「おかあさんといっしょ」振付考

今日の「おかあさんといっしょ」でオンエアされた「ボログツブギ」。懐かしい曲である。最近はとんと放送されていなかったのではないだろうか。
「ボログツブギ」というと、前任の坂田おさむ・神崎ゆう子・天野勝弘・馮智英の4人で歌い踊っていたのが私は印象に残っているのだが、「おかあさんといっしょ」放映30周年記念コンサートのビデオ「げんきにあそんじゃえ」(日本コロムビア)の中に、初代歌のおにいさんの田中星児が“ボログツ”の衣装(小道具か?)を見て、「懐かしいなあ」などと言ってから「ボログツブギ」の歌に入るシーンがある。どうやら、田中がおにいさんを務めていた頃から唄われていた曲であるらしい。
田中が歌のおにいさんを務めていたのは、1971年〜77年の間。つまり、20年以上も前から「おかあさん」でオンエアされていたことになる。

さて、今日の「ボログツブギ」を見て、少々驚いたことがある。振付が私の記憶にあるものと同じだったのだ。まず、歌のおにいさん(速水けんたろう)が唄いながら登場、続いて、体操のおにいさんおねえさん(佐藤弘道・松野ちか)が参加し、大袈裟な“ボログツ”をパクパクさせつつ、ラインダンス風に踊る。「ヘーイヘーイヘイヘーイ」の歌詞のところで片手を挙げるところも記憶通りだ。さらに歌のおねえさん(茂森あゆみ)が登場し、速水・佐藤・松野は仰向けに横たわって“ボログツ”を上げ下げする振りになる。佐藤が左足、右足を順に高く上げて、その足を残りの3人が担ぐようにして指さしながら唄うという振りも、覚えているような気がする。
このあたりまでは記憶通りなのだが、私の記憶よりも今日の4人の動きはかなり激しいようにも思える。おさむおにいさん、こんなに景気よく踊ってたっけ?

残念ながら、坂田&神崎コンビの頃にオンエアされていた「ボログツブギ」の映像が手元にないので、とりあえず先に挙げた30周年コンサートのビデオ「げんきにあそんじゃえ」を再見してみる。
唄っているのは、田中星児・坂田おさむ・神崎ゆう子の3人。今日の放送よりは少々派手めの“ボログツ”を履いて唄っている。確かに前半は今日の振付と同じようだが、ずいぶんおとなしいじゃないか。今日の放送のように飛んだり跳ねたりしゃがんだりなんかしていないぞ。結構ぎこちなく動いているし、唄い終わったら3人とも息が上がってる。

しかしなんだね、こうして比べて見てみると、今の「おかあさん」チームのダンスのレベルの高さを改めて実感できる。子供の頃バレエを習っていたという茂森と新体操の世界選手権に出場したこともある松野がダンスがうまいのは当然としても、速水と佐藤のダンスのセンスのよさはただごとじゃない。佐藤は元体操選手だから運動神経はそれなりに発達しているのだろうが、運動神経とダンスセンスはイコールとはいえないだろう。かつては歌謡曲の歌手だった速水にいたっては、経歴のどこをみてもダンスとは縁がなさそうである。しかし、それにしてはうまい。長い手足を十二分に生かしたキレのいいダンスをする。歌手だからリズム感はいいのだろうけれど、普通、あんなにキレイには動けないものだ。

坂田おさむは本来フォークシンガーなわけで、ダンスに多少難があっても責めるわけにはいかないが、田中星児はかつて「スタジオ101」(NHK)で歌ったり踊ったりするチームの一員だったのではなかったか。30周年コンサートは1989年に開催されたものなので、昭和22年生まれの田中はこの時42歳。年齢のハンディはあるとしても、あまりにぎこちない。
では、番組で坂田と神崎と一緒に踊っていた天野勝弘や馮智英はどうだったか。タレント名鑑によると、18歳で「劇団ひまわり俳優養成所」に入団している天野はそれ以外の経歴がわからないのでなんともいえないが、馮智英は日本を代表するミュージカル劇団の1つ「いずみたくフォーリーズ」出身だったはずだ。彼女の「おかあさん」時代の姿は今も市販されているビデオで見ることができるが、大袈裟で剽軽な動作はさすが舞台出身という感じはするものの、際だってダンスがうまいという印象はうけない。まあ、仮に彼女がダンスの名手だったとしても、それを生かす振付がなされていなかっただけかもしれないが。

しかし、今日の「ボログツブギ」はすごかった。勢いがあるというか、勢いあまってというか、めったやたらにスピードのある躍動感あふれるダンス。ちょっと荒れ気味、という風にも見えなくもなかったが、4人の絶妙なダンスセンスが、その荒れ気味の部分すらメリハリにして、胸がわくわくするようなダンスシーンにかえてしまった。
なにしろ、現在の「おかあさん」のメンバーのダンスのレベルは、番組史上最高といってもいいのではないだろうか。かつても、林アキラや宮内良(現在もミュージカルの舞台で活躍中)といった踊りのうまいおにいさんはいた。だが、歌のおにいさんおねえさん体操のおにいさんおねえさん全員揃ってダンスがイケるというのは、おそらく今までなかったことではないだろうか。

