1998年秋「ファミリーコンサート」見聞記

平成10年11月1日、我々東京福袋は日頃懇意にしている4歳児(3歳児改メ)と共に渋谷・NHKホールへと向かった。そう、秋のチャリティーコンサート「おかあさんといっしょ ファミリーコンサート 夢のなか」を観るためである。

思いおこせば長い道のりであった。
運を託した頼みの応募ハガキが空しく落選の通知となって戻ったのが10月初旬。落選ハガキを見つめて臍を噛む日々を過ごしていた我々であったが、キャンセル分販売があると聞き、折しも台風の近づく雨天の中、始発でチケットぴあに向かい、同じ日にチケットが売り出されたジャネット・ジャクソンのファンと励まし合いながら寒さに耐え、ようやく手に入れたのが、2階席の端っこ、しかもバラバラの3枚のチケットである。
艱難辛苦を乗り越え手にした3枚のチケットを握りしめ(いや本当は鞄に入れていたのだが)、公園通りに歩みを進める(いや本当はバスで行ったのだが)我々であった。

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オープニング

さて、今回のオープニングはいつもと趣が違った。

「リズムくん・メロディーちゃん」あたりで、一人づつ登場するのがこれまでの通例であったが、今回は緞帳が開き、紗幕が落ちるとそこにはすでに速水けんたろう、茂森あゆみ、佐藤弘道、松野ちかの4人が並んでいる。しかも、あろうことかどーなっつ島の4匹衆まで勢揃いしているではないか。オープニング曲は「おかさんといっしょ〜オープニングテーマ」。番組の最初に「ドレミファどーなっつ」のアニメーションと一緒に流れるおなじみの曲だ。

と、ここでたいてい「アイアイ」「いぬのおまわりさん」「バナナのおやこ」…といったナンバーで子供の熱狂を煽るわけなのだが、今回は意外や「シング」ときた。カーペンターズのヒット曲として有名な歌だ。今年リリースのCD「世界のうた」に入っている曲とはいえ、2曲目としては余りにも渋すぎる。無論、これは非常にいい曲だし、速水&茂森の伸びやかな歌声、佐藤、松野の颯爽としたダンスは楽しい。だが、我々の座っていた席の近くの親子連れのテンションが、一気に下がっているのは明らかである。

続いて「風とパレード」。
そして、ようやくお待ちかねのご存じソング「おもちゃのチャチャチャ」。ピエロに扮したダンサーたちが巨大な箱を運んでくる。華やかなピエロの衣装とおなじみの曲の登場で、会場のテンションが再び蘇る。
速水と茂森が箱の中に入り、ピエロが蓋を閉じる。蓋が開くと、速水と茂森の代りにタキシード姿の古今亭志ん輔師が現れるという趣向。マジック仕立てにもかかわらず後ろのセットが一部鏡になっているものだから、タネや仕掛けが丸見えになるのじゃないかと思わずハラハラしてしまったが、幸い大丈夫だった。

懐かしい歌

盛装した志ん輔師が今回のコンサートの趣旨を説明する。
「『おかあさんといっしょ』も年を重ねること40年、そこで今回は懐かしい歌から新しい歌まで、歌を中心に構成しました」とのこと。

さて、そこで登場した「懐かしい曲」一発目は「夢のなか」。
「母と子のテレビ絵本」のテーマソングで、坂田おさむ&神崎ゆう子による優しげな歌唱が印象的な曲だ。どうせなら坂田にも参加してほしかったな。
というのも、この日、NHKホールの隣のNHKスタジオパークでコンサート直前まで、坂田のライブが行われていたのだ(ひょっとしたらコンサートを観ていたかも?)。

続いて「おさんぽ」、そして「あそべあそべ」。
「おさんぽ」は我々にとって初めて聴く曲。「あそべあそべ」は人形劇「にこにこぷん」の挿入歌で、唄うは「どーなっつ」4匹衆。これも「にこにこぷん」の3匹に参加してほしいところだ。「にこにこ」の面々も、お隣のスタジオパークにいたわけで。

