さて、「佐藤弘道のダンスの魅力」で予告した通り、この項は「おかあさんといっしょ」の体操のおにいさん・佐藤弘道のダンスの魅力を引き出し、さらに他の3人(歌のおにいさん・速水けんたろう、歌のおねえさん・茂森あゆみ、体操のおねえさん・松野ちか)を加えた現在のレギュラー4人の粒揃いのダンス能力の高さを生かすための私からの提案を書く。
それは、ミュージカル「雨に唄えば」である。
土砂ぶりの中、傘をふりまわしながら唄い踊るシーンで有名なジーン・ケリー主演のミュージカル映画だ。
以下に簡単な筋書きを記すが、もし、これから「雨に唄えば」をご覧になろうとしていて、あらすじを知ってしまってはつまらないという方は、この後の数行は飛ばしてお読みいただきたい。
時は米映画界がトーキーに切り替わる頃。無声映画の大スター、ドン(ジーン・ケリー)は寄席芸人からスタントマンを経て今の地位を得た男である。マスコミにドンの恋人と目されている人気女優のリナはその美貌とは裏腹にワガママで鼻持ちならないイヤな女。リナはドンの恋人気取りだが、ドンはスタントマン時代にリナに酷い扱いを受けていた上に、リナのあまりの性格の悪さに辟易し、単に映画の宣伝活動の一環として恋人のポーズをとっているだけだ。
下積み時代からドンの相棒だったコズモは、現在はドンの映画の撮影中のムードを盛り上げるための音楽係を担当している。
ドンが知り合った若い娘、キャシー(デビー・レイノルズ)。キャシーは女優と自称し、無声映画の大スターとして少々天狗になっているドンに手厳しい批判を繰り出す。しかし、女優といっても一山いくらのコーラスガールであり、実はドンの熱狂的なファンでもあった。当初はいがみあった2人だが、次第にひかれあう。
他社がトーキー映画で大ヒットを記録し、あせった社長は、ドンとリナの主演映画を急きょトーキーで撮ることを決定。しかし、この計画には致命的な欠陥があった。リナだ。リナは訛りが壊滅的にひどい上にのみこみが悪い。苦労の末、完成した映画はさんざんな出来であった。
せっかくつかんだスターの座もこれまで、と肩を落とすドン。コズモとキャシーは「撮影した映画をミュージカルに作り直そう」と提案する。ドンとコズモは寄席芸人時代に歌や踊りの経験があるし、キャシーは歌が得意だ。リナのどうしようもない声をキャシーが吹替えれば、素晴らしい映画ができる! そして、キャシーはこの映画の吹替えを終えたら、歌って踊れる新人スターとして大々的に売り出せばいい。
しかし、このアイデアを知ったリナは激怒し、契約書をたてにキャシーをずっと自分専用の吹替え要員として飼い殺すよう会社にねじこむ。契約書を持ち出されてしまってはどうにもならず、結局、社長はリナの提案を受け入れざるを得なかった。
そして、映画完成試写会の日。ある突飛なアイデアですべては解決する…!
