佐藤弘道のダンスの魅力

先に当ブログで「おかあさんといっしょ」の現在のレギュラー出演者(速水けんたろう、茂森あゆみ、佐藤弘道、松野ちか)のダンス能力の高さについて書いた。今までもダンスの上手なおにいさんおねえさんはいたとは思うが、レギュラー4人揃ってダンスがうまいというのは、これまでこの番組にはなかったことではないだろうか。

また、4人とも、一般に「こどもばんぐみのおにいさんおねえさん」に抱くあかぬけないイメージとは一味違って、ルックスもなかなかの高水準をキープしている。

さて、今回は、佐藤のダンスについて私なりの分析を加えてみたい。

佐藤のダンスには3つの特徴があると思われる。
ダンスに関してずぶの素人がこんなことを書くのは口幅ったいが、ダンスをする時、主に上半身(肩と胸)でリズムを刻む場合と、下半身(腰と膝)で刻む場合があるように思う。そして、上半身でリズムを刻むと軽快な感じになり、下半身だとダンスに色気が出る。
下半身でリズムを刻むとダンスに粘りが出て、それが色気につながるというのが私のかねてからの持論である。セクシーなにおいのしないダンスは見ていてつまらない。ただし粘り過ぎると“くさみ”が出てしまう。
ものまね番組で演じられる「五木ひろしのまね」がそのよい例だ。腰を大袈裟にくねらせながら拳でカウントをとるアレである。実際、ホンモノの五木ひろしはあれほど大袈裟ではないのだが、五木が持っているある種のくさみを最大限にカリカチュライズした結果がぐりんぐりんとくねる腰なのだろう(むろん、それは五木の色気と表裏一体ではあるが)。

さて、佐藤の場合、リズムは腰を中心にカウントされている(と思う)。佐藤が踊っているのをみると、いつも腰が前後、あるいは上下に揺れている。また、振りの要所ごとに、くいっと腰をくねらす癖がある。腰をしゃくるように動かすのだが、そのたびに尻が景気よくうしろに突き出されるのである。
芝居やコントなどで女装趣味の男性を演じる場合、とかく尻を突き出したり大袈裟に尻を振ったりしがちである。ホモセクシュアルを表現する際、臀部に特別な(性的な)意味を持たせているということもあろうが、突き出された大きな臀部というのは、女性をあらわす記号としての意味合いも大きいと思う。
一般的に男性の臀部は女性に比べ細い。その点で、筋肉がよく発達した佐藤の見事な臀部を強調するこの腰のくねりはいい意味での違和感を感じさせ、彼のダンスに色気を与えている。

ダンスのポイントで腰をひねる癖のほかにも、佐藤のダンスには特徴がある。それは“タメ”である。ある振りから次の振りに移る時、腰でリズムをぐっとキープする。これが私のいう“タメ”だ。また、これが、腰のくねりをさらに強調する結果にもなっている。
佐藤は、ダンスの時でも「さすがは元体操選手」と感じさせる素早い動きを披露し、見ていてほれぼれするほどである。またリズム感もよく、早いテンポの曲でもビートに乗り遅れることなくステップを踏む。しかし、時折、微妙にテンポがずれているように見えることがある。それはおそらくコンマ何秒といった程度のほんのわずかな間(ま)ではあるが。

たとえば、体操「あ・い・うー」の中盤、「そっくり」という歌詞にのせて、顔・肩・膝・臀部の順にタッチする箇所がある。ここは必ずといっていいほど、リズムからずれている。特に臀部にタッチする時は、かなりリズムから遅れるのである。これは、小さな子供にもタッチしているのがハッキリわかるように、という配慮からじっくり動いてみせているのかもしれないが、この箇所にも私は佐藤の“タメ”の癖を感じる。

さて、3つ目の特徴は“サービス精神”だ。これこそが、佐藤のダンスの基本といっても過言ではなかろう。“サービス精神”は、佐藤の「おかあさんといっしょ」における基本的なスタンスでもある。

