさんの4人が、収録に参加している子供たちと一緒に歌を唄うコーナーがあったのだが、リニューアル後は歌のおにいさん(杉田あきひろ)とおねえさん(つのだりょうこ)とスプー(4月から登場したぬいぐるみ)の2人と1匹が子供たちと一緒に唄う仕様に変更された。歌のおにいさんとおねえさんは中央に並んで座っているので、端に座っている子供たちは寂しかろう。下手しもてはスプーを配置してあるからいいものの、上手かみて側に座ってしまった子は不運である。
昨年度までの歌のコーナーでは、歌の最中のマイクは歌のおにいさんとおねえさんしか生きておらず、体操のおにいさん、おねえさんは口をパクパクさせているだけだが、リズムに合わせて楽しげに身体を動かす体操の兄姉が映し出されると、いかにも和やかな雰囲気が流れたものだった。また、隣に座っている子供の顔を見ながら微笑んだり、肩を抱いたりする様も、彼らの魅力を際だたせていたように思う。

現在は、佐藤は「あ・い・うー」(体操)のコーナー、体操のおねえさんタリキヨコは「デ・ポン」(バリダンス風体操)のコーナーだけに登場し、出演者全員が揃うのは、エンディングの「スプラッピスプラッパ」のコーナーのみ。先代出演者4人の抜群のチームワークの良さを見慣れた目には、なんとも物足りない構成だ。
3月まで「あ・い・うー」は、体操の後半部分で、歌のおにいさん(速水けんたろう)、おねえさん(茂森あゆみ)、体操のおねえさん(松野ちか)が合流し、そのままエンディングになだれこむというスタイルだったのだが、現在は、「あ・い・うー」とエンディングの間に別のコーナーが入っているせいか、最後まで佐藤と子供たちだけである。体操に参加しているのは、傍若無人な3歳児。転んで泣く者、セットによじ登る者、あらぬ方向に向かって突進していく者、ふらふらと画面から消えていく者…。3月までは、途中で合流する速水、茂森、松野が、彼らをフォローしていたわけだが、今はそうはいかない。ベテランらしくかなり子供たちの動向に細やかに気を配っているように見えるが、なにしろカメラ目線でかけ声をかけながら体操をする佐藤、逃げていく子供を追いかけていくわけにもいくまい。

振付や衣装が二転三転している「デ・ポン」(今週は子供の髪飾りが再び当初の花つき鉢巻に戻っていたぞ)の例もあるので、今後、「あ・い・うー」に、杉田、つのだ、タリが登場するようになるやもしれぬ。なんとなく冷えた関係を思わせる今のチーム。エンディングだけでなく、今までの伝統に戻って体操コーナーでも勢揃いすれば、少しは仲よさげに見えるようになるのではなかろうか。

昨年度は見た目も実年齢も“オヤジ”的な速水を中心に、“お姫様”の茂森、そしてこの2人をフォローする佐藤と松野という布陣だったわけだが、速水、茂森、松野、さらに別撮りではあったものの長老格の古今亭志ん輔も降板して、今や佐藤が現チームのリーダー的な存在になっている。いや、実際は知らんよ。内部事情はわからねど、見た目はそうなんである。
早口で落ち着きなく喋る杉田、からくりじかけの人形みたいに首をすくめてニッコリ笑う仕草を繰り返すつのだ、いまだに番組中でテロップ以外に名前を紹介されていないタリ。一方、佐藤は余裕しゃくしゃく、堂々としたものである。元々、カメラを向けられると、どんな時でも最良の表情を見せていた佐藤。その豊かな表情はますます磨きがかかっている。
ベテランの余裕、どっしりとした安定感。心なしか、声のトーンが昨年度よりも低くなっているように聞こえるのは気のせいか。体操のかけ声が、甘いやさしげな声音から、太くはっきりした声に変化したように感じるのである。

佐藤の持ち味であった良い意味でのチンピラ感、“「おかあさんといっしょ」一家の若頭”的な雰囲気が薄れたように思える。
「速水の兄貴のためなら、自分は命なんか惜しくないっす」「なに言っとんじゃあ、死ぬる時は一緒よぉ」「いや、兄貴は待っててつかあさい」「まあ、落ちつけや、のう、古今亭の叔父貴に相談してからにせいや、それからでも遅うはないけん」と、東映ヤクザ映画の1シーンに登場するような鉄砲玉のごとき初々しい若さを見せていた佐藤だったが、今やすっかり貫禄充分である。またしてもヤクザなたとえで申し訳ないが、杉田という新たな組員を迎え兄貴格に昇格したといった風情とでもいおうか。

ついでにヤクザなたとえを続けるなら、茂森は「極道の妻」シリーズに出てきそうな姐さんの風格。身体は小粒だが茂森のクッキリとした美貌は、アップに結い上げた髪型や片肌脱いで威勢よく啖呵を切るシーンが似合いそうな気がする。一方、原田知代に似ているという風評もあるつのだは「セーラー服と機関銃」というか「二代目はクリスチャン」というか、なろうと思ってなったんじゃなくて仕方なく姐さんやらされちゃってるのよね困っちゃったなあ的な雰囲気がある。茂森の東映風味に対し、角川風味か。で、極道としてどっちが怖いかというと、義理や人情を基準に行動する東映系姐よりも、その場の感情で動きそうな角川系姐の方が怖かったりするんである。ニコニコ笑いながら敵方に手榴弾投げ込みそうなイメージ。

さらにヤクザなたとえを続けさせてもらうなら、松野は、末端のチンピラに尽くす薄幸な女。愛しい男の身代わりとなって映画の前半で命を落とすような役回りである。タリは…タリは、そうだなぁ、“謎の女”ってんじゃあまりに曲がなさすぎるから、“日本の極道界を牛耳りに来たアジア某国のマフィアの女幹部”なんていう役回りでどうだ。どうだって言われても困るだろうけど。【み】

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