まあ、この時代のミュージカル映画というのは、筋書きはあってなきようなもので(その中でもこの映画はストーリーのメリハリがハッキリしている方だと思うが)、こむずかしいことは考えずに、素晴らしい歌や踊りのナンバーを楽しむのが一番だ。
さて、私が考えた「おかあさんといっしょ版『雨に唄えば』」の配役だが、大スターのドンに速水、ドンの恋人のキャシーに松野、ドンの古くからの相棒、コズモに佐藤、ドンに横恋慕する大女優のリナに茂森。さらに、1シーンだけ登場して妖艶なダンスを披露するシド・チャリシーを茂森が2役で演じるというものである。
ジーン・ケリーの躍動感あふれるダンスは真似するべくもないが、ケリーのもつ甘いイメージは速水に共通するものがある(ケリーよりも速水の方が歌唱力は上だと思うが)。大スターのおごり高ぶったさまを滑稽に、映画が失敗したあとの落胆をシリアスにと、速水ならこのあたりをうまく演じてくれるはずだ。もちろん、雨の中、ソフト帽とトレンチコートで傘を小道具にエネルギッシュに踊りまくる「Singin’ in the rain」のナンバーは、このミュージカル最大の見せ場になることだろう。
ショートカットでちょっとボーイッシュなキャシーは、松野のイメージにピッタリなのだが、他人の吹替えをするほどの歌唱力の持ち主という設定である。そうなると、番組的には、松野ではなく茂森ということになるのだろうなあ。シド・チャリシーのダンスには歌がないし。キャシーの代表的なナンバーは、甘いバラード「Would You?」。これを茂森にしっとり唄われた日にゃこりゃたまりませんぜ旦那、である。
わたくし的には間違いなくキャシーは松野である。この映画には、「Good Morning」というドン、キャシー、コズモの3人による誠にキュートなダンスナンバーがあるのだが、これを速水、松野、佐藤の3人で見てみたいのである。松野があのナンバーを踊ったらさぞ可愛いことだろう。
さて、もし、キャシーを茂森にした場合、松野はリナ&シド・チャリシーの2役にスライドしてしまうわけだが、キーキー声のアヤシゲな訛りでワガママ放題のリナ(テレビ上映時の吹替は、マリリン・モンローでおなじみ向井真理子の当たり役!)は、少々内気なイメージのある松野には荷が重いかもしれぬ。だが、妖艶なダンスでドンを翻弄するギャングの情婦、シド・チャリシーのシーンは、ぜひ松野で見てみたい。腰までスリットの入った緑のセクシーなドレスに網タイツ、緑のピンヒール。長いキセルで煙をドンの顔に吹きかけ、ドンはその色香にクラクラする。こんなダンスを松野の美脚と共に楽しめたら最高ではないか!
となると、リナに「どーなっつ」から、みど(声:佐久間レイ)を借りてくるか。
個人的には、人形ぬき、純粋に人間だけのミュージカルで見たいのだが、そうも言ってはおられまい。で、ここでみどを投入しちゃったからには、残りの3匹もなんとかしないといかんな。リナのワガママに苦労させられる映画監督役にれっしー(声:中尾隆聖)、ドンとコズモが訪れる発声教習所の教師役にふぁど(声:小桜エツ子)、映画会社の社長役に空男(声:青木和代)。ま、こんなところか。
さて、元々“顔で踊る”佐藤の特性を生かすために考えたこの提案である。そろそろ佐藤の話に移ろう。
コズモというのは、身が軽く剽軽な男で、まわりが悩んでいる時も唄ったり踊ったりして雰囲気を明るくする好漢だ。まさに佐藤のイメージ通りではないだろうか。
「雨に唄えば」には、先にあげた「Good Morning」のほか、ドンとコズモが寄席芸人だった頃に寄席の舞台で披露するデュエット「Fit as a Fiddle」、コズモとドンが発声の教師をからかって唄うやはりデュエットの「Moses」や、ドンを励ますためにコズモが1人でおどけてみせるシーンで身の軽さを見せつける「Make ‘Em laugh」など、佐藤の剽軽な面をたっぷり楽しめるナンバーがたくさんある。速水と佐藤の男2人による歌やダンスのかけあい、見ごたえがありそうだ。きっと最高に愉快なものになるに違いない。
いや、もうストーリーなんてなくてもいいじゃないか。素晴らしいミュージカルナンバーを次々に羅列するだけでも楽しめそうである。ストーリーが必要だというなら、私が書いてもいい。って、なんか一人で盛り上がっちゃってるなあ私。いやどうもお恥ずかしいこって。
小さい子供たちには難解? いやいやそんなことはあるまい。「白鳥の湖」(これも結構複雑な話だ)を「ミニミュージカル」に採用するくらいなのだから。王子様もお姫様も怪獣も出てこないが、大スター=王子様、大女優=悪いお姫様、新進女優=良いお姫様、といった程度の認識で、案外幼い子供は楽しめたりするものである。
スタジオ収録の特番でも(今年のクリスマスあたりにどうだろう?)、コンサート恒例の「ミニミュージカル」のコーナーでもいい。さぞや素晴らしいステージになると思うのだが、皆様、いかがだろうか?【み】