1998年春「おかあさんといっしょファミリーコンサート」見聞記

1998年5月3日、我々東京福袋は東京・渋谷のNHKホールへと向かった。
そう、「おかあさんといっしょファミリーコンサート『歌だ!ダンスだ!おまつりだ!』」を見るためである。今回はファミリーコンサート評論家の先生(3歳)にご同行いただいた。

9時半ごろNHKホールに到着。入口前の列に並ぶ。当日はかなりの強風で、会場までの間にも列から子供が7、8人吹き飛ばされていった。うそだけど。
当日スタジオパークでは「トゥトゥアンサンブル」のコンサートをやっているとの掲示が。ララを間近で見る機会かと一瞬色めき立ったが、「トゥトゥ」からの出演者はキーボーズのみであった。これじゃただの斎藤雅広のコンサートじゃん。当然、見学はパスである。

10時になった。ホールの入口が開き、列が中へなだれこむ。
入口でパンフレットなどを渡されるが、パンフレットといっても、当日の演目などは出ていない。日時と場所、それに「どーなっつ!」の塗り絵がついているだけのものだ。もうちょっと記念になるようなものにすればいいのに。出演者の一言が書いてあるとか、ちかおねえさんのブロマイドがついてるとか、あゆみおねえさんの携帯の番号が書いてあるとか。
ロビーにはいくつか売店が設置されている。「ドレミファ・どーなっつ!」のキャラクターグッズの店、ビデオ、それに飲食物の売店だ。これからの1時間、先生には退屈してもらっては困るので、れっしーのキャップとアイスモナカを買ってさしあげる。
先生とスタンプコーナーでスタンプを押したり、トイレへお連れしたりしているうちに、やがて11時近くになったので席へ戻る。我々が入手したチケットはB席。2階下手側のかなり奥まった席である。座ってみると、ステージがずいぶん遠い。「まあ、ここならステージ全体が見渡せるし…」などと、我々は必死に先生をお慰めしたのだが、先生は鷹揚にうなずいただけであった。席についてはこだわりのない先生なのだった。

ステージの真下、上手と下手にハンディカメラが1台ずつ設置されている。おにいさんやおねえさんが「2階のおともだちー!」と呼びかけた時には、精一杯手を振ろう。もしかしたら手の先くらいは映るかもしれない。そうこうしているうちに、予鈴代わりの「みど・ふぁど・れっしー・そらお」の歌が流れる。

11時ちょうど。
幕が開き、けんたろうおにいさんとあゆみおねえさん登場。

あゆみおねえさんは黄色と水色の目にも鮮やかなワンピース。続いてちかおねえさんと弘道おにいさんも登場。華やかなあゆみおねえさんのコスチュームとは違い、ちかおねえさんは、中学生が日曜に友達と待ち合わせて近所のダイエーに買い物、といった感じの服装。ちかおねえさんにも、もっといい格好させてあげればいいのに。
けんたろうおにいさん、弘道おにいさんは、普段着のようなラフなスタイル。

今回のコンサートは前半が歌、後半がミニミュージカル、最後に「あ・い・うー」体操を踊ってしめるという構成。
何曲目かの「公園へいきましょう」が終わったところで、ダンスで会話する「ダンス共和国のダンス人」なるものが登場。東急ハンズのパーティ用品売り場で購ったと思われる色とりどりの安っぽいカツラをかぶっている。我々の真後ろに座っていた子供が「鬼だ」と叫んでいた。確かに「ミニミュージカル・桃太郎」で、志ん輔・速水・佐藤・松野が鬼を演じた時も、あんなカツラをかぶっていたっけなあ。

以下、いろいろな歌に合わせてハンガリーの舞踊、オーストリアのワルツ、アメリカのフォークダンスなど世界の踊りが紹介されていく。「アイアイ」では、あゆみおねえさんが、ポリネシアンダンサーのような格好をした女性の「ダンス人」たちを従えて踊ったが、ぜひここはあゆみおねえさんにも腰みのをつけて踊ってもらいたかった。かえすがえすも残念である。

所詮、どの曲も「ワルツ風」「フォークダンス風」「タンゴ風」でしかないため、実際に歌と踊りを合わせるのはちょっと無理があったようだ。編曲にも難があったように思う。「アイアイ」「公園にいきましょう」のような「おなじみソング」は、いつも通りのアレンジで歌った方が盛り上がるのではないだろうか。場内のお子様がたも少々退屈のご様子。キーとかダーとか、お子様ならではの私語がとびかっている。我々に同行してくださった評論家の先生(3歳)のノリもいまいち。

我々はダンスや歌よりも、上手かみての照明のフィルタが1本だけ進行とズレてしまっていることばかり気になった。なぜあんなミスが起こったのだろう。それとも深い演出意図があったのか?