さて、前述の「ボログツブギ」のほかに、昔から振付がほぼ変わっていないと思われる曲に、「ホ!ホ!ホ!」や「あつまれ!ファンファンファン」などがある。いかにもあかぬけない古くさい振付で、どういうつもりで振付師はこんな振りをつけたんだろうかなどと、見るたび憂鬱な気持ちになってしまうのだが、よく考えてみると、これまでの「おかあさん」出演者は複雑な振付では踊りきれなかったのかもしれない。もちろん、視聴している幼い子供らが一緒に踊れるように、あえて単純な振りにしているという面もあるのかもしれない。だが、「ホ!ホ!ホ!」や「あつまれ!ファンファンファン」の振付は、それにしてもね、である。あんまりだわ、なんである。
邦楽は別だが、リズムにそのまま乗った動きをすると途端にあかぬけなくなる。「前ノリ」「後ノリ」という言葉があるが、この「前ノリ」で振りをつけると、おゆうぎチックというか、あらえっさっさーというか、もっさりしたダンスになってしまう。
格好よく見える振付というのは、リズムの間隙をぬって、あるいはリズムをわざとはずして体を動かしている。
「おかあさん」の歌は、リズムにそのまんま乗っかって手足を動かす振付が圧倒的に多い。その代表的な曲が、「ホ!ホ!ホ!」であり、「あつまれ!ファンファンファン」なんである。先に“おゆうぎチック”と書いたが、まさにお遊戯なんだからそれはそれでいいのかもしれない。
しかし、たとえば「ポンキッキーズ」(フジテレビ系)でオンエアされている曲の振付を思い出してほしい。沖縄出身のFOLDERはともかくとして、今夏、毎日しつっこく踊っていた通称「ボンダンス」(「花まつり」石井竜也)の振付のカッコよさ。しかも、幼児が踊れる程度の難易度の振付である。また、歌番組を見れば、FOLDER、SPEED、年端もいかぬ子供たちがコマネズミのようにくるくる踊っているではないか。

いや、わざわざ民放を見ずとも、ETVだって今様のダンスが見られる番組は少なくない。「うたっておどろんぱ」のハナ(河合篤子)やD坊主(正式名称はWDっていうんだってね)。いかにもプロの業といったカッコいいダンスを見せてくれる。「オドロンパ」の内田順子と子役たちのダンスもそれはそれは見事なものだった。他にも「天才てれびくん」や「いないいないばぁっ!」(振付はラッキー池田!)など、シャープなダンスはETVにもあふれている。そして、小さな子供たちはそれを喜んで見ているのではないか?楽しみながら真似しているのではなかろうか?

「前ノリ」のノンビリした振付のダンスもいい。16ビートや32ビートの目まぐるしいダンスばかりでは、小さな子供たちには刺激が強すぎるという意見もあるかもしれない。
だが、「おかあさん」の現在のメンバーには、今のようなもっさりした振付ばかりではもったいないと思うのだ。ダンス巧者の4人に、たまにはあっと驚くようなダンスも披露してもらいたいではないか。
「おかあさん」のコンサートでは、「ミニミュージカル」というコーナーがあるが、仮にもミュージカルを名乗るのならもう少し洗練された振付をお願いしたい。南流石みたいな売れっ子の振付師を招いて、今どきハヤりのステップを踊るのもいいだろう。いや、別に新しいステップじゃなくてもいい。パソドブレでも、ワルツでも、タップでもなんでもいいのだ。ホンモノじゃなくてもいい。マガイモノでもかまわない。センスのいい振付なら、マガイモノでもそれなりにキッチュな面白味が出るんじゃないだろうか。

「ポンキッキーズ」では、番組ラストに流れるクレジットを見ると、曲ごとに違う振付師を登用しているようだ(「ボンダンス」は「MINAKO」というクレジットが出るが、これはたぶん唄っている石井竜也の妹=元米米CLUB・シュークリームシュの美奈子のことだろう)。「おかあさんといっしょ」でも、曲ごとにクレジットに名前を出すくらい、振付師を大事にしてほしい(「おかあさん」では、毎週月曜の番組の最後に全スタッフのクレジットがまとめて流れる。ちなみに現在の振付担当は「坂上道之助、永恵春芳、城戸政道」の3人)。
「おかあさん」には面白い曲調の歌も多いのだから、ダンスも曲に負けないようなユニークでセンスのいい振付で見せてもらいたい。今の4人ならそれも充分可能なはずである。【み】

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