「ムギューだいすき」。やはり最近の曲になると盛り上がるようだ。子どもたちだけじゃなく、一緒に踊っているママさんが結構いる。
「風のバラード」に続いて、アニメ「こんなこいるかな」のテーマソング。背景にキャラクタが浮かび上がる。これ、振付が新しくなったのでは? 確か、昔は「どっきどきのアイドル」という歌詞のところで、指をピストルのカタチにしてたんだけどな。速水・茂森・佐藤・松野が目まぐるしく動き回り、誠に楽しい振付に仕上がっている。

どーなっつによる「シャラララ・ともだち」に続き、「ベートーベンのおばあちゃん」。JAL国際線機内限定発売ビデオ「スーパージャンボヒット17」に収録されているこの曲、もともとはイタリアの子どもの歌の音楽祭「ゼッキノドロ」の入選作として「母と子のテレビタイム日曜版」で放送されていたもの。
速水と茂森が唄っている後ろに設置されたガラス張りの小部屋の中で、歌詞に合せて志ん輔師がベートーベンとおばあちゃんに早変わりしつつ踊っていた、らしい。実は、我々が座っていた2階席からはガラス張りの部屋の中が見えなかったのだ。ベートーベンらしき人影、おばあちゃんらしき人影がうごめいているのはわかったのだが。誠に残念。せっかくの趣向、2階、3階からも見えるような工夫が欲しい。

松野&佐藤が妙技披露

さて、ここで懐かしい「ヤンチャリカ」のメロディにのって、佐藤&松野と、ダンサー(あるいは体操の専門家か?)4名が、トランポリンと共に登場。エアロビクス風のダンスを全員でひとしきり踊った後、お待ちかね、松野の新体操のリボン演技。そうそう、これがなくっちゃ始まらないぜ。天井めがけて投げたリボンを見事キャッチしたところで選手交代。

お次は佐藤の出番だ。でんぐり返しにバク転、小気味よく技がキマる。会場騒然。やはり佐藤のママさん人気は絶大である。さらに佐藤は、トランポリンでも派手な演技を披露し、観客を魅了しまくる。拍手。歓声。溜息。
トランポリンの四隅にはダンサーがしゃがんで待機していたが、佐藤の演技を際だたせるためにしゃがんでいたということもあるのだろうが、あれはおそらく事故防止対策の意味もあったのだろうな。見ているとハラハラするほど景気よくジャンプをキメる佐藤。何事もなくて本当に良かった。

「しんゆうになろう」。97年夏の特別編成の時に初放映された曲だ。
子どもたちと草野球に興じるユニフォーム姿の4人が非常に魅力的な野外ロケの映像が印象的なこの曲、番組での放送回数が割に少ない。たぶん今年に入って3回しか放送されていないはずだ。昨年の分も合せたとしても5回程度のオンエア。発売されたばかりの最新CD「最新ベスト イカイカ イルカ」に収録されているものの、やはり会場には馴染みが薄い様子。
「エイエイオーオー、アイオーオー」というかけ声を会場に唱和させようとしているのだが、今ひとつ盛り上がらぬ。まあ、どんな人気曲も最初はこんなものなのだろうな。頻繁に放送、あるいはイベントで唄っていけば、いつかは会場が一体になって「アイオーオー」と叫ぶ日もくるだろう。

志ん輔師匠七変化

続いて「ドレミファどーなっつ」きっての人気曲、「サッカー・サンバ」で、会場のテンションが一気に盛り上がる。
退屈そうにしていた子も、「きー」だの「なー」だの不機嫌な声を出していたチビスケどもも、大喜びで手拍子打ちならして大興奮だ。保護者たちも嬉しそうである。
この曲の冒頭で志ん輔師によるちょっとしたコント風のスケッチが挿入されたのだが、ガリ勉学生に扮した志ん輔師が登場する時に流れた曲は「高校三年生」のイントロ。どういうセンスだ。そういえば、志ん輔師が虫とり少年に扮して登場した時は、よしだたくろうの「夏休み」のメロディが流れてたぞ。