幼児番組の出演者というのは、たいていいつも過剰なまでにニコニコしているわけだが、現在の「おかあさん」のメンバーも、いつも笑顔を絶やさずカメラの向こうにいる小さな視聴者たちにアピールしている(大きな視聴者もそのアピールをしっかり受けとめてしまっているのだが!)。
その中でも特に佐藤の笑顔はパワーがある。見る者の懐に飛び込んでくるような強力な笑顔である。カメラが自分を狙っている時は、常に“イイ顔”をしており、油断して無表情になっていたり、硬い表情を視聴者に見せることはまずない。

もちろん、茂森や速水、松野の笑顔だってかなりのものである。茂森の大きな瞳がきらめく華やかな笑顔、速水の白い歯がまぶしいやさしげな笑顔、松野の子ダヌキのような愛くるしい笑顔。いずれも誠に魅力的である。
だが、たとえば、松野は、ふと素に戻ったような顔をカメラに抜かれることがある。特に最後の「ドレミファ列車」のシーンでアーチをくぐる時など、誘導している子供たちに気をとられるのか、生真面目な表情で黙々と歩いている日がある。
速水と茂森はさすがにメインなだけに、常にアップを撮られることを意識しているのだろう、なかなか素の表情は見せないが、時折、笑顔がこわばっているように見える。
しかし、佐藤はいつも余裕しゃくしゃくである。いかなる時も最上の表情を視聴者に提供する。それは時によって、笑顔であったり、居眠りをする人の真似であったり(「バスごっこ」)、とぼけた動物の顔だったり(「サンバのサンバ」)するが、ちょっとした瞬間も逃さず演技する。しかも、それがやけに自然である。佐藤を見ていると、教師の目を盗んで授業中にうしろを向いてヘンな顔をしたりして、クラスメイトを爆笑させる剽軽者のイメージがだぶる。よくいたよね、クラスで人気者の男の子が。思わぬところで爆笑が起きたことに先生が怒ると、自分はまるで関係ないような顔をしてすまして前を向いているような。

ところで、速水はかなりの芝居巧者である。キザな王子様、婆のよぼよぼとした仕草など、コンサートでさまざまなキャラクタに扮すると誠に達者な演技を披露する。
もし、私が演出家だとしたら、こういう頼りになる役者が1人いると本当にありがたい。安心して芝居のベースラインを任せられる。しかし、この手の役者だけでは芝居が重くなってしまう。そこで佐藤の出番だ。ここに佐藤の愛敬を加えることによって舞台が軽やかになり、楽しさが増す。

そして、佐藤のこの素晴らしい武器は、ダンスの時にも最大限に活用されている。
ほっそりと長い手足を生かした松野の華麗なダンス、躍動感あふれる茂森の元気いっぱいのダンス、振付をしっかり守りキレのよさが見ていて心地よい速水のダンス。そして、佐藤は、客席(カメラ)にこれでもかというくらい愛敬をふりまく。

表情にメリハリがあると、ダンスが上手に見える。曲にマッチした表情で踊る佐藤のダンスは、彼の本来のダンスの実力を3割増くらいに見せているのではないだろうか。いや、そうではないな。あの表情も佐藤のダンスの実力の一部であろう。
茂森や松野が美しい指先や脚を、速水がそのすらりとした長身を生かして踊るように、佐藤は豊かな表情を見事にダンスに生かしている。

佐藤は顔で踊っているのである。
強烈な腰のくねり、タメ、顔で踊るという3つの要素があいまって、非常に魅力的な佐藤のダンスが構成されているわけだが、番組内の役割分担ということもあるのか、ダンスに限らず、彼が演じるのはたいていコミカルな役である。

だが、せっかくの才能だ。たまには見ている方がちょっと照れちゃうくらいの二枚目のダンスも見てみたいものである。松野と組んで情熱的なタンゴなんてのはどうだろう。茂森と組んで華やかなフラメンコ(パソドブレ)も悪くない。若い男性ダンサーを大勢従えて“剣の舞”といった感じのダンスもいい。上半身は裸でね。

もしかしたら、佐藤自身、3枚目を演じるのが好きなのかもしれぬ。もし、そうだとしたら、1つここで提案したい。
が、この記事、少々長くなりすぎた。というわけで、また改めてその提案をご紹介することにしよう。そちらもぜひご一読のほどを。【み】

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