後半のミニミュージカルは「白鳥の湖」。
けんたろうおにいさんとあゆみおねえさんが勝手に自分を主役に決めてしまう、という以前にも使った手法で、けんたろうおにいさんは王子、あゆみおねえさんは主役の白鳥に決定。今回はじゃじゃまる・ぴっころ・ぽろりも出演。じゃじゃまるは独特なキャラクターを活かし敵役の悪魔に。ぴっころ・みどはその他大勢の白鳥、れっしー・ぽろりは王子様に言い寄る娘。そらおは、王子の母(女王)。ふぁどは自らナレーターを買って出る。
以前もふぁどは「こういう役、好きなんだーよね」と言ってナレーターにおさまっていたが、この男、もうすこし他人を押しのけてでも主役を狙うくらいの気概が欲しいものだ。

それにしても、惜しまれるのはあゆみおねえさんの登場シーンだ。白いチュチュといういでたちで会場の親どもを色めきたたせるくらいのことはできただろうに、その他の白鳥と一緒に踊りながらの登場だったため、後ろの方の席の観客は真ん中で踊っているのがあゆみおねえさんなのかどうなのか分からないまま、なんとなくの登場になってしまった。本来ならば、あそこはピンスポットを浴びながら一人で歌いながら登場するべきでしょう。やっぱり。
それに対してオイシかったのが弘道おにいさんの登場シーン。実は、弘道おにいさんとちかおねえさんは何の役か明らかにしないまま劇が始まったのだが、劇中、けんたろうおにいさん扮する「すくすく王子」が悪魔と対決するために、友人の王子を助っ人に呼び、弘道おにいさんが登場。颯爽としたおにいさんの王子姿に会場のおかあさんたちの喜ばんことか。登場したところで、「やあ、つくつくぼうし」「ツクツクボーシ、ツクツクボーシ…、じゃなくって、ボクはすくすく王子だよ」などという、のりおよしおの往年のフレーズ(振りつき)を交えたベタな会話があり、会場はさらに大喜び。

さて、一方、ちかおねえさんは、悪魔の娘役として登場。黒いチュチュ姿でメタリックカラーの輪を操る。さすがに子供の手前か、悪役然としたセリフや動きはほとんどなかったが、ぜひ一度子供の見ていないところでスゴい悪役をやってもらいたいものだ。
シンプルなメイクに黒い衣装が映え、素晴らしくキュートなちかおねえさん。今回のファミリーコンサートに限っていえば、なぜかたれ目気味にみえるメイクに加え、ドレープがたっぷり入った白のチュチュを着て妙にふくらんでしまったあゆみおねえさんよりも、ちかおねえさんの方が美しかったと思うのは、我々だけではあるまい。
「悪いちかちゃんはとてもステキ、あのスタイルで一度踏んでもらいたい」と、ひそかに願う吉野であった。

それにしても「白鳥の湖」のストーリー自体にあまりなじみがなかったことや、あゆみおねえさんの登場のまずさもあり、ミニミュージカルは全体的にいまいちという印象であった。
「ダンス人」をまじえての前半シーンも、労多くして実り少なしというか、あれだけの振付を覚えるのはさぞ大変だったろうが、見ている方はそれほど楽しめなかったのが残念だ。
おにいさん、おねえさんが揃って、いつものアレンジでおなじみの歌を唄ってくれる曲がもうちょっとあった方が盛り上がると思う。もしかしたら、進行役、あるいは仇役としての志ん輔さんの欠場が大きかったのかもしれぬ。

同行してくださった評論家の先生(3歳)に公演の印象を伺う。
「おもしろかった?」「うん。」結構人に気を使う性格の先生なので、どれだけ本当にお楽しみいただけたかは定かでない。【福】

もくじ