ガリ勉志ん輔、毎度おなじみクイズの出題コーナーである。
「早口言葉です。パパバナナ、ママバナナ、さて、子どもの名前は?」

会場からは「コバナナ!」という子どもたちの声が返る。
ここで志ん輔師、「え? 聞こえない?」と何度も返答を繰り返させる。こういう時間がなくっちゃね。そうでもしないと、チビども、退屈しちゃうもの。ガス抜きタイム。
我々が懇意にしている4歳児も、最初は小さな声で「コバナナ…」と呟いていたのだが、段々、声が大きくなり、ついには「コバナナぁーッ」と悲鳴のような叫び声を上げていた。ゲンキがあってよろしい。

「勉強ばかりでいかん、体も鍛えなければ」ということで、ガリ勉志ん輔、サッカー少年に変身。「ベートーベンのおばあちゃん」に続いてこれも早変わりで見せる。
志ん輔師、今回はタキシードの盛装に始まり、「ベートーベン&おばあちゃん」、「しんこちゃん」、「虫とり少年」、「ガリ勉学生&サッカー少年」、そして後述する「サムライ」と、休む間もなく大活躍。楽屋ではさぞ大変だったことだろう。

さて、ついにコンサートに進出「しんこちゃん」。
視聴者の評判がいいのだろうか。今回のネタは、赤ん坊(弟)を抱いたしんこちゃんが、子守をするという話。
小さな弟の世話だってできる。「だって、ワタシは、しんこちゃん、だ、もーん」。しかし、残念なことに大して面白くないんだ、これが。せっかくのナマしんこちゃんなんだが。
「弟や妹の世話、みんなできるう?」って問いかけられてもねえ。私、一人っ子なんだよ、わかんないよそんなこと。やったことないもん。

弟人形が泣きだすと「『泣いちゃダメ』ってみんな言ってくれる? そしたらきっと泣きやむから」と観客に水を向けるのはいいんだが、しんこちゃん、いきなり「泣いちゃ!」って叫ぶもんだから、子どもたちがついていけない。少し間(ま)をとるとか、「せえの!」とか合図してくれなきゃね。
で、何度か「泣いちゃ!」「ダメ!」をやったにもかかわらず、泣きやまない弟。すると、しんこちゃん、突然音楽に合せて(「四羽の白鳥」だったか?)、くるくる回転しながら踊る。無事泣きやむ弟。じゃあ、さっきの「泣いちゃ!」「ダメ!」はなんだったんだよ。フォローなし。納得いかん。

ちょんまげ御免

「サッカー・サンバ」が終わったところで、速水・茂森・佐藤・松野が登場。「子どもの頃、将来何になりたかったか」という話になる。
まず、速水が茂森に尋ねると、茂森は「私はバレリーナになりたかった。人前で踊るのが大好きだった」と言うなり、「白鳥の湖」に乗ってバレエを踊りながら“不自然に”去っていく。

ここで、ちょんまげ&かみしも姿の志ん輔師が和太鼓と共に登場。志村けんのコントに出ていた故・東八郎扮する家老みたい。
志ん輔師の和太鼓演奏に合せて、曲は「ちょんまげマーチ」。
落語家が本業の志ん輔師。落語家というのは和太鼓の修行が必須なはず。寄席で客入れ、客出しの時に打つ太鼓は、確か修業中の前座さんだか二つ目さんだかが鳴らしているんじゃなかったかな。叩く真似だけの吹替えの太鼓ではなく、見事な名演奏。

さて、ダンサー4人と速水・佐藤・松野がちょんまげにかみしもを着け、コミカルに踊る中、茂森の姿だけがない。なぜだ茂森。潔く頭にちょんまげをのせてくれ。先程の去り方がどうも不自然だったのはちょんまげを避けるためだったのか? 茂森だけちょんまげ免除なのか? その時、我々の脳裏には大きく
茂森ちょんまげ御免
という文字が浮かんだのだった。

