「ズーズーダンス」衣装の最低ライン

4月から「おかあさんといっしょ」で始まったダンスコーナー「ズーズーダンス」。
NHKに問い合わせたところ、「動物の動きをマネすることを通して、動物のことを知ったり、動物について想像する心を育てる」というテーマのダンスで、“ズーズー”というのは「動物園(ZOO)」からの発想でつけられたタイトルだそうだ。

このコーナーについて、視聴者の間で賛否両論が巻き起こっている。
ゆったりと動く前作「デ・ポン!」に比べテンポの速い激しい振付はなかなか格好が良いのだが、「コドモが真似できない」「かけ声が聞き取れない」といった批判もある。
前任者のタリキヨコ(現・きよこ)の番組登場当初の落ち着きぶりを思い出せば、今のいとうは表情が堅く、まだ発声がマイクに今ひとつなじんでいないと感じられることもあるが、その初々しさは、なんでも巧みにこなしていたタリとはまた一味違った愛嬌がある。

4月第2週に「およぐきりんさん」というテーマから始まった「ズーズーダンス」は、「きりんさんのおかいもの」「よわむしなきりんさん」とキリンシリーズが3作オンエアされた。
確かにテンポが速い。テンポが速いことに加え、脚を高く上げたり首や胸を中心にリズムをとる難易度の高い振付は、オトナでもおいそれとは真似できない。
しかし、それを言ったら「デ・ポン!」の首を左右にカクカク動かす振付やバリ舞踊風な動きだって結構難しかったではないか。
タリが最初に出演した1999年春のファミリーコンサート。タリは番組内での振付とは違うスペシャルバージョンの「デ・ポン!」をコドモ抜きでたっぷりと踊ったのだが、コンサートのエンディングで「みんな、早くデ・ポン!を覚えてね」などと言うもんだから、「番組と振付が違う上にこんなに難しい踊りをどうやって覚えればいいんだ!」と心の中で激しくツッコミを入れたのを覚えている。

5年間毎日放送していた「デ・ポン!」だが、最後までタリの動き通りに踊っていたコドモはいなかったと思う。おおまかに真似していただけである。
だが、それでいいのだ。おねえさんの鮮やかなダンスを真似して身体を動かすだけで楽しかっただろう。
「ズーズーダンス」とて同じこと。おねえさんのキレの良い激しい動きをそっくり真似できなくたって、視聴者は充分楽しい。

となると、何がいけないのか。「デ・ポン!」登場当時に比べ、「ズーズーダンス」に対して否定的な意見が多いのはなぜか。

それは、衣装なのではないだろうか。
シンプルなトレーニングウェアで踊っていた「トライ!トライ!トライ!」から「デ・ポン!」に替わった時、“「おかあさんといっしょ」の体操・ダンスのおねえさん”の概念を打ち砕くようなゴージャスなデザインの衣装と凝ったヘアスタイルに度肝を抜かれた。
派手なこしらえでバリ舞踊のダンサー風に神秘的な表情で踊るタリに、「これから斬新なダンスが堪能できるのではないか」という期待がふくらんだものだ(まさか5年もの長い間「デ・ポン!」一筋になるとは予想できなかったが…。ジャズダンスの素養があるというタリの「デ・ポン!」以外のダンスコーナーも見たかった!)。

一方、「ズーズーダンス」のいとうの衣装は、一見“ちょっと派手なトレーニングウェア”という感じであった。
この“ちょっと”というのがポイントである。
トレーニングウェアにもあるいは部屋着にすら見える“派手”でも“シンプル”でもない中途半端なデザイン。

ダンスのテーマ「きりんさん」にちなんで、キリン風の菱形の模様がデザインされてはいるものの、それも「よく見りゃキリンに見えないこともない」程度である。
一緒に踊るコドモの頭にはキリンの角のカチューシャか帽子がかぶせられているが、いとうは衣装の色に合わせたレースの髪飾り。いっそキリンとハッキリわかる髪飾りや帽子にでもすれば良かったものの、これもなんだか中途半端である。

見た目は大事である。
もし、一目見てキリンとわかるようなクッキリとしたデザインや、キリンの住むアフリカ風の原色を使った鮮やかなデザインの凝ったこしらえで登場していたら、もう少し好意的な意見が増えていたのではないか。
5年間続いた人気コーナーの後釜として登場した「ズーズーダンス」。どうして、視聴者が「カワイイ」「オモシロイ」と思うようなインパクトのある衣装にしてあげなかったのか残念でならない。

さて、5月に入り、新しいテーマ「くいしんぼうなりすさん」が登場した。
今回の衣装は、リスのイメージとは全く関係のない濃いピンクがベースだ。
胸元の黄色いフリルとピンクのコントラストが鮮やか。背中から尻のあたりにかけて黒いヒラヒラが垂れ下がっているのも可愛い。これはリスのシッポのイメージであろうか。

キリンの次にリスというのには意表をつかれたが、この衣装を見ていとうがますます気の毒になった。
どうして、この衣装を先に出してあげなかったんだろう。このくらい華やかな衣装なら、視聴者の印象だっておおいに違っていたはずだ。
とはいえ、長らく「デ・ポン!」を見慣れた目には、まだまだ地味に映る。

このピンクの衣装は最低ラインである。
動くたびに金や銀の鱗が輝くゴージャスなヘビとか、真っ白なファーでこしらえたミニドレスのウサギとか、色鮮やかな大きな羽根を背負うクジャクだとか、「ズーズーダンス」のビートの効いた曲調に負けない、もっともっと派手な、もっともっとインパクトのあるデザインが見たい。
たとえば、最初がこのリスのピンクの衣装で、さらに赤だの青だの金だの銀だのといった華やかな衣装が続き、その合間に白(あるいは黄色)のキリンの衣装が登場していたら、「このシックな衣装もなかなかいいじゃないの」ってな感じになっていたんじゃなかろうか。

ともあれ「ズーズーダンス」は始まったばかりである。
繰り返し言おう。リスのピンクの衣装が最低ラインだ。
今後、我々がビックリするようなインパクトのあるキュートな衣装が続々と投入されることを望んでやまない。

視聴者の意表をつくことには定評のある「おかあさんといっしょ」スタッフのこと、きっと我々が想像もしないようなナイスな衣装を用意してくれることだろう。
いつかいとうが番組を卒業する時、登場当初のビデオが流れ、「そういえば、ズーズーダンスってこんな地味な衣装だったっけ」「こんなシンプルなデザインもかえって斬新だよね」などと懐かしく思い出す日が来ることを祈りたい。【み】

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