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佐久間ダム建設記録(第一部)

佐久間ダム建設記録(第一部)

このブログでは、主に昭和期に製作された英映画社 (1927-2009) の作品およびチラシの画像を紹介しています。古い資料が多く文字がつぶれて読みにくい箇所があるため、文字起こししたテキストを添えています。
なお、当時と現在では考え方やさまざまな環境が違うこともあり、今見ると非常識に思える部分がありますが、歴史的な資料として、誤字や旧仮名遣い等も含めできるだけそのままの形で掲載しておりますことをあらかじめご了解ください。また、掲載されている住所や連絡先は当時のものですのでご注意ください。

目次

データ

1955

「佐久間ダム建設記録(第一部)」

1955(昭和30)年
企画:株式会社 間組
製作:株式会社 英映画社
白黒45分

製作高橋銀三郎
演出赤佐政治
演出助手大橋春夫
撮影広川朝次郎、中西公弘、渡辺種久
作曲日本ビクター・小沢直与志
演奏日本ビクター管弦楽団
解説高橋博
録音井上俊彦

建設大臣賞
文部省選定
全日本PR映画コンクール最高賞
1955年教育映画祭入賞

動画

NPO法人科学映像館様が配信しているYouTube動画へのリンクです

チラシ

佐久間ダム建設記録(第一部)
佐久間ダム建設記録(第一部)

チラシのテキスト(文字起こし)

製作意図

 この映画は近代土木技術の粋をあつめた天龍川の「佐久間ダム」の建設工事を記録する目的で製作した。
 その計画規模の雄大、短期間の突貫工事、大自然に挑む人間の意志の力、これら歴史的な建設工事を通じて、映画に表現しようと意図した。
 また電源開発株式会社の製作する工事全般の色彩映画と異なり、ダム建設工事を請負った間組の委託により特に重点をダムにしぼり、工事開始前の基礎準備から撮影を始め、あくまで人間と自然の斗いを「手と足」で克服する有様をとらえ、更に新しく輸入された各種重機械をダイナミックに駆使する、背後の人間の力を描くことに焦点をおいている。

まえがき

 天龍川はその水源を長野県の諏訪湖に発し、上流部には伊那盆地をゆるやかに流れ、下流部は静岡県西部を貫流して太平洋の遠州灘にそそいでいる。中流部は激流岩を咬む峡谷で、天竜峡の絶景を造り伊那節の名調と共に天龍下りの場としてあまりに有名である。此の峡谷のつきようとする佐久間—此の地点が世紀にかがやくダム工事の行われている場所なのである。
 国鉄飯田線中部天龍駅より本流沿い約五粁上流に丸ビルの五倍、高さ百五十米のダムを作つて諏訪湖の約二倍もある人造湖とし、此の水を約一粁の隧道で発電所に導き、最大三十五萬K・Wの電力を起そうとするもので、現在の重力式ダムでは世界第四位我国では勿論第一位の大堰提であるが、これをしかも三ヵ年の短時日突貫工事に依つて完成しようとするもので、戦後に於ける日本の土木技術を世界に顕揚するものとして大きな期待と注目をあびているのは当然のことである。米国のアトキンソン会社と技術締契によつてその重機械類を従横に駆使、天龍川の特異な地形や洪水量等の悪条件を克服して今や世紀の大工事は完成に向つて驀進しつゝある。
 此の映画はそのたくましい工事記録であり美くしい建設譜でもある。

内容のあらまし

 天龍川の水ちのたゝかいに一生を捧げた金原明全翁の偉業を物語る金原山林が朝夕美しく輝く佐久間に、その目的は同じく天龍総合開発の第一頁が開かれたのは昭和二十八年の春のことである。
 野猿の群生する峻嶮な峡谷に工事用道路を切り拓くと云う人間の手と足の力によって大自然に挑む戦いが先づ火ぶたを切つた。
 古い藤蔓のゆれる吊橋にかわつて、荷重二十屯の近代橋「飛龍橋」が完成するまでは実に困難な自然えの挑戦があつた。
 大天龍の流れを変える仮排水路は延長約七百米で内径十米丹那トンネルの二倍半、これを二十九年の洪水期迄に完成するか否かは佐久間ダム工事の成否を左右する重要な鍵となつた。十七本のドリルを備えたジヤンボーがうなりをあげ昼夜の別なく全断面に突進していつた。
 工事開始後早くも一年、昭和廿九年三月二十八日まづ一本の巨大なバイパスに依つて流れを変えた。
 そうして〆切を終つたダム地点では両岸の風化した岸壁に最大五トンの坑道式大ハッパを幾度かかけそして基礎岩盤に到達するまで掘削を続ける。パワーショベル、ロッカーショベル、ローダー、バックホー、ブルドーザー、ダンプカー等の巨大な土木機械が瞬時の休みもなく活動し実に四トントラック三十五万台分の土砂を掘削した。
 天龍川特有の洪水が〆切を越えダム地点の基礎掘削の現場を幾度か襲ったが、周到な用意、足をもつた重機械類の急速な退避によつて、再び天龍の濁流の底に没し去つたかに見えた工事現場も強力な排水ポンプの働きによつて何の被害もなく短時日のうちに基礎掘削の仕事が川底に砂塵をまき上げて行われた。
 一方これと併行してセメント運搬専用道路コンクリート打込ケーブルクレーンの建設、コンクリート混合のバッチャープラント、セメントサイロ、砂利、砂の篩い分け、これを運搬するベルトコンベヤー等の準備工事が昼夜を分たず突貫に突貫を重ね続けられている。
 春、夏、秋、冬、峡谷にこだまするハッパの轟音と重機械類の金属的な作業音とは美くしく調和され力強い建設譜となつて、ダム完成の日まで奏しつづけられるであろう。 (第一部終り)