賑やかな「ちょんまげマーチ」の後は、一転して青い海の底を思わせる幻想的な照明の中、しっとりと茂森が唄う「ちいさなおふね」。
茂森の衣装が変わっている。衣装替えのために「ちょんまげ」の前に一人だけ引っ込んだ、ということか。しかし、ここで衣装を替える必然性はあったんだろうか。

「ちいさなおふね」は、ご存じのように父と子の会話を唄った曲。父=速水、息子=茂森という分担だ。ところが、速水がちょんまげグループと一緒に舞台から捌けてしまったため、速水のパートは録音で流れるという妙なことになっている。それほどまでにちょんまげは嫌いか、茂森。

続いて、速水が、タコのイラストと一緒に船のセットに乗って登場する「ぼくはキャプテン」。これも我々が初めて聴いた曲である。速水は船長さんの帽子と紺のジャケットという凛々しいスタイル。特撮ものの主題歌のような威勢の良い曲調で、速水の歌唱に馴染む曲だ。

「ぼくはキャプテン」を唄い終わったところで、タコに帽子とジャケットを託し、再び登場した茂森とのデュエット「もしも季節がいちどにきたら」へと続く。
この曲は速水と茂森のハモリで始まる。高音のパートをファルセットで唄う速水。普段の速水の歌ではなかなか耳にすることのないような高音部である。CDやビデオに収録されているバージョンでは、たぶんこのファルセットの部分を何回か重ねて録音しているか、あるいは電気的な処理を施しているのではないかと思うが、肉声で、しかも舞台を歩きながら、あれだけの高音をキープしてファルセットで唄いきった速水の実力に改めて感嘆。

ここで、季節的にはちょいと早めのサンタクロース(このサンタも志ん輔師か?)。曲は「ウィンターワンダーランド」。
これは純粋なクリスマスソングではないのだが、やはりどう考えてもクリスマスのイメージだろう。サンタも登場しているわけだし。「雪っていいね」「雪は夢があるね」とかなんとかトークも入り、すっかり気分はクリスマス。って、おいおい、まだ11月に入ったばっかりだぞ。10/31にもこのコンサートは行われているわけで、いくらなんでも10月にサンタ&雪の話題ってのは早過ぎやしないか? 今年のクリスマスに、このコンサートの中継を流そうっていう魂胆か?

佐藤&松野のレアな歌唱シーン

続いてハッピ着用の全員勢揃いによる「ゆめみた音頭」。
これも我々には初見の曲である。するすると紅白の幕が天井から降りてきて、舞台は一気に元禄花見踊りって感じ。

この曲で特筆すべきは、佐藤と松野のソロ。
「自分はこんな夢を見た」と順番に唄っていく曲なのだが、松野は「オリンピックで金メダルをとった夢」であった。学生時代に新体操で世界選手権に出場した経験のある松野の口からそんなフレーズを聞かされると、なんともリアル。胸にぐっと迫るものがあるではないか。
佐藤も松野も実は結構歌がうまいのである(ビデオ「いっしょにてあそびトントンパッ(1)」で二人の歌を聞くことができる)。二人ともキュートで甘い声の持ち主。日頃から番組やイベントで彼らに唄わせないのを非常に残念に思っていたので、これには大満足。前任の体操のおにいさん・天野勝弘、体操のおねえさん・馮智英は、元々二人がタレントだったせいか、コンサートやCDでマイクを使ってちゃんと唄っていたわけで、これからは、もっと佐藤と松野の唄も聞かせてほしいなあ。

終盤にさしかかり、ようやくおなじみの曲が続けざまに唄われる。
「おーい!」「てをたたこ」「イカイカ イルカ」「虫歯建設株式会社」。さすがにこのあたりは現役バリバリの曲ばかりで、会場はおおいに盛り上がる。

「イカイカ イルカ」では、おなじみのイカとイルカの着ぐるみが登場したが、残念ながら着ていたのはダンサーの2人。なるほど、そんな手があったか。と、思わず膝を叩いたが、やはりここは速水と茂森でお願いしたいところ。それが駄目なら、せめて97年秋のファミリーコンサートで「イカイカ イルカ」の原曲を唄った元祖イルカの志ん輔師にイルカで登場してもらいたかったな。

「虫歯建設株式会社」では、佐藤・松野&ダンサーが、手には槍、虫歯の黒の衣装を身にまとい踊りまくる。さすがに松野、お歯黒まではしていなかったみたいだけど。
一応、佐藤と松野は目立つ場所で踊っているのだが、いかんせん、ダンサーたちと全く同じコスチュームなので、2階席から見ていると、すぐにどれが佐藤でどれが松野やら見失ってしまうのが、誠に残念であった。ちょっと違うコスチュームにしてくれればいいのに。

体操「あ・い・うー」

続いて、チビすけどもお待ちかねの体操「あ・い・うー」の時間だ。
「ちょんまげマーチ」→「ちいさなおふね」という曲順で、速水と茂森のデュエット曲を速水のパートだけ録音の音声で処理する、という不思議な演出をみせたこのコンサートだが、「虫歯建設株式会社」から「あ・い・うー」へ繋げるというのも、かなり変だ。虫歯ルックの佐藤、ここで体操のコスチュームに急いで衣装替えしなければならないではないか。「イカ」と「虫歯」の順序を入れ替えれば済むことだろう。

毎度おなじみ「2階、3階のおともだちは、危ないから席に座ったままで体操してね!」という佐藤の注意を聞き、我らが4歳児、やむなく席の脇の狭苦しい階段で体操を。すまん、4歳児。我々が1階席さえ確保していれば、そんな不自由はかけなかったろうに。我々の運のなさを許してくれ。

体操のあとは、いつものように全員揃って「ドレミファれっしゃ」。そして「チャオチャオまたね」。
ここで、春のファミリーコンサートの時のように、ダンサーの紹介があるかと思ったのだが、残念ながら今回はなし。今回出演したダンサーたちは、みな非常に踊りが巧い(といっても、もしかしたら春と同じメンバーだったのかもしれないが)。特に女性2人の足を上げる高さときたら、感激ものである。

エンディングの涙の謎

ところで、「チャオチャオまたね」が終わり、幕が降りていく時、佐藤が舞台上手に捌けつつ、腕をくの字に折り曲げて泣くような仕草をしていたのが、非常に気になった。

確かにこの回は東京公演千秋楽。一仕事終えて感激のあまり、思わず涙ぐんでしまった?
だが、東京の千秋楽とはいえ、これからこのコンサートは全国を回るわけである。それに、客席から見える場所で、普通、わざわざあんな派手なアクションで泣いたりするものだろうか?
そんなわけで、きっとあれは「泣き」の演技をしていたのであろうという結論を下した我々だが、それでもその意図が全くわからぬ。あのシーンで泣いてみせる理由があるだろうか。2階席の悲しさ、佐藤の表情が全然見えなかったので、演技なのか本当に泣いていたのか、残念ながら我々には確認できなかった。
もしかしたら、本当に泣くような事情があり、実際に涙しないまでも「俺、今、泣きたい気分なんだ」ってな心境をあらわしたのかもしれない。しかし、あの場面でそんなことされたってこっちは困るよ。観る者は混乱するばかりである。

いったん幕が降りると、すぐに再度幕が上がる。舞台には速水と茂森だけが残っている。
アンコールもどきのもう1曲「あしたのあしたのまたあした」。
しっとりと静かに唄う二人。歌が終わると、客席に背を向け、大きく手を振りながら、舞台奥へと歩いていく。先の“佐藤号泣疑惑”に心をかき乱されたままの我々にとって、挨拶もなく黙って舞台の奥へと歩いていくというこのラストシーンの演出は、なんとも寂しくもの哀しい気分にさせられるものであった。