飯田心美

 岩波がつくった色彩版の「佐久間ダム」第一部、第二部があるだけに英映画社のこの白黒版は外見では非常に地味な感じをうけるが見てゆくうちに色彩版とはまた全然ちがった魅力があふれていることがわかり巻のすゝむにしたがつて次第にひきつけられてゆく。その魅力とは一口にいうと人間味の点出ともいうべきものでキャメラがとらえた情景のひとつひとつにそれがにじみ出していることである。たとえば画面のはじめの方で本工事に着手するに先立つ事前工事が紹介されるが、このくだりがまず観る者のこゝろをとらえる。それまで野猿の群棲地となつていた天龍の峡谷に建設班が第一の足場を下ろす。山を越え、けわしい断崖をさかのぼる。労務者の一団が世帯道具を肩にかつぎ家族をつれて道なき山奥にわけ入る。その人々が現場に腰をすえるためのバラック小屋が山林の一部を切りひらいて作られてゆく。このくだりを見ているとやはり世上話題となつているこの大工事が残らず機械の力だけでは仕上げられたものでないことがまざまざと印象づけられる。こうした個々の人間の汗とアブラの匂いは篇中の随所に出てくる。あるときには増水期をむかえた工事現場の人々の焦燥とためいきまで描き出される。この人間臭い味がこゝでは大きな特色であり、迫力なのである。そしてそれがかえつて白黒版であるために素朴な力強さをもつてわれわれにせまるのである。色彩版で天龍の峡谷を刻々に変貌していつた機械力の凱歌を知つたわれわれは、この白黒版では機械力をタテに大自然と斗いながらもその仕事の合間にチラリと影をみせる人間の労苦の跡を胸にきざみつけられる。それが時として劇的な感銘さえ起させる。工事進歩の事務的紹介だけで終らないすぐれた記録映画だといえるのもそのためであろう。

(映画評論家)

落合嬌一

 この建設記録に一、二部に分れて映画館に上映された「佐久間ダム」とは別個の昨日であるが、佐久間ダムのせきの基礎工事が始まるまでmp,工事のための道路の建設や、橋の架設、列車を通ずる鉄橋の建設から、天龍川の水を流すトンネルの穿掘など、大がかりな作業の全貌がよく捉えられた迫力のある作品である。教育映画祭でも、専門審査員の間では、特殊の作品である「教室の子供たち」以外では、PR作品などを含む一般部門で、天然色の大がかりな作品などをしのいで、最も好評だつたものである。
 巨大な機械力で、たちまち崖が崩され、山がうがたれ、川がうずめられ、立派な道や鉄橋などがどんどん作られて行くのは誠に盛観である。建設事務所が設けられ、工事関係者の住宅も立てられて、峻しい道を家財を背負つて引越して来る家族の姿などには、やはりそこに生活がうかがわれて機械力を駆使して自然にいどむ人間の姿に強く心をひかれるものがある。天気予報を気にしながら計画をすすめるあたりや、洪水で工事を中止しなければならなくなるあたりには、巨大な機械の力がありながら、やはり自然の力のより大きいことが感ぜられ、それに順応しながら剋服して行かねばならぬ人間のいとなみを考えさせられるのである。
 五巻の長さにいろいろな工事を盛り沢山にとり入れて、あまり混雑も来たさず、機械力や人間の仕事の迫力を充分に出しながら、工事が着々進められて行く有様を手ぎわよくまとめて、立派な道路や橋が出来上がって開通する場面などに、ダム工事の規模の大きさ、巨大な機械力の威力、機会を駆使する人間によつて征服されて行く自然のすがたなどが、眼のあたりに見られ、新しい知識と感動の得られる作品である。

(新宿高等学校々長)

Aカメラマンの手記から——

✕月✕日
 ダムサイトへの工事用道路が、幾十丈とも知れぬ岸壁の中腹をぬつて突貫工事がたけなわである。覆いかぶさつた岩山の一部が、時々ドドド ザーッ とくずれ落ちる。下では蟻のような人間の動きがたゆみがない。
 あっ あぶない! 今日も三人の尊い犠牲者が出た。あまりに尊い犠牲者だ。

✕月✕日
 天龍がその流れを変える歴史的な日である。バイパスの通水口爆破を撮ろうとして対岸二百米を離れて数社のカメラ陣がその砲列をしいた。サイレンが鳴つてダーン、物凄い地ひびきだ。あっ あぶない! 間髪を入れずにM社のスピグラがくちやとつぶれた。アイモの望遠レンズがへし折れた。然しキャメラマンは尚機械をしつかり握りしめて離さなかつた。
思えば機械が身代りとなつてくれたのだ。

✕月✕日
今日は四トン爆破の日である。左岸のケーブルクレーンの基礎を作るための爆破である。右岸上流からパルボで一五〇ミリ望遠レンズ、顆粒からアイモキャメラ、そうしてもう一台が対岸の真正面、茲は危険区域のため全部退避が終つたあと爆破五分前に、あらかじめきめた近道をひた走つてキヤメラを構えたのである。ダーン! 物凄いなだれだ。幾万立方米の土砂のなだれは二百米の川底に向つて、恰度ハイスピードでも観る様に落ちて行つた。と思う間もなく対岸に向つて猛烈にふき上つてまたキャメラにまともだ! 物凄い旋風だ。砂塵が、つぶてがキャメラと体にぶつかつて来る。やがて視野が真暗になつた。

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