全体を貫く明確なテーマがなかったため、ただずうっと歌が流れていたという、ぼんやりした印象を受けたことは否めない。
冒頭の志ん輔師による「40周年」に関する挨拶(「懐かしい歌から新しい歌まで」)だけが、このコンサートをまとめるテーマにあたるわけだが、それだけではいかにも根拠が弱い。とっかえひっかえ衣装を替え八面六臂の大活躍だった志ん輔師も生かしきれていなかったように思う。

それに「どーなっつ」4匹衆の扱いにも文句がある。
「おかあさん」のコンサートにとって「どーなっつ」の面々というのは、きわめて重要な切り札。おにいさん・おねえさんと一緒に、「せえの」で声を揃えて彼らを呼び出すという儀式、子どもたちにとってコンサートの醍醐味といえよう。
今か今かと待ち受け、ようやく出てきた時、客席から一斉にわき上がる「おかあさん」イベント独特のざわめきを今回体験できなかったのは、個人的には「どーなっつ」には全く思い入れはないのだが、やはり寂しい。
今回のように、最初から顔を出していて、その後も、なんとなくずるずる出たり引っ込んだりするという演出は今イチのように思える。舞台と客席の一体感、そしてコンサートにメリハリをつけるためには、いつものような扱いの方が良いのではないだろうか。

今回は恒例の「ミニミュージカル」のコーナーがなかったため、速水・茂森・佐藤・松野に注目すべき衣装がなかったのも残念だ。
これがコンサートの一番の楽しみなのになあ。担当スタイリストが上品な性格なのか、どの衣装もかなり地味。普段の番組や小さい会場ならいざ知らず、定員3000余名の天下のNHKホールでのイベントだ。もうちょっと景気のいいコスチュームじゃないと映えないよ。

次回はコスプレ系の曲の特集なんてどうだろう。
「イップニップジャンプ」の茂森カエル。「公園にいきましょう」の佐藤と松野の老人の扮装。「はたけのポルカ」のチロル風民族衣装。「ひげのお医者さん」の茂森・松野のナース姿。「ねこなでちゃった」の西洋のおとぎばなしから抜け出てきたようなスタイル。「でんぱがビッ」の松野のファーストフード店の制服。
こんなラインナップが実現したら本当に嬉しいのだが、喜ぶのは大人だけか。ちぇ。

舞台との一体感が今ひとつ味わえなかったのは、我々の席が2階の隅だったせいだろうか。
また、志ん輔師という強力な出演者を擁していながら、客席が爆笑に包まれるシーンがいつもより少なかったようにも感じられた。全体的に「遊び」の部分が少なかったように思える。

大満足の全28曲

不満も少なくない今回のコンサートだが、最近の番組やイベントではなかなか聞けない曲が豊富に唄われた点は、大変に満足している。
「こんなこいるかな」とか「ベートーベンのおばあちゃん」なんて、滅多に聞けないもの。MCや「どーなっつ」のコーナーを極力短くおさえ、全28曲、たっぷり聞かせてもらえたのは非常に良かった。
定番曲「アイアイ」や「公園にいきましょう」などをあえて外したあたりにも、制作者側の確固としたポリシーが感じられる。「おかあさん」コンサートの新たなあり方として、おおいに評価すべきことだと思う。ま、のっけから「シング」をカマしたってのは、ちょっとやり過ぎとも思えるけど。スタッフの意欲に敬意を表したい。

コンサート終了後、我々の掲示板に参加されているTAKSさんとそのご子息(4歳)にお会いした。そして、スタジオパークのレストランで軽食をとりながら感想を語り合う。
TAKSさんのご子息、そして我々が日頃から懇意にしている4歳児、あんみつとピザを召し上がっていらっしゃるこの二人の先生にコンサートの感想を伺ったところ、お二人とも口を動かしながら黙って手で丸の形を作られた。文句ばかり垂れているような我々若輩者には伺い知れぬ深い味わいを感じ取られたに違いない。